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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Unveiling――お披露目
134/140

上層

 ウノとシュテルンは、門を潜り、ダンジョンの中に入った。

 風の精霊が二人の側を通り抜け、外へと出て行く。

 以前はダンジョン全体に湿気が籠もりがちだったが、精霊のお陰でずいぶんと風通しが良くなっていた。

 もちろん精霊だけではなく、時折浮遊している霧状モンスターであるミストが水気を吸収してくれているというのもある。

 岩壁にはウィル・オー・ウィスプと融合したスライムが合体し、白い光を放っている。

 それも、一体だけではなく複数体だ。

 お陰で、通路全体を楽に見渡せるほどの明るさだ。


「最初は、昼間でも灯りが必要なぐらいだったんだよな」

「洞窟ですからねえ」


 今、ここにいるスライム達がいなくなったら、完全な真っ暗闇とまではいかないまでも、相当に薄暗くなっているだろう。


「それを考えると、ずいぶんと進歩したもんだ」

「地面も(なら)されましたしね。もっとも、以前の私は主様の肩の上でしたが」

「参拝に来る人が躓いても、困るしなあ」


 ウノ達は洞窟を進む。

 その地面はなだらかで、凹凸はない。

 最初の頃は自分達で岩や石を丹念に取り除き、精霊達が活性化し始めてからは土の精霊や土小人(ノーム)もそれに協力してくれた。

 その甲斐もあって、今では車輪のついた台車も押して進めるほどだ。


 第一部屋は、左右に仕切りが作られている。

 丁度中央を縦断する形で、中層へ進むための通路となっている為だ。

 つまり部屋が左右に分割されてしまった形になるが、それでもスペース的にはそれなりに余裕があるので、警備担当の詰め所としては、充分だ。

 片側が控えの部屋となっており、もう一方はシフトの管理表が置かれていたり、会議用の部屋として使われている。

 ただ、ダンジョンの関係者全体の会議を行うには手狭となってしまったので、これは中層の部屋を使うこととなった。

 そして通路をさらに進むと、中層へ下る階段が見えてきた。

 元々は隠し通路だったが、隠す意味がないのでむしろ拡張した。

 階段は中央が緩やかなスロープで、左右がなだらかな階段になっている。

 そしてそのスロープを、子供達が笑いながら駆け下りていた。

 スピードが出るのが楽しいのだろうが、さすがにウノも管理者として注意せざるを得ない。


「おおい、あんまり無茶やって転んだら、ゼリュ母さんから拳骨食らうぞ」

「うわぁっ!?」


 急に声を掛けられ、男の子がそのまま階段を転げ落ちた。

 しばらく転がる音が続き……やがて、壁にでもぶつかったのだろう、重い音がして、静かになった。


「おおい、だいじょうぶかー!?」

「なんか、すごい音、したぞ!?」


 仲間らしき子供達が、急いで階段を駆け下りていく。


「あー、目ぇ、回してらー」


 からかう声が聞こえてきたので、大事には到っていないようだ。

 ウノは、シュテルンを見た。


「……今のは、俺が悪いのかな?」

「主様が悪い訳はありません。あの子達があそこで遊んでいたのが、悪いのです」

「にゃあ、旦那の失敗をちゃんと指摘するのも嫁の務めなのにゃあ。締めるところは締めるのにゃ」


 空間転移で出現してきたバステトに、シュテルンが白い目を向けた。


「……神、唐突に話に割り込まないでもらえますか? あと、妻としての心得は、有り難く受け取っておきます」

「にゃあにゃあ。それよりも、もうじき参拝客が来るから、子供達は余所にやっとくのにゃあ」

「だな」


 ウノは階段を下り、子供の様子を確かめた。

 とりあえず涙目ではあるが、大した怪我ではないようだ。

 念のために、神官達の詰めている部屋に行くよう指示し、ウノは再び上層に戻った。

 二つ目の部屋は薄暗くなっていた。

 スライムがいないのではなく、活動を停止しているのだ。

 この部屋は、ゼリューンヌィ達ゴブリンズの寝室兼居住区だ。

 ……そして、部屋からは、小さな寝息が響いていた。


「……寝てるか」

「寝てますね」


 今、休んでいるのは……リユセとアクダルのようだ。

 これがヴェールだと、大変いびきがやかましいと、よくゼリューンヌィに蹴飛ばされている。


「じゃあ、そのままにしておこう。一仕事した後だろうし、用もないのに起こすのも悪い」

「ですね」


 なお、グリューネは雌である点や神官職である事を考慮し、もうかなり前から中層の神官部屋で寝泊まりをしていた。

 この先は倉庫であり、特に用事もない――と、後ろで剣呑な気配がした。


「おい、そこで――」


 その荒っぽい声が響き渡る前に、ウノは相手の背後に回り込み、口を手で塞いだ。


「静かに。俺だ」


 ウノ達に誰何しようとしたのは、骨と皮だけのような男だった。

 元騎士団所属で、名前をペガル・パテアルという。

 ダンジョンを襲撃した強鬼(ハイ・オーガ)の一体だが、イーリスが薬を抜いて、人間に戻った。

 ただ、副作用のせいか、おそらく元は屈強だった肉体は、その筋肉を全部削がれたような細身となってしまい、力も相当落ちてしまっている。

 イーリスに言わせると、ちゃんとご飯を食べれば、その内元に戻るらしい。

 ウノが手を離すと、ペガルは申し訳なさそうに頭を下げてきた。

 平服なので、今は非番なのだろう。


「お、大親分でしたか……」

「単に散歩がてらの見回りだよ。そんなに身構えることはない」

「へ、へい」

「なので、静かにな」

「分かりました」

「ここには、慣れた?」

「まだ何とも。けど、手応えはありますね。大親分とか姐御とかアセラン様とか。あと、飯が旨い」


 ペガルはダンジョンを荒らした罰として、無給で働いている。

 担当は主に警備だ――もちろん、休憩や三食の食事はちゃんとある。

 最初は反発していたが、ダンジョンの実力者上位チームによる『説得』で従順になった。

 もっとも、身体がこんななので、勝つことはそれほど難しくもなかったが。

 本来は、肉体のスペックを活かしたパワー主体の攻めを得意としていたようで、今はその持ち味を引き出すことが出来ず、四苦八苦している。

 今のペガルと訓練でいい勝負になっているのは、リユセやアクダルである。


「分かりやすい感想をありがとう。まあ、まだしばらくは本調子が出ないと思うけど、仕事の方は務めてもらうぞ」

「はっ!!」


 ビシッとペガルは敬礼した。


「……何でそれが出来るのに、騎士団追い出されるかなあ」

「いや、それはまあ……オレ様、じゃない、オレの見識が狭かったという事で」


 照れくさそうに、ペガルは頭を掻いた。

 バステトは以前、「典型的な体育会系なのにゃ」と言っていたが、タイイクカイケイとは一体何なのか、ウノにはよく分からない。

 くい、とシュテルンが、ウノの裾を引いた。


「主様、あまりここで立ち話をしていると、リユセ達が起きてしまうかもしれません」

「お、おう。それじゃ、またな」

「はいっ」

「ですから、声が大きいです」

「す、すいやせん!!」


 静かにシュテルンが窘めると、ペガルは慌てて一礼したのだった。

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