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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Unveiling――お披露目
133/140

洞窟前

 騒々しい祭というか破壊工作を迎撃してから数日。

 新しい住人も増えたりしたが、日常が戻りつつあったそんな朝。


「お、ユリン。おはようさん」

「やあ、家主様、おはようございます」


 散歩をしていたウノと、やや後ろに控える有翼人のシュテルンが洞窟前の広場に戻ると、入り口の見張り役であるユリンが立っていた。

 洞窟を出る時にはリユセとアクダルがいたので、ウノ達が散歩中に交代したのだろう。


「ふむ、早朝デートですかな」

「……いや、そういうのじゃないから。単に、時間まで暇を潰してただけだし」


 早朝に目が覚めたので、周辺をぶらりと歩いていただけだ。


「おはようからおやすみまで、私と主様はいつもデートのようなモノですから」

「俺の私生活って、お前の中じゃそういう事になってんの!?」


 などとやり合っていると、少しずつ、周辺の家からも人が現れだした。

 主に子供が多い。

 洞窟前は区画化され、立派な家も少しずつ建ってきている。

 今は、テノエマ村までの道を拓いて、通りやすくする作業が進んでいた。


「にゃあにゃあ、朝から元気だにゃあ。気合い充分なのにゃ」


 ダンジョンの主神であるバステトも、空間転移で出現してきた。


「別に気合いは入れてないから。毎回そんなのやってたら、俺の身がもたないから」

「にゃー、ずいぶんと人が集まって来たのにゃあ。盛況盛況」


 バステトは嬉しそうに、尻尾を揺らした。

 大体三〇人ほどだろうか、ゴブリン、コボルト、オーク、オーガ、森妖精に山妖精、蜥蜴人(リザードマン)……の大半が子供達、ところどころに大人が混じっていた。

 皆、一様に首から線で三〇ほどの枠を組んだカードを下げている。

 それはウノとシュテルンも同じだ。


「ところで神様さ、前から聞こうと思ってたんだけど『らぢお体操』って何なのさ。体操は分かってるんだ。らぢおの方」

「にゃあ、念話や天啓みたいなモノなのにゃ。深く気にしちゃ駄目なのにゃよ。はい、スタンプにゃ」


 ウノがカードを差し出すと、バステトが小さな手をカードに当てる。

 ……どういう仕組みか、カードの枠内に小さな肉球マークが記される。


「まだまだ、先は長いですね」


 肉球スタンプは、まだ三つしかない。

 当然だろう、このらぢお体操が行われるようになって、まだ三日しか経っていない。


「にゃあ、特典は温泉無料なのにゃ」

「俺、それあんまりありがたみないんだけどなあ」

「主様はさすがに、普段から無料ですからね」

「にゃあー、一日完全オフとかどうにゃ」


 バステトの提案に、ウノは肩を竦めた。


「それ無理。ここにいる限り、絶対毎日、誰かが何かやらかすし」

「ある意味、退屈とは無縁の日常ですね」

「日々、何らかの変化があると言うことですな。良いことなのではないでしょうか」


 シュテルンは苦笑いし、ユリンはどこまでもポジティブだ。


「ウノっちは大丈夫にゃけど、繊細な人だと頭の毛が可哀想なことになるレベルなのにゃあ」


 シュテルンは、空を見上げた。

 太陽は完全に姿を現し、それまで薄らと残っていた月も消えていく。


「そろそろ時間ですね」

「ごぶ~……」


 寝ぼけ眼というか、船をこいでいるヴェールの頭を、ゼリューンヌィがバシバシと叩いていた。

 非番のゴブリン組だ。


「ヴェール、しっかり起きるごぶ。夜ふかしするからごぶ」


 そしてその後ろについて歩いているのは、ゼリューンヌィが世話をしている孤児達。

 その中でも目立っているのは神官服を羽織った子狸の獣人、クレルだ。


「眠気覚ましには、身体を伸ばすといいそうですよ」

「それはいい事を聞いたごぶ」


 ゼリューンヌィはヴェールの頭を右手で鷲づかみにして持ち上げ、左手は揃えた足を握り上下に伸ばした。


「ご、ご、ごぶ~~~~~!?」

「あ、や、そ、そういう意味ではありませんよ!?」


 自分の発言がとんでもない展開になり、クレルが慌てていた。

 後ろでは、子供達が笑っている。

 それを眺め、うむとユリンがただでさえ細い目を、さらに細めていた。


「あれはあれで、馴染んできてますなあ」

「いや、止めろよ!? ヴェールの身体が伸びちまうだろ!?」

「お供します、主様」


 ウノが駆け出し、その後をシュテルンが追った。




 らぢお体操も終わり、バステトのスタンプをもらった子供達が各々の家へ戻っていく。

 ウノは耳を澄ませ、意識を森の向こうにやってみた。

 森の入り口付近には、いくつかの天幕が張られ、朝食の準備が行われていた。

 神殿に詣でる人達だ。

 それに隊商もいて、護衛もついていた。


「天気がいいし、今日もお客さんは多そうだなあ」

「本物の神様がいる神殿ですからね」

「……そもそも、別に神殿を造る予定でここ、買った訳じゃないんだが」


 ウノとシュテルンが話していると、髪を三つ編みにした少女が近づいてきた。


「おはようございます、ウノさん!」


 ギルドの受付嬢、レティだ。


「……冒険者ギルドもな」

「はい?」

「いや、何でもない」


 冒険者ギルドと役所の出張所も、先日から洞窟前の建物の一つに用意されていた。

 バステト達が言うには、国からの要請なのだという。

 まあ、便利だし、ウノとしては特に反対する理由もなかったので、受け入れることにしていた。


「おはようさん。何か足りない素材とか、あるか?」

「切羽詰まったモノはありませんね。あ、でも中の神官の方達から、薬品を作るための素材が足りないのでと依頼がありました」

「ああ、あそこは最近新しい人達が入って、熱心ですからね」


 何でも教会で働いていたが、直属の上司がいなくなり、行き場がなくなった者達なのだという。

 顔を布で覆っている、変な連中である。

 どうにも訳ありのようだったが、バステトやカミムスビが保証するというので、働いてもらっている。

 イーリスの技術に感銘を受けたのか、よく一緒にいて話し合っているのをウノも見かけていた。

 あと、何故かその話し合いに、子狸クレルも参加しているが、アレは一体何なのか。

 とにかく、素材が足りないという話だったか。


「ん、了解。後で確かめる。まあ俺が忙しかったらゼリュかユリンをよこすよ」

「はい、お待ちしてます!」


 レティも出張所に戻っていき、再びシュテルンと二人に戻った。

 とはいっても、周囲には仕事を始めようとする大人達が忙しなげに行き来し、子供達もその手伝いにと後ろをついていく。


「よくもまあ、こんな風になったもんだ」

「最初は、ただの空き地でしたからね」


 それが今や、こんなに賑やかだ。

 ウノが洞窟に視線を向ける。

 確か、この辺りで、中にいるゴブリン達――すなわちゼリューンヌィ達を観察していたのだ。

 そこには、壊された柵が散らばっていた。

 それが今では鉄の門が設けられ、見張りが立っている。

 そろそろ終わりです。

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