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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
127/140

空飛ぶ祭壇

 祭壇が、青く淡い燐光を纏い始める。

 大地の揺れの発生源は間違いなくこの祭壇であり……その土台が、音も無く地面から離れた。

 揺れはなくなるが、祭壇からは波動としか呼びようのない不可視の力が発生し続け、さらに上昇していく。


「話では、何度も聞いてたけど……こりゃあ」

「すごい、ですね」


 ウノとシュテルンも呆れるしかない。

 下層に集まった者達、すなわちこのダンジョンとその周辺の住人のほぼ全員が、阿呆みたいに口を開け、やはり祭壇を見上げていた。

 しかもこの台形型の建造物は、ただ浮くだけでは終わらない。


「動くのかよ、これが……」


 バステトから事前に聞いていた話であり、ゆっくりと天井を目指しながら、大きな石の部品一つ一つが組み替えられ、別の形へと再構築を開始する。


「にゃー、みんなの祈りと、三百年前から力を蓄えられた魔石が奇跡を生むのにゃ」


 燐光に照らされながら、バステトが言う。

 そこまではよかった。


「雑な言い方をすると、エネルギーがあれば動くのにゃ」


 にゃ、と猫口を作りながら言うバステトであった。


「本当に雑に言うと台無しだな!!」

「しかしまー、造った奴からは聞いてたとはいえ、本当に動くとなると、ウチキもちょっと感動しちゃうのにゃあ」


 知識として知っているのと、実物を見るのとでは違うという感覚は、神でも同じのようだった。

 うんうん、とユリンもしきりに頷いていた。


「そうですなあ……たった百日で造られたモノとは思えませんなあ」

「にゃー」


 大分、昔(※三〇〇年ほど前)の記憶を取り戻しているようだが、それはさておき。


「昔の建築士って、バケモノか何かだったのか?」


 そう思うしかない、ウノだった。

 どんな魔法を使ったらこんなモノ、そんな短期間で造れるのだ。


「バケモノというのはある意味、間違ってないにゃあ。どうせなら動く姿も見せてやりたかったにゃあ」




 さて、浮遊し続ける祭壇だが、このままではいくら天井が高いと言ってもぶつかってしまう。

 しかしこの天井には、そこが開いて天窓となるギミックが仕込まれていた。

 一見すると、一筋の裂け目に見えるそれが、少しずつ開かれていく――問題があるとすれば、位置的に真上は湖となっており、溜まっている水が下層に降り注ぐという点であった。

 だが、滝のように流れ落ちてきた大量の水は、祭壇の燐光に触れるとその勢いを弱め、霧のような細かい粒子へと変化していく。


「また湿気が増えそうな……」

「家主らしい、生々しい感想にゃあ」


 だが、ウノの懸念は妥当なモノだろう。

 いくら細かい粒子になろうと、水分である。

 このままでは、下層全体が湿気ってしまう。


「しかし大丈夫のようですよ。風乙女(シルフ)水乙女(ウンディーネ)達が、散らしてくれているようです」


 なるほど、シュテルンの指摘通り、精霊達が何体も祭壇の周囲を巡り、水の粒子を祭壇裏、すなわち温泉のある方へと運んでいく。

 そこではより多くの精霊が集い、湿気を外に出すようにしているので、ウノが気にしていた問題も解決されるだろう。

 そして完全に開ききった天窓から、祭壇は夜空へ向かって、さらに高度を上げていく。


「不満点があるとすれば、この後を見られないって点かなあ」

「ふふふ、抜かりはないのにゃ、ハツネ、タンク!!」

「シャー!!」


 スゥッと現れたのは、トラップスパイダーのハツネであった。

 その後ろからのっそりとついてきているのは、鎖キャタピラーのタンク。

 ハツネが前脚(?)を振ると、バサリと大きな白い(スクリーン)が広い下層の左右を横断するように広げられた。

 これはまた、作るのにすごい労力だっただろう。

 左右の端で、幕が垂れないようにピンと張っているのは、タマハガネスカラベのカーメンとミスリルスカラベ達だ。

 しばらくすると、下層を照らす光量が落とされた。

 そして、白いスクリーンには、高みから大地を見下ろす視点で、広大な風景が映し出されていた。

 手前には森、そこからは平原に街道が線を引き、ポツリポツリと林があって、ずっと遠くに少しだけ灯りが見えるのは城下町オーシンだろうか。


「巨大スクリーンによる、空飛ぶ祭壇からの視点なのにゃ」


 おおーっと、スクリーンに見入りながら、周囲の異種族達が感嘆のため息を漏らしていた。

 ただ、一部では冷めた目もあった。


「あまり新鮮みがありませんね」


 シュテルンである。

 そりゃあ、高いところからの風景など、珍しくもない。


「鳥類にはそうかもしれないけど、飛べる人間はまだこの時代にはほとんどいないのにゃ!?」

「しかしまあ、俺達は事前に聞いてたからまだいいモノの……()()()はさぞかしビックリするだろうな」

「……しかも、今頃、空中で()()姿()になっているのですよね」


 ウノとシュテルンが話している間にも、祭壇からの視点は少しずつ移動し、森を出た辺りで高度を下げ始めた。

 月と星、それに祭壇が放つ青の燐光で地面は照らされ――そこにいた数百人の騎士達が唖然とした表情で、こちらを見上げていた。




 部下の報告を聞くまでもなく、ダンジョンのある方角から巨大な物体が飛来してくるのはオーネストも確認していた。

 少し前、圧倒的なモンスターの群れの襲来に戦意を挫かれるも、何とか精神的に持ち直したばかりだ。

 オーネストは騎士、すなわち軍人である。

 戦えというのなら戦うし、勝算が少なかろうがやはり剣を執るが、勝算のまったくない戦いには挑まない。

 自分だけならまだしも、部下の命も預かっているのだ。

 勇敢と蛮行は違うのである。

 仮に、仮にだ、あのモンスター達と戦ったとする。

 その戦場でもし万が一勝てたとしても、そのあとモンスター達は城下町まで侵攻する可能性があった。

 内部で工作しているはずの、四人の『別働隊』との連携どころではない。

 事は、現場指揮官であるオーネストの一存で対処出来る範疇を超えている。

 なので、モンスター達が通り過ぎた後、すぐに伝令を城下町(オーシン)に向かわせていた。

 現在は、待機状態にある。

 予定を変更して、天幕も張らせていた。

 それなのに、新たな敵と思われる存在の襲来だ。


「……?」


 オーネストは、月を背に青く輝くその物体に、どこか違和感を感じた。

 違和感と言うよりも既視感か。

 どこかで、見覚えがある形をしている、気がした。

 より近づいてきたそれの形を認め、オーネストは気がつくと跪いていた。


「……嘘、だろう?」


 呟くオーネストの周囲でも、同じようにドサリドサリと音を立て、その場に崩れ落ちている。

 あちこちに剣や弓が捨てられているが、それをオーネストが責める事はなかった。

 否、むしろそれを頭上の『アレ』に向ける事こそ、許される事ではない。


『――このような夜分まで、大義である』


 頭に、声が響く。

 声の発生源は、オーネスト達の頭上にあるその存在。

 ――すなわち、超巨大な創造神カムフィスの神像からであった。

 以前、天窓の向こうか池と書きましたが、湖に変更します。

 何か作ったモノか自然物かの違いらしいですねー。

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