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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
126/140

戦い終わって

 その場に倒れ伏す、強鬼(ハイ・オーガ)

 沸き立つ歓声、ハイ・オーガの顔からは粘動体(マルモチ)が離れ、ウノに飛びつくと、青い上着に擬態する。


「勝者、ウノっちにゃー! ウチキも大もうけなのにゃー!!」

「いや、それはない」


 ウノは、大喜びのバステトに水を差した。


「にゃ?」

「勝ったのはマルモチだし、そもそもこれだと、俺対ハイ・オーガじゃないだろ。なら賭け自体が成立しないんじゃないか?」


 そう、バステトはさながら一対一の勝負のように宣言していたが、実際には二対一。

 これはフェアではない。

 もちろんウノの責任ではないので、自身は一切反省はしていないが。

 ただ、看板に偽りありなのには、違いないだろう。


「にゃ、にゃにゃにゃ……するとウチキの儲けは……」

「だから言っただろ、全部ご破算だって。まあみんな払い戻しになるだけだし、大目に見てくれよ……って、どうした?」


 不意に、ウノの身体に影が差した。


「にゃあ、後ろなのにゃあ!!」

「グアアアアア!!」


 想像を上回る回復力で強鬼は甦り、ウノを背後から襲おうとしていた。

 これをウノは迎え撃とうと、腰を落とす。

 が――


「主様に何をするのですかっ!!」


 ――途轍もない威力の蹴撃が横っ面に炸裂し、ハイ・オーガは吹っ飛んだ。

 何匹かの観客を巻き込み、壁にめり込む。

 今度こそ、完全に気絶したが、念には念を入れようと、ゴブリンやコボルトがトラップスパイダーの粘糸を織り込んで作ったロープで縛っていく。

 それはさておき、奇襲を仕掛けたのは、十四、五歳の少女だった。

 有翼人らしく、銀色をしたおかっぱの髪と同色の羽が背中から生えており、その色にウノは見覚えがあった。


「……シュテルン?」

「はい、城下町(オーシン)から全速力で戻って参りました貴女の相棒()、シュテルンです」


 誇らしげに名乗るシュテルンの、小さな丸眼鏡が光った。


「突っ込まないぞ」

「それは、了承して頂けたという解釈でよろしいのでしょうか?」

「してねえよ!? 中身は変わらず超ポジティブかっ!?」

「にゃはは、ウノっちはツンデレだにゃあ」


 一瞬緊迫を孕んでいた下層に、再び賑やかさが戻ってくる。

 ウノ達の中に駆け足で割り込んできたのは、仔獅子の耳と尻尾を持つ幼女神、イシュタルだった。


「ちょっとちょっとほのぼのしてるところ悪いけど、まだ事は済んでないのよ。寸劇(コント)かますのなら、その辺終わってからにしなさいよね」

「にゃあ。そうそう、他の強鬼(ハイ・オーガ)もひとまとめにしちゃうのにゃあ」


 ちょうど、バステトの意見を見計らうかのように、大階段からゴブリンやコボルトらが強鬼を担いで下りてきた。

 全部で三体、全員が丸太に括られ、気絶していた。


「こちら、中庭から持ってきました」

「我らは裏通りから」

「やあ、家主様も壮健のようで何よりですな」


 アルラウネのイーリス、新参の鬼神である仔牛(アスラ)、そして甲冑姿のユリンも下りてくる。


「……ユリンを見ると、久しぶりというかさっきぶりというか、すごい微妙な気分になるな」

「ははは、家主様、そんな風に見つめられると照れてしまいますぞ」


 ススス……とユリンに近づいたのは、シュテルンだ。


「ユリン、立ち位置をちょっと入れ替えませんか」

「おお、これは新顔……ではないようですな」

「シュテルンだ」


 ウノが教えると、ユリンはポンと手を打った。


「おおっ、ついに本懐を遂げられましたか」


 また寸劇を始めたウノ達に構わず、イシュタルはイーリスに近づいた。

 そして、気絶した強鬼達を見下ろす。

 シュテルンに吹っ飛ばされたハイ・オーガも並べられ、四体となっていた。


「はいはい、イーリス、コイツら元は人間だったみたいだけど、治せる?」

「薬の残りがあるようですから、解析すれば何とかなると思いますよ。ただ、ちょっと時間は掛かりますね」


 イーリスの手には、薬瓶の欠片があった。

 わずかに薬の雫も残っており、調べれば解毒薬も精製出来るだろうというのが、イーリスの見立てらしい。

 イーリスが無理でも、草木の神であるタネ・マフタもいるのだ。

 本来なら医神の手が欲しいところだが、まあ何とかなるだろう。


「さすがにすぐにやれなんて無茶は言わないわよ。出来るなら、それに越した事はないけどね。じゃあ、それまでは……っていい加減、こっちの話に加わりなさいよバステトっ、このダンジョンの主神でしょうが!!」


 イシュタルが、バステトの耳を引っ張った。


「にゃああっ! 耳は駄目なのにゃあ!!」

「それで? 祭は開かれてる。時間的に人間のお客さんが来る事はないけど、中庭にはアルテミスが呼び寄せた、百鬼夜行(ワイルドハント)が待ち構えているわよ」

「にゃー、そうにゃあ。()()をやってる間に、壊された屋台や道具を撤去するのにゃ。それと残っている作業を終わらせちゃうのにゃ」

「聞いたわね。それじゃ撤去班はもう動いて。中庭は――」


 イシュタルの指示に、周囲の異種族達が忙しそうに動き始める。

 そして彼女の視線を受けたイーリスが、小さく頷いた。


「現在は、タナマフタル様が応対をして下さっています」

「そ。ならそっちは何の心配もないわね。じゃあ、ちゃっちゃと残ってる準備も終わらせるわよ。各担当、分からない事があったら、バステトに聞く事。どんどんこき使っちゃっていいわよ」

「にゃあっ!? イ、イシュタルはどうするのにゃ!?」


 ふぅ……とイシュタルは、バステトを見た。


「アタシはあちこち動き回る現場指揮官。アンタは本部でどっしり構える総監督。お分かり?」


 イシュタルに指を突きつけられ、バステトが後ずさる。


「にゃ、にゃー……超仕切られてるような気がするのにゃあ」

「気に入らないなら、いつでも代わってもいいわよ? ……やれるもんならね」

「にゃあっ!? お任せするのにゃ」


 獅子対猫の勝負は、獅子の圧勝のようだった。

 さて問題は、戻っていきなり戦って、そして暇になったウノである。


「俺達はどうすればいい?」


 イシュタルは肩を竦めた。


「マスターもシュテルンも、長旅だったでしょ? ひとまずは休憩と……それが終わったら、お祭りのお手伝いかしら?」


 別に、温情ではないのだろう。

 イシュタルの言う休憩も仕事の一環、というのはウノにも分かる。


「了解。それじゃ一っ風呂……いや、その前に一番の見世物は、しっかり見とくか」


 祭壇裏の温泉に向かおうとして、ウノは足を止めた。

 そして、祭壇を見上げる。


「にゃー、カミムスビ一番の見せ場なのにゃ。さー、残ってるみんなも一緒に拝むのにゃ」


 ……小さく、下層全体が揺れ始めた。

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