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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
122/140

お出迎え、酒場の騒動、暗闇の待機

 いきなり絶叫してしまったアルテミスに、モンスターの中でも一際巨体のドラゴンが、首を傾げた。


「どうかしたのかな?」

「いえ……阿呆な同僚からの通信が入っただけです。申し訳ございません」


 アルテミスが、謝罪の一例をする。

 ドラゴンはそれには構わず、視線を洞窟の入り口に向けた。

 再構築されたバリケードの前には、ゴブリンとコボルトの混合部隊が見張りに立っている。


「中が随分騒がしいようだが、助力は必要かな?」

「問題ありません。もう、じきに片付く予定です」

「そうか……それは残念」


 何か今、不穏な発言があったような気がしたが、アルテミスは聞こえなかった事にした。

 ところがどっこい、このスルーを拾う問題児がいた。


「にゃっ、武闘会でも開くかにゃ?」


 転移してきたバステトである。


「いきなり現れて何を言い出すんですか、貴方は!? しかも舞踏会ではなく武闘会!?」

「ほほう、それはよいアイデア。しかし広さ的に問題はないかな?」


 吸血鬼や牛頭魔人(ミノタウロス)が沸き立つ中、ドラゴンが疑問を挟む。


「広い中庭の方に、舞台会場を造るのにゃ。どうせ今はまだ、そっちは塞がってるから、回って欲しいのにゃ」

「ってお客様に手伝わせる気!?」

「にゃ?」


 コテン、とバステトは小首を傾げた。


「いや、そんな不思議そうに首を傾げないで!?」

「ウノっちなら、神だろうがドラゴンだろうが使うのにゃあ。せっかく色んなトコから来てくれてるのにゃから、親睦を深めるとよいのにゃ。ご飯もいっぱい用意するのにゃ」

「ふはははは。では、失礼して裏に回らせてもらうとしようか。……ところで途中、人間の軍が見えたが、言われた通り放っておいたが、よかったのかな? 景気づけに、儂自慢の火炎(ファイヤー)息吹(ブレス)を披露してもよかったのだが」

「……いえ、申し出はありがたいのですが、下手すると森の方も火事になりそうですし」


 ドラゴンの申し出を、アルテミスは失礼のないように辞退した。

 そこで、不意に不可視の力が高まるのを彼女は感じた。


「あら……?」


 発生源はダンジョン側、それも下層だろう。

 それはドラゴンや他のモンスター達も感じ取ったようだ。


「ほう……この力の高まりは、貴女の同胞のモノかな」

「そうですが、少々予想よりも上というか、別の力が働いているようですね。どこかで、それなりに大きな祈りが捧げられているようですね。ですが、どこでしょうか……」


 うーん、とアルテミスはテノエマ村の方角をみた。

 いや、あそこは既に行ってくれている。

 もうちょっと、遠くのようだ。

 ……が、それに対してアルテミスがどうにか出来る事はない。

 それよりも、目の前のお客様(ゲスト)達の案内を優先すべきだろう。


「とにかく、中庭へご案内します」

「うむ、よろしくな」




 その遠く、にある村。

 位置的には城下町オーシンと、アルテミス達のいるダンジョンとのほぼ中間ほどにある宿場村だ。

 冒険者ギルドの支部も兼ねる酒場は、いつになく賑わっていた。

 というのも、一人の青年が今晩の酒代を奢ると宣言したからだ。

 ただし、一つだけ条件があった。

 飲む際には、必ず神に感謝を捧げる事、である。


「我らが神に感謝を!!」

「感謝を!!」


 乾杯、と木製や陶製のジョッキをぶつけ合って、人々は麦酒を飲む。

 村人も冒険者も関係なしだ。


「しかし、すごいねえ。今晩の酒、全部アンタの奢りだって?」


 喧噪の中、酒場のマスターが奢り主の青年に声を掛けた。

 調査官のロイである。


「ええ、まあ、色々あって儲けたんで、皆ともその喜びを分かち合いたいと思いまして」


(……と言うのは大嘘で、自腹やねんもんなあ)


「っ!?」


 不意に天啓が届き、ロイは身体を硬直させた。

 声の主を間違える事はない。

 使える神、カムフィスのモノだ。


(ああ、ええて。こんな所でいきなり跪いたら、変な目で見られるよ)

「ハッ」


 酒場のマスターが怪訝そうに見ているが、ロイは構わずカムフィスとの会話を試みる。


(せやけど、何で酒場なん? ロイ君やったら教会でお祈りをってお願いすると思ったんやけど。あ、文句は全然ないんよ? ただ、気になっただけで)

「……この時間、昼間の仕事で疲れた民衆に、教会で祈りを捧げよと告げたところで、誰も来てはくれません。僕は神の物理的な実在を知っていますが、民衆はそうではないですから。お願いを、しかも急なそれをするには()が必要です」


 無償の奉仕は尊いと、ロイは思う。

 しかしそれを強要する事は出来ないし、人を寄せたいならば、身銭を切るのが一番とロイは判断したのだ。


(それが、今夜の奢りなんや)

「はい。皆も喜んで祈祷してます」


 これがもう少し早い時間ならば、教会にお願いして炊きだしを行っていただろう。

 そもそも何故、こんな所で村の住人に酒を奢り、祈祷によってカムフィスに信仰の力を捧げているのか。

 ダンジョンを取り囲む状況が思った以上に悪いと感じたロイは、ウノに先んじて城下町から出た。

 だが道中で、部下から騎士団が既に動いているという確かな情報を得たのだ。

 どうやっても、現場には間に合わない。

 ならばせめて、とカムフィスに力を託す方法を捻り出し、実行に移したのがこの酒場の賑わいであった。

 ロイだけではない。

 この付近の村では、同じように酒を奢る気前のいい者が現れているはずだ。

 各地に散っている、ロイの部下達である。


(あはは、せやね。こっちでも助かってるんよ、ありがとうね)

「っ!?」


 神からの感謝の言葉に、思わずロイは手を組み、印を造っていた。


(そしたら、わたしはまだやらなあかん事多いから、行くな。じゃあまた、ダンジョンで!)


 神の気配が遠ざかる。

 気がつくと、ロイはカウンターに突っ伏し、肩を震わせていた。


「どうした兄ちゃん。何か悲しい事でもあったのか?」、

「いえ、僕の信仰が報われた事を確信出来たので」


 ロイは身体を起こし、目尻を拭った。

 そして、自分もジョッキを掲げると、酒場を見渡した。


「よーし、ではみんなもっと飲みますよ! 神に感謝を! お祈りを忘れずに!!」

「おー!!」


 噂を聞いたのだろう、新たな村人が次から次へと酒場へ入ってくる。

 彼らにも当然酒を奢り、ロイはカムフィスに力を捧げ続けるのだった。




 ダンジョン中層、下層へ到る階段のすぐ側。

 灯りとなるスライム達を遠ざけ、暗い中で小さな囁き声だけが響いていた。


「あああああ……いやごぶ。もうゼンメツしといて欲しいごぶここまで来ないでほしいごぶぅ……」

「……ヴェール、いいかげん、あきらめるごぶ」

「ごぶ、おうじょうぎわが悪すぎるごぶ」

「なんでみんなそんなに勇ましいごぶー……オレ、おっかなくてしょうがないごぶー……!」

「ヴェールも、祭壇、守る。大丈夫、みんな一緒」

「ごぶ。グリューネでもこれごぶ。男なら腹を括れごぶ」


 そして、殺意を孕んだ足音が迫ってきた。


「……来た、ごぶ。総員、かまえ」

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