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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
120/140

異形の騎士達

 ここはダンジョン中層の中央大部屋、通称『商店街』に当たる。

 下層階段へ到る参道でもあり、部屋には祭用に普段よりも飾られた、幾つもの屋台が並んでいた。

 さすがに今は、商売を中止し、皆、ユリンと強鬼から距離を取って避難していた。

 ユリンは強鬼(ハイ・オーガ)から眼を切らないまま、周囲にいる同胞達を手で制した。


「他の者は手出し無用。巻き込まれてしまいますからな」

「グルル……」


 少しでも視線を外せば、このハイ・オーガは即座に襲ってくるだろう。

 ……いや、どちらにしろ倒すのだから、それはそれで構わないのか?

 などと考えながら、ヒョイと左の剣を肩に担ぐと、強鬼にクイクイと手招きした。


「という訳で、遠慮なく掛かってくるがよろしい。こちらも、そうさせてもらいます故」

「ガアッ!!」


 舐めるなと言わんばかりの、豪風を伴った突進がユリンに迫る。

 ユリンの知っている騎士の(必殺)技には大きく三つ、脚力を活かした突進技、跳躍力を駆使した対空技、主に遠い間合いからの攻撃として何らかの飛び道具がある。

 これはその内の突進技のバリエーションと言えるだろう。

 上下左右にフェイントを混ぜ、天井や床に亀裂、壁際に用意されていた屋台が一瞬で破壊されてしまう。

 鋭い爪の光る右腕が何度も瞬く。

 ――が、ユリンはそれを右の腕に出来ている盾で受け流していく。


「ふむ、身体能力はやはり、なかなか……しかし」


 ユリンは右肘打ち、一瞬ハイ・オーガが動きを止めたところに、そのまま両手で握った長剣を振り下ろす。

 これまた剛剣で、ハイ・オーガも太い左腕で受け止めるも、軽くたたらを踏んでいた。

 そこで攻撃を休めるユリンの筈はなく、追撃を開始する。

 突き、薙ぎ、斬り上げと、傍目からは大きな長剣とは思えない剣速に尻尾での攻撃も加えて、ハイ・オーガを追い込んでいく。


「グウッ!!」


 ハイ・オーガは煩わしげに腕を振るうと、ユリンから強引に距離を取った。

 ユリンは遠い間合いにも構わず、左の腕を突き伸ばした。

 腕がグンと伸び、長剣の切っ先が中程までハイ・オーガの肩に刺さる。


「ギャウッ!?」


 慌てて、ハイ・オーガはそれを振り払った。

 ふぅむ、と腕を戻したユリンは唸る。


「どうにも、その性能に振り回されている感を受けますな。本来はもうちょっとこう、力と技の調和が取れて、強かったのではないですかな?」

「グ……」


 何となく、ユリンにはそういうのが分かってしまうのだ。

 相手は、強鬼の肉体性能を手に入れ、人外の体力や腕力を手に入れた。

 けれど、その分、人間だった時の技術が活かせなくなってしまっている。

 強鬼になる前と後で、加減が違うのだから当然だろう。


「いやいや、分かりますぞ。私もこの身を用いるようになり、試行錯誤を繰り返しておりましたのでな。今の貴方は左程怖くない。しかし怖くないだけで、命の危機自体はありますな。私、既に死んでますが。ははははは」

「グ……」

「グ?」

「ガアアァァァァァーーーーーッ!!」


 強鬼が吠えた。

 身体にあった傷はみるみる内に癒え、その身体を戦意が覆う。

 そして先ほどまでの荒々しさがナリを潜め、左手と足を前に、右手を溜めた構えを取った。

 盾を前面に受けて右の剣を振るう、騎士の基本スタイルだ。

 そしてその手にはいつの間にか、長剣があった。

 おや、と思い、ユリンは壊れされたいくつかの屋台を視線で流しみる。

 その内の一つから、剣や斧がこぼれていた。

 どうやら、そこから抜け目なく、回収していたらしい。

 強鬼の爪は確かに鋭いが、当たらなければ意味がない。

 そういう意味では、おそらく彼が使い慣れているのであろう剣の方が、今の戦には向いている。


「ふむ……少々、よろしくなったか」


 ユリンも構え直す。

 別に、手加減をしている訳ではない。

 ただ、この手の敵は、言い訳の余地なく負かさなければ、大抵しつこいのである。

 人間の時の方が強かった、本気を出せず終わってしまった、などではすぐに復活してしまいかねない。

 故に今の本気を引き出す必要があった。


「グォッ!!」


 ハイ・オーガが剣を振るうと、衝撃波が飛んできた。

 左右に広がるそれは、逸らしての回避は不可能、よってユリンは跳んでこれから逃れた。

 そこへハイ・オーガも跳躍しての追撃――下から斬り上げられる刃がユリンに迫る。

 ユリンの背中から、蝙蝠の羽が生え、一瞬その身体が制止する。

 本来の軌道ならば必殺であったハイ・オーガの対空技は、ユリンの頬にわずかに浅手を追わせるに留まってしまう。

 そしてこの対空技の弱点は、外してしまった時の隙が大きい事にある。

 ――ユリンのブーツの一撃が、ハイ・オーガの顔面に突き刺さった。

 鼻血を振り撒きながら、ハイ・オーガが落下する……も、受け身を取って後方に勢いのまま転がり、即座に体勢を立て直した。

 ユリンはまだ、空中にいて、ゆっくりと下降している。

 そこに、長剣を構えたハイ・オーガが突進し、一気に距離を詰めてきた。

 一つ、二つ、三つ……ほぼ同時に繰り出される、三段突き。

 ユリンも完全に避けるのは不可能で、長剣を持っていた左腕が半ばで吹き飛んでしまった。

 勝った、と思ったのだろう。

 ユリンには、一瞬ハイ・オーガの気の緩みが伝わってきていた。

 だからこそ、ユリンの()()()から生えてきた骨の剣を、彼は避ける事が出来なかった。


「ガ――ッ!?」


 堪らず血反吐を吐く強鬼。

 ユリンの骨剣は、ハイ・オーガの左胸を貫いていた。


「騎士としては左手だが、この化物の身は右手が得手でしてな」


 それでもまだ、ハイ・オーガの闘志は消えていない。

 身体を仰け反らせながらも、右の拳が握りしめられる。

 そして、おそらく鉄をも砕くであろう必殺の拳が振るわれた――!!


「うむっ!!」


 ユリンは手の中の骨剣を引っ込め、同じく拳を作った。

 互いの拳がぶつかり合う。

 ――一瞬の静寂の後、倒れたのはハイ・オーガだった。


「……汝は体勢が崩れていた分、威力が弱まっていた。そこが、明暗を分けたといった所ですな」

「あの! あの!」


 気を失ったハイ・オーガを見下ろすユリンに駆け寄ったのは、部屋の隅に避難していたラファルだった。


「む、どうしたのかな? ラファルくん」

「今のって、みぎての剣でもたおせたんじゃないじゃないんですかっ!? どうして、こぶしだったんですか?」


 ラファルの問いは非難ではなく、純粋な疑問のようだった。


「うむ、その指摘は道理ではあるが、死なれても困るのです。神が言うには事故物件、でしたか。そうなると家主様が住むには少々験が悪い。今回は、敵味方、どちらも犠牲は出さぬよう心掛ける戦いですからな。ま、心臓を貫いておいて、こういう台詞もどうかと思いますがな、ハハハハハ」


 かくして、中層中央の大部屋『商店街』での戦いは幕を閉じた。

 残る強鬼は、後一体。

 右の骨剣は、『可変ギミック』にて登場済みです。

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