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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
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準備と方針

 上層の一番手前、『第一部屋』には大きな平テーブルが用意してあった。

 テーブルは大きく平たい一枚岩で、足は地面を掘ってその分を盛り上げた土の山となっている。

 バランス的にはかなり悪いが、手直しすれば長く使えそうだ。

 椅子になるのは、手頃な大きさの岩だ。


「よくこんなテーブル用意したなぁ」

「ごぶっ!」

「がんばった、いってる」


 ホブゴブリンのゼリューンヌィが、己の力こぶを手で叩いた。

 平たい岩は、この短い時間で外から持ってきたらしい。

 ウノはテーブルに、深皿を並べていく。

 皿は四枚しかなかったので、フライパンも代用した。

 ウノは水袋、シュテルンは自分用の水入れ、バステトはコップを使用する。

 それに、バステトが生活魔術で水を注いでいった。

 なお、ボスのゼリューンヌィ、ちゃっかり者でお調子者のヴェール、怪力のアクダルは赤ワインを希望した。


「コップが足りないのは勘弁してくれ。でまあ、今後の方針だ」

「ごぶごぶ?」


 テーブルを作るという用事が終わって立ち上がろうとしたゼリューンヌィは、赤ワインを満たした深皿を手にしたまま、よく分からないという風に中腰で留まった。


「ゴブリン達はやる事決まってるけど、全体でやる事聞いといた方がいいにゃあ。何が起こってるか後で聞くのは、二度手間にゃ」

「ごぶ」


 納得したのか、ゼリューンヌィは岩に座り直した。

 他のゴブリン達も、大人しく深皿の赤ワインや水を飲んでいた。

 グリューネも器用に、猪の骨の仮面をずらし、水の入った皿を傾けていた。

 ……仮面の下がどんな顔をしているのか、ちょっとウノは気になったが、話を始めるのが先だ。


「上層はまあ、ゴブリンの詰め所にするのは確定として、他にも色々作業をしてもらう事になると思う。特に周辺の探索と食糧の調達だな。あ、もちろん俺も同行する。危ないからな」

「ごぶ」


 ゴブリンは弱い。

 森の中でも、ゴブリンは最下級の強さだ。

 粘動体スライムや犬頭コボルトとならいい勝負をするだろうが、オオトカゲや狼を相手にすれば、まず敗北する。

 せっかく話の分かる人手モンスターなので、失うのは惜しい。

 名前もつけたし。


「特に、水場の把握が重要だ。最低限の飲み水はバステトが何とか出来るっぽいけど、身体を洗ったり、洗濯をしたりの水も欲しいしな。掃除にも水は使うし」


 そして、とウノはゴブリン達を見渡す。


「何と言っても水が飲み放題だし、川があったら魚も食えるぞ」

「ごぶう!」

「にゃあ、お魚!」


 ゼリューンヌィ達と共に、何故かバステトも昂ぶった。

 今にも、この部屋を飛び出しそうな黒猫を、ウノがひっ捕まえる。


「待て待て、話し合いが終わってからだ。って神様も止まれ!!」

「お、お魚が、ウチキを待ってるにゃああ!!」


 ウノは暴れるバステトを、シュテルンの前に突き出した。


「シュテルン、威嚇」

「承知しました」


 くわぁっ! とシュテルンが翼を広げて高く鳴く。


「にゃあ!?」

「神様は、私が見張っておきます。……次は中層ですね。ここが主様と私の巣となります」


 ビクビクビクと震えるバステトから、シュテルンは目を離さない。


「場所を決めることがまず最優先。あと空気の入れ換えと、掃除が必要だな。家具なんかは後回しだ。それよりも灯りだな」


 上層であるこの洞窟でも薄暗いが、中層となるとカンテラがなければ真っ暗だ。

 まさか、ずっと灯りを手に持ったまま生活する訳にもいかないし、そうでなくても出来れば中層全体を照らせられるだけの照明を手に入れたい。

 そこまで望むのは贅沢かもしれないが……何にしても灯りは必須だった。

 ウノはテーブルに広げた地図の一角を指差した。


「場所に関しては、この上層と中層に通じる通路中間にある、この部屋にしようと思ってる。広すぎるぐらいだけど、狭いよりはいいだろう。左右に小部屋もあって、倉庫とかにも使えるしな」

「にゃあにゃあ、中層の大掃除は手間が掛かるにゃあ。それまでは上層で仮の生活を送る事になると思うにゃ。その辺、ゴブリン達はどうなのかにゃ?」

「ごぶっ」


 ワインを飲んで、機嫌のいい赤ら顔になりつつあるゼリューンヌィはウノを見ると、大きく頷いた。

 それをゴブリンシャーマンであるグリューネが通訳する。


「ここ、おーおやぶんのいえ。もんく、ない」

「掃除は、本当に大変そうだなあ。何か効率のいい方法があればいいんだけど……」


 ウノには残念ながら、今思いつく手立てはなかった。


「悩むのは後回しにゃ。決められることを、先に決定するにゃ。一応、下層はウチキの管轄にゃ。今のウチキの力は、全然足りてないにゃ。ま、姿を現せるだけ、信者達がいた時代よりマシかもしれないにゃあ」

「そこがよく分からないんだけどな。信仰してる連中より、まったく見知らぬ俺達の方が力が強かったって事?」

「ま、色々要素はあるのにゃ。ウノっちの素性とかにゃ。ま、それはさておき、ウチキの力を増やすには、やっぱ神像が必要にゃ」

「ちょ、今サラッと重要なこと、流さなかったか!?」

「別に後回しでも問題ない程度の話にゃ。この会議は、この『家』をどうするかってお話にゃ?」

「そりゃそうなんだけどさ。……で、神像って話だけど、あの破壊されてたのを修復するって事か?」


 微妙に納得がいかないが、確かにこの話し合いはウノの素性に関する事ではない。

 気にはなったが、本題から外れる訳にもいかないだろう。


「かなり、バラバラでしたけど」


 シュテルンの言う通り、あの神像はかなり派手に砕け散り、修復は困難に思われる。


「まあ、それが一番だけど、同じ神像に予備があったにゃ。それを回収するという手もあるにゃ」

「予備? どこに?」


 財宝の類は根こそぎ冒険者が持ち出したというのに、まさかまだ、どこかに隠していたというのだろうか。


「ここにはないにゃあ。金目のモノはあらかた持ち出されちゃったにゃ。力は若干、感じられるんだけどにゃあ」


 やはり、さすがにどこかに隠すというのは無理があったらしい。

 バステトは名残惜しそうに、遠くの方角を見据えていた。

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