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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
118/140

ワイルドハント

 日は暮れ、星空が見え始めていた。

 森とテノエマ村のちょうど間にある平原に、馬と馬車の一団があった。

 身なりは商人風が多く、所々に冒険者風の姿のモノも見受けられる。

 一見すると商隊のように見えるが、こんな僻地に訪れるには規模が多すぎた。

 人数は、ザッと二〇〇といった所だろう。

 服装は雑多だが、整然と並ぶ姿が非常に様になっていた。

 仮に盗賊団が彼らを見た場合、勘のいいモノならば逃げるだろう。

 欲望に負けて襲ったならば、確実に全滅したはずだ。

 彼らは、公爵配下の騎士団であった。

 しかも精鋭部隊だ。

 つい数時間前まで、彼らはバラバラに行動し、付近の村を訪れたり、周辺を適当に巡っていたが、招集の狼煙を確認し、ここに集ったのであった。

 目的は一つ、森の中にあるダンジョンで起こっている騒ぎの鎮圧であった。

 実際に起こっている事は、確認していない。

 しかし、()()()()()()()()()()()




「全員揃ったか」


 隊をまとめる男、オーネストは部下に問うた。

 頭にターバンを巻いた偉丈夫だ。

 歳は三〇を超えたばかり、地位を考えると相当に若い。

 しかしそれでも、不満を唱える者はいない。

 それだけ、彼は実力があるのだ。

 オーネストと互角に戦える者など、この公爵領、いや王国全土を見渡しても、そうはいないだろう。

 ……いや、騎士団内にもう一人、いるにはいたが、残念ながら数年前に問題を起こして去っている。

 それはともかく、オーネスト率いる精鋭騎士の部隊は今、この地に集っていた。

 この時間だというのに、天幕も張られていない。

 理由は単純、休まないからだ。

 今これから、作戦は動くから、天幕は必要ないのである。

 用意されているのは篝火だけだ。


「はい。しかし一体何があったのですか。予定では明日だったはずでは……?」


 部下の問いに、オーネストはターバンをほどいた。

 短く刈り上げた金髪が、その下から現れる。


「その予定が狂った。既に、『先発隊』がダンジョンに入ったらしい」

「え!?」

「何があったのかまでは不明だ。ただ、状況が既に動いているのは間違いない。となると、作戦が連動している以上、我々も動かざるを得ないのだ」

「確かに……」


 オーネストは、馬車に顔を向けた。


「整備部隊、準備は出来ているか?」

「手入れは全て済んでいます。いつでもいけますよ」


 一見、行商人の馬車に見えるが、その半分は中のほとんどが武器と防具を積んでいる。

 ここで、正規の甲冑に皆、身を包むのだ。


「補給部隊」

「同じく」


 こちらは、普通に食糧や医療品を積んでいた。

 作戦が動くまでは、実際にある程度、各地の村で商売も行っていた。

 しかし本来は、軍の作戦で使用する物資である。

 オーネストは手を叩いた。


「よし、では十分で甲冑を装着。森の中にあるダンジョンに向けて進軍する。事前に伝えた通り、治安維持を名目とする」


 オーネストの命令に、配下の騎士達は一斉に動き出した。

 列を作って、順番に整備部隊が用意する甲冑を受け取り、着替えていく。


「ふぅ……」


 ため息が漏れそうになり、オーネストは慌てて口元を押さえた。

 自分の表情が硬い事を自覚する。

 元々、この作戦自体、気に入らないのだ。

 ダンジョンに集まるモンスターを駆逐する、というのならまあ、まだ分かる。

 それは、この地を守る者としての責務である。

 しかしこの命令は……実に、気にくわない。

 自分の先祖も、かつて同じようにダンジョンを攻略したと昔、家にあった記録で読んだ事がある。

 その先祖は、晩年までその一件を後悔しているようだったが、子孫も同じ事をしているのである。

 さて、今の自分を見て、どんな気分になるだろうな、と考えてしまう。

 ……そんな思考を巡らせながらも、オーネストもしっかりと、聖騎士の甲冑を身につけていた。

 習慣というのは恐ろしいモノだ。

 部下達も順に並びはじめ……おや?

 その一人が足を止め、夜空を見上げていた。


「おい、どうした。気を抜くな」

「いえ、そうじゃないんです。あれは……」

「む?」


 オーネストも、部下の視線を追った。

 小さな点が、次第に大きくなってくる。

 月も出、星も多く瞬いているとは言え、夜なのだ。

 そのシルエットがなんなのか……オーネストが見極めるよりも前に、遠眼鏡を使っていた偵察班が、声を上げた。


「グ、グリフォン……!?」

「何だと!? 弓兵、構え!!」


 オーネストの指示は早かった。

 この付近のモンスターはそれほど強くはないはずだ。

 鷲の頭と翼に獅子の胴体を持つモンスター、グリフォンの目撃例など、聞いた事がなかった。

 向こうはこちらに気付いていないのか、そのまま通り過ぎようとしている。

 まだ、矢を放つには距離がある……と考えていると、 別の部下が鋭い声を放った。


「隊長、ゴブリンの群れがこちらに向かってきます!!」

「気付かれたのか!?」

「違います! 方角が逆です! 森から出てきたのではなく、()()()()()()()()()!! いえ、ゴブリンだけではありません! コボルト、オーク、オーガ、トロール……」


 何と言う事だ。

 モンスターの集団が、まったく見当違いの方向から、しかも大量に押しかけてきている。

 しかも、異常はまだ続いていた。

 別の騎士もまた、悲鳴を上げていた。

 オーネストも、大地が揺れているのを感じていた。


「あ、あっちからはバジリスクが!? な……ト、トレント……セントール……巨人族っ!?」


 月を背に、異形(モンスター)の集団がこちらへと迫ってくる。

 不意に、月が明るさを増した。

 眩さに目を細め、オーネストは月に視線を集中した。

 見えたのは後光を放つ人の姿……その背には、複数枚の羽が生えていた。


「あっ……ああ……天使が……!?」

「な、何が、何が起こっているというのだ……!?」


 モンスターは数だけならばとっくに、騎士団を上回っていた。

 聞いていない。

 こんな、モンスターの群れが出現するなんて、全くの予想外だ。

 今すぐに攻撃を命じるべきか。

 だが……オーネストは、それを堪える。

 それは、勘だ。

 まったく、殺気がないのだ。

 ()()()()()()()()()()()()……!!

 路傍の石のように、どうでもいいのだ。

 彼らの目的はただ、森の中――おそらくは、オーネスト達が目指す場所と同じ、ダンジョンだ。


「た、隊長……」

「今度は何だ……?」

「……ドラゴン、です」


 この世界の最強種の出現に、オーネストは卒倒しそうになるのを堪えるのが、精一杯だった。




 洞窟の前に広がる、広場の中央。

 音楽隊のゴブリンやコボルト達に囲まれたアルテミスは、少しずつ近づいてくる気配に、一端笛を休めた。


「――アルテミス版、『百鬼夜行(ワイルドハント)』。本家は従姉妹(ヘカテー)なのですけれどね」


 ワイルドハント。

 伝承に伝わる、漁師と猟犬と馬の群れの大移動。

 アルテミスの従姉妹である、ヘカテーはその一団の首領なのだ。

 もっとも、アルテミスは別に今回、特別な術を使った訳ではない。

 単に、各地のモンスターに、伝えただけだ。

 新しい住居が出来、祭を開くので、是非と……招待をしただけに過ぎない。


「すごい数ごぶー」

「わふっ、おいでませー」


 ゴブリンやコボルト達も大はしゃぎだ。


「我ながら結構な数のお客様を呼んでしまいましたけれど、歓迎はちゃんとお願いしますよ、バステト」

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