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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
115/140

三段構え

 イーリスは、地面に触れた。

 わずかに振動が伝わってくるのは、()()が移動しているのだろう。


「土の中を移動して、私達の背後に回るつもりのようですね」


 イーリスの呟きに、ゴブリンやコボルト達がビックリしていた。


「わかるごぶ?」

「さすがアルラウネだわふ」


 尊敬の眼差しで見る彼らに、イーリスは柔らかく微笑みながら、首を振った。


「違いますよ。ここには私達以外にも、いるじゃないですか」


 イーリスが中庭全体を指すように、両腕を大きく開いた。

 風乙女(シルフ)が舞い、土の中からは土小人(ノーム)達がポコポコと出現する。


「ごぶっ!? わかったごぶ!」

「わふっ、せいれいっ!」

「はい、正解です」


 パン、とイーリスは両手を打ち合わせた。


「ここには、沢山の味方がいます。だからみんな、安心して下さい。まあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「確かに、そうですねぇ――全員、前へ駆け足です」


 それまで沈黙していたタネ・マフタが、わずかに厳しい声を上げた。

 事前の打ち合わせ通り、その一言でモンスター達は一斉に駆け出した。


「わふぅっ、コボルトたちには負けない!」

「ぬうう、さすが犬あたまは早いごぶっ!」


 統率などまるで取れていない、バラバラのかけっこだ。

 隊列もへったくれもなく、彼らは今いた場所から逃れるべく、散り散りになった。

 イーリスもタネ・マフタを抱えて、走っていた。

 だからこそ、助かった。

 さっきまで彼らがいた場所の背後で土の噴出が起こり、直後、鋭い一閃が土煙を切り裂いた。

 そこにいたのは、黒く汚れた強鬼だった。


「っ!?」


 しかし、土の中を進み、背後に回っての奇襲が空ぶった事に、彼は戸惑っていた。

 既にゴブリンもコボルトも、そこにはいない。


「残念ながら、どこから出るのかも分かっていましたから。――第二陣、行きましょう!!」


 風乙女が舞い、強く地面の草が揺れる。

 それまで地面に伏せていた第二陣――センテオトルとナリー老人達をはじめとした老人達が、立ち上がった。

 その脇には籠を抱えており、老人達は一人の例外もなく、奇妙な仮面をつけていた。

 猪や鹿、雄牛の骨で出来た面である。




「お爺ちゃん、いくよー!!」

「うむ、任されよ!!」


 リスの尾を持つ食の幼女神、センテオトルの呼びかけに、ナリー達は籠の中身を掴んだ。

 灰、ではないが、粉状のモノだ。


「そりゃあ!!」


 バサリと撒かれたその粉を、不自然な風の動きが、風上にいるはずの強鬼へと運んでいく。

 小さなせせらぎのように流れてきた粉を、強鬼は吸い込んでしまう。


「ガ……っ!?」


 ガクン、と強鬼は膝をついた。

 自分でも何故、弱ったのか分からない様子で戸惑っている。

 膝をついただけではもたず、両手も地面につけて、何とか身体を支える。


「麻痺の薬ですよ」


 イーリスの本職は薬師だ。

 その気になれば、致命傷を与える毒物だって調合出来るが、ナリー老人達や、周囲にいるゴブリンやコボルト達に万が一があったら困る。

 なので、動きを止める事に主眼を置いた麻痺薬を作ったのだ。

 それも、深層のモンスターですら一瞬で動きを止める、強烈な奴である。

 ナリー老人達にも、(マスク)を用意してもらった。

 最初にこれを使わなかったのは、単純に息を止められる恐れがあった為。

 疲弊させれば、それだけ呼吸も荒くなり、この第二陣の効果も確実となるのだ。

 そして、不自然な風の動きの正体、それは……。


「こちらには、風の加護がありますから、風上にいようとあまり意味がありません」


 スゥッと、イーリスの周囲に半透明の風乙女(シルフ)達が出現した。

 これで、普通なら詰みだ。

 普通なら、だ。


「グ、フ……オオオオオ……!!」


 何と、強鬼は身体を震わせながらも、立ち上がろうとしていた。

 その瞳は憤怒に燃え、並の胆力では気絶してもおかしくない力を有していた。

 ただ、イーリスの胆力は、並ではなかった。


「凄まじいですね。薬の効果を気合いだけで打ち消そうとするなんて……ですが、第三陣」


 イーリスは、傍らに立つ花冠の幼女神に視線を向けた。

 タネ・マフタは、強鬼を見て、目を細めた。


「抵抗は、無意味ですよ」


 呟きと同時に、大地が揺れる。

 かすかだったそれが、次第に大きな揺れへと変わり、ガクンッと強鬼の膝が崩れた。


「ガ……アッ……!?」


 麻痺薬とは異なる点は、強鬼の身体を中心に地面がドンドン沈んでいっている点だ。

 途轍もなく重い何かが、強鬼を押し潰そうとしていた。

 その圧力は、イーリス達にも感じられた。


「理屈は単純なんですよ。私、タネ・マフタは草木の神。そしてその本来の姿は巨木で表わされます」

「今はお花ですけどね」

「これはこれでよいかなと思っていますよ。話が逸れましたが、この巨木の姿は普段、父である天空神を支えているのです。お分かりですか? 私はちょっと()()()()()だけなんです」


 つまり、今、強鬼を押しつぶしているのは、タネ・マフタが支えなかった天空神である。

 空そのモノが、敵。

 どれだけ強鬼が強かろうと、そんな途方もない相手に敵うはずがなかった。


「グ、ウッ、アアアァァ……!!」


 断末魔の悲鳴を上げて、強鬼はその場に突っ伏した。

 そのシルエットのまま、地面にさらに沈んでいく。

 やがて、気絶したのかうつぶせの姿勢のまま、完全に動かなくなった。


「タネ・マフタ様、そろそろ……」

「そうですね……よいしょっ!」


 タネ・マフタが気合いを入れた声を上げると、スッと周辺の圧力が消えた。

 彼女が父である天空神を、支え直したのだろう。

 小さな端末でしかない、今のタネ・マフタでは短時間しかこの切り札を使用出来ない。

 それが、第三陣まで温存していた理由であった。


「まずは、一体回収、ですね」


 タネ・マフタが呟くと、周囲のゴブリンやコボルト達が一斉に歓声を上げたのだった。

 どっちもですます調で、キャラが被る二人です。

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