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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
112/140

強鬼進撃

 四匹の強鬼(ハイ・オーガ)が、森を歩いていた。

 どれも二メルトを越え、はち切れんばかりの筋肉に身を包んでいる。

 衣服はちぎれ、腰の辺りにかろうじてその残骸が残っていた。

 その足取りは力強く、周囲のモンスターなど歯牙にも掛けていない事が、ありありと分かってしまう。

 彼ら――ハッス達は、数十分前までは人間だった。

 カムフィス教会のシュトライト司教から与えられた『神の秘薬』によって、彼らは人を越える力を手に入れたのだ。

 まさか(オーガ)になるとは思わなかったが、司教の事だ。

 おそらく、元の人間の姿に戻る薬も用意してくれているのだろうと、ハッスは楽観視している。

 ただ、ハッスには別の懸念が生じていた。

 チラリと、『貴族』を見る。

 彼は途中で倒したジョノクチベアからちぎった右手を囓り、血を啜っていた。


(ああ、血が美味い……今まで飲んできたワインなんて、これに比べりゃ安物のジュースだ。それに引き替え、コイツはいくらでも飲めるぞ……)


 言葉は通じなくなってはいるが、何となく『貴族』の思念が伝わってくる。

 多分、互いの連携を密にする為、秘薬の成分に含まれていたのだろう。

 身体のあちこちに金色の文様が走り、どことなく高貴な印象がある――が、手に持つ熊の手が、むしろ残虐性の方を強調していた。

 ……不意に、音も無く頭上からトラップスパイダーが下りてきた。

 ――が、それを『芸術家』が軽く手ではたいた。

 ただそれだけで、モンスターは破裂するようにその命を散らしてしまう。


(……弱ぇなあ。こんな雑魚に俺は慌てふためいていたのかよ)


 四体の中で最も線が細く、人だった時の名残がある強鬼は、『芸術家』だ。

 これまで戦った事など、殆ど無かったのだろう。

 襲ってくるモンスター達は、ほとんど彼が率先して潰していた。

 線が細いせいか、ハッス達よりもわずかに身軽な印象があった。

 一方で、欲求不満を溜めている風なのが、最も大柄で屈強な強鬼『騎士』だ。


(もっとだ! もっと歯ごたえのある奴ぁいねえのか!?)


 雑魚を倒しているのが『芸術家』ならば、大物を狙って潰しているのが『騎士』である。

『貴族』が囓っている熊の手の、本来の持ち主だったジョノクチベアを倒したのは、『騎士』だ。

 左手は太く防御特化している風で、右手はごつく幾つもの瘤が生じた攻撃特化型なのは、おそらく盾と剣を使う騎士だったからなのだろう。

 そして、そんな彼らと比べると、突き出た特徴もない強鬼が、ハッスであった。

 強いて言えば、波打った髪がやたら長くなっているぐらいだろうか。

 ハッスはその頭をボリボリと掻いた。


(チッ……ドイツもコイツも力に呑み込まれてやがるな。共食いにだけは、ならないでくれよ)


 少なくとも、協調性に関しては絶望的だろうな、とハッスは内心ため息をついていた。




『深層』を抜け、比較的明るくなった森をさらに進む。

 やがて、目的の洞窟が見えてきた。

 あの中で暴れるのが、ハッス達の仕事だ。

 もちろんただ暴れるだけではない、亜人やモンスターはぶち殺し、下の層にあるという祭壇も破壊する必要がある。

 ……もちろん、ハッスはちゃんと憶えているが、他の三人はどうか。


(お前ら、せめて目的を見失うなよ? 俺達の仕事は中で騒ぎを起こす事だ。それぐらいは分かっているだろうな)


 念押しをしてみるが、三匹はまるで聞いてはいなかった。


(ハハハ、よい香りがする……洞窟の奥の方から、様々な血の香りが漂ってくる……肉も味わいたいな。野菜はどうでもいい)

(何だ敵がいなきゃ蹂躙出来ないじゃないか。敵はどこだ。どこに隠れている?)

(チッ、隠れやがったか! クソッ、このバリケードが邪魔だ!!)


 洞窟の入り口は、家具や瓦礫で埋まっていた。

 まずはそれを撤去するという方向性は間違っていないのだが、彼らのやり方は自棄を起こした子供のようであった。

 とにかく手当たり次第に破壊しては、放り捨てていくスタイルである。

 途方に暮れたハッスは、星の見えてきた空を見上げた。


(……駄目っぽいな。せめて、中に入れるところまでは、何とか導いてやろう)




 そして、中層を下りて最初のT字路で、獅子耳幼女神イシュタルと猫耳幼女神バステトが待機していた。


「にゃー、即席のバリケードが絶賛破壊されてるにゃあ」

「そう長くは持たないわね。みんな、手順は分かっているわね」


 イシュタルが左右の通路に声を掛けると、どちらの奥からもモンスター達の鳴き声が響いてきた。


「ごぶっ」

「わうっ!」

「ぶひぃ」


 それぞれ、ゴブリン、コボルト、オークである。

 数はそれぞれ数十匹。

 数は多いが、強鬼と渡り合うには、かなり不安な戦力である。


「それにしてもまるで、アニマルハウスにゃあ」

「猫は黙ってなさい」

「にゃあ」


 イシュタルが軽く頭をはたくと、バステトは小さく鳴いた。

 と、遊んでいる場合ではない。

 イシュタルは、小さな両手を合わせて、音を鳴らした。

 そして、腹から声を出す。


「今回の目標は、犠牲を一人も出さない事。みんなオーケー?」

「ごぶ」「わんっ」「ぶひっ」「にゃー!」

「もうじき、避難してきた新顔のオーガ達も、準備が終わるわ。あの子達が参戦してくれたら、幾分楽になると思う。加えてこの家の主ももうじき帰ってくる事になってる。本当なら明日まで掛かるところを、今日中に何とか間に合わせてくれるって」


 左右の通路から、雄叫びが響いてきた。

 このダンジョンの家主の存在は大きいようだ。

 ……実際、おそらくこのダンジョンにおける、最強の戦力(カード)だしねぇ、とイシュタルは内心で呟いた。


「ま、そういう事でみんな――作戦開始!!」




 バリケードを破壊し、しばらく上層を探索したハッス達は、無人である事を確認してから、中層に下りた。

 通路はガランとしており、灯りもない。

 もっとも、強鬼は夜目も利くので、視界もほぼ問題はなかった。

 ただ、


(……静かだ)


 それが、ハッスには気になった。


(だが、奴らの気配はある。俺達を監視しているのか? なら……)


 ハッスは、手に持った木材――破壊したバリケードから頂いた――を大きく振りかぶると、通路の奥に投擲した。

 その直後。


「きゃうんっ!?」


 犬のような鳴き声が、暗闇から響いた。


(敵か! 敵だな!!)


 喜び勇んで突っ走ったのは『芸術家』だった。

 その背を追いながら、ハッスは舌打ちした。


(チッ、先走りやがって!! だがまあ、今の悲鳴はおそらくコボルト。それぐらいなら、コイツらでも何とでもなるか)




 ……ところが、ハッスの思惑通りには、いかないのであった。

 ……もうちょっと書こうかと思いましたが、時間切れ。

 次回、ささやかな作戦、展開します。

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