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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
111/140

過去と現在

 川のせせらぎの音が聞こえる。

 騎士を二人斬り伏せ、エクエスはようやくここまで来た。

 肩や脇腹には矢が刺さり、全身に刃傷が刻まれながらも、エクエスは堂々と相手と向き合った。

 エクエスも女性としては長身だが、男はそれを上回る。

 細身ながらも鍛えられた身体、恵まれた肉体を持ちながら、さらにその技量も尋常ではないと来ている。


「この作戦の総大将とお見受けする」

「よくぞ、ここまで辿り着いた。見事の一言だ。しかし、これ以上の暴虐を許す訳にはいかんな」


 男――王国騎士団長は、彼を守ろうとする部下達を下がらせ、自らの剣を抜いた。


「暴虐というのならば、洞窟に住む者達を皆殺しにしようとした、貴方達の組織そのモノがそれであろう?」

「人と獣が交わるなど、外道の極み。そのような痴れ者達を生かしておく理由がない。神も決して許さぬだろう」

「獣ではない。彼らもまた、知性を有する者」


 騎士団長の問いに、エクエスも間髪入れず反論する。

 神の加護はとうに切れ、今はほぼ気力だけで立っているようなモノだ。

 時間は充分に稼いだ。

 洞窟の入り繰りも崩落し、侵入するには瓦礫を撤去する必要がある。


「人ではないという一点において、殺すには充分値する。ましてや、高貴なる血筋に連なるモノが、そのような穢れた血と交わる事など、決して許されぬ」


 エクエスは思う。

 その高貴なるモノは、無事逃げ延びただろうか。

 何となく、大丈夫な気がする。

 脈絡もなく現れたあの神とその御使いが、何とかしてくれたはずだ。

 それに、目の前の男達の信じる神が許さなくても、あの猫耳の神は許した。

 なんだ、神は許しているではないか。


「……どうやらもはや、語る言葉もないな」

「うむ」


 エクエスと騎士団長は、同時に剣を構えた。


「近衛騎士エクエス・フラメント、いざ尋常に――」

「騎士団長オネット・レーグル、いざ尋常に――」


 そして両名はぶつかり合う。

 この戦いにおける最後の死闘であった。




 時は流れた三〇〇年後――現代。

 洞窟の入り口前には、大量の物資が積まれていた。

 わずかでも時間を稼ぐ、いわゆるバリケード代わりである。


「てったい、てったいー!!」


 ゼリューンヌィが叫び、まずコボルトやオーク達が先に持ち場につくべく、中層へと下っていく。

 続いて、ゴブリン達。

 最後に残ったのは、教官であるユリンとゼリューンヌィ達古参ゴブリンズ、仔狼のラファルといった警備係、それに幼女神イシュタルであった。


「上層の物資はくれてやりなさい。全部持って下に降りるなんて無理なんだから」

「ご、ごぶ……もったいないごぶ」

「命あっての物種でしょ。そうでなくても、貴重な戦力をここで浪費する訳にはいかないの。我慢なさい」


 ゼリューンヌィは無念そうであったが、それをイシュタルは一蹴した。


「本番は中層でありますな」

「うまくいきますでしょうか!!」


 ユリンが屈伸する横で、ラファルは意気軒昂といった様子だ。


「絶対とは言わないけど、多分大丈夫でしょ。見た感じ、チームとしてまとまってる風じゃないしね」


 イシュタルは指して緊張した風もなく、敵を分析する。

 さすが軍神、場慣れしている。


「チームじゃないと、うまくいく?」


 グリューネが首を傾げるのに対し、ユリンは頷いた。


「その辺はおそらく問題ないと私も同意見ですな。ちょっとした心理攻撃でありますよ」

「古強者だけの事はあるわね。というか経験者だっけ」


 だっけも何も、イシュタルもまた、当時現場にいたはずである。

 まあその辺りの記憶は、ユリンとしては割と曖昧なのだが、朧気ながらもいたような気はするのだ。

 特に最後の戦いに関しては、それなりの記憶はあった。


「ははは、お恥ずかしながら。何、今更ジタバタしたところでどうにもなりませぬよ。皆も、腹を括るとよろしい」

「……教官、見事ごぶ。全然動じてないごぶ……」

「以前にも似たような事がありましたのでな。あの時に比べれば今など、よっぽど恵まれてますぞ。何せ、こちらで戦える者が、とても多い。加えて選択肢もあります。まあ、実質一つではありますが」


 ユリンの言葉に、イシュタルが怪訝そうに眉を寄せた。


「何か選択するようなモノあったっけ」

「撤退戦と迎撃戦ですよ」

「ああ、なるほど。確かに今回やるのは決まっているわ」


 撤退は、ない。

 ならば、やる事は一つである。

 ドン、とゼリューンヌィが、槍の石突で地面を叩く。


「ごぶ、徹底抗戦」

「うう~、こわいし痛いのヤだし、面倒くさいごぶー……」

「……ヴェールはいい加減、あきらめる、ごぶ」

「ごぶごぶ、強制連行ごぶ」


 恐ろしくやる気のないヴェールに、剣の曇りを確かめていたリユセが肩を竦める。

 そしてヴェールは、力自慢のアクダルに担がれる事になった。


「そもそも逃げ場の方に、もう敵は来ているのです!!」

「大抵の相手なら迎え入れるんだけど、あそこまで無粋な奴らは最早、客じゃないわねぇ」


 ラファルの嗅覚は、敵――強鬼(ハイオーガ)の気配を充分に感じ取っていた。

 イシュタルはふん、と鼻を鳴らす。

 そこに転移してきたのは、バステトだ。

 さっきまで下層で『祭』の音頭を取っていたはずだが、もういいのだろうか。


「にゃあっ、同調完了なのにゃ」

「あ、電波受信終わった?」

「電波言うにゃイッシー!? こっちは仕込みが終わって、戻ろうって段階なのにゃ。ただし、ウノっち到着はちょっと遅れるのにゃ。どれぐらい遅れるか教えると、緊張感なくなるから教えないのにゃ」

「そこはちゃんと教えなさいよアンタ……!!」


 ギリギリギリ……とイシュタルがバステトの両頬をつねった。


(ひら)(ひら)(ひら)いにゃあ~!! それ言っちゃうと、みんな緊張感失っちゃうのにゃ……!! それにいくらウノっちでも四体はちょっと荷が重いのにゃあ」

「……まあ、いいわ。士気が下がるのは、確かに問題だしね」


 ペ、とイシュタルはバステトの頬から手を離した。


「さてさて、いよいよ(やっこ)さんのお出ましにゃあ。準備はいいかにゃ?」

「お任せあれ。個人的にはちょっとしたリベンジでもありますな」

「にゃはは、頼りにしてるのにゃあユリリン」

「……名前が一文字増えてますぞ?」

「にゃはは、今更だにゃあ」

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