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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
109/140

託される者

 ウノとバステトは、破壊の跡も新しい中層を歩いていた。

 通路には、非武装の人間や、獣人他異種族の民や人型モンスターが倒れ、事切れている。

 その中には甲冑姿の男達も何人かいるが、数としてはそう多くはない。

 通路には等間隔で灯りが点されているが、今の――というのもおかしな話ではあるが――ウノ達の住居と比べると、その暗さは比べようもない。

 そのウノの視線は、赤子を抱えて逃げる女性とそれを追う騎士達の姿を捉えた。

 距離にして、十数メルト。

 ウノは、一気に踏み込み、女性の脇をすり抜けた。


「っ!?」


 突然の闖入者に、剣を持った騎士達が一瞬強ばる。

 その一瞬があればウノには充分だった。

 一気に彼らを無力化する。

 下層で遭遇した騎士達のように薬は飲んでいないようで、特に苦もなく達成した。


「あ、貴方は……?」


 戸惑う女性に、ウノは下層の方角を指差した。


「味方だ。詳しい話をしている暇はないから、下層でみんなから聞いてくれ。そこから脱出する」

「わ、分かりました。ありがとうございます」


 頭を下げて、女性はウノの指した先へと駆けていった。

 この展開も、もう四度目になる。

 ふぅ……とウノが吐息を漏らしていると、置き去りにされていたバステトが追いついてきた。


「ダンジョンって狭いようで広いよな」

「今更だにゃあ」

「まったくだ。しかも罠も生きてるから、余計に移動に時間が掛かる」


 ただ、この罠は邪魔ではあるが、同時に騎士達を防ぐ障害物の役目も果たしてくれている。

 なので、みだりに破壊する訳にも行かなかった。

 通路の向こうからは、破壊音と雄叫び、剣と剣がぶつかり合う音が響いていた。

 上層へと向かっている――エクエスと、それに立ち向かう騎士達の戦いの音だ。


「向こうも、頑張ってるのにゃあ」

「……なんか、すごい複雑な気分だ。これから死ぬって分かってるのに、このままってのもな」


 だが、ウノは止めない。

 エクエスがどうなるかは知っているし、それを防げばややこしい事になるのは分かっている。

 なので、ウノとしては、彼女だけでは足りない部分を補う事に専念するのだった。




 神の加護を得たエクエスは、正に一騎当千の強さで騎士達を駆逐していた。

『薬』も飲んでいない騎士では、エクエスにまるで敵わない。

 彼女の気迫に、騎士団は怯み、後退せざるを得ない。


「なんだコイツ。クソ、強い……っ!!」

「バラけるな! 連携を取って複数人数で当たれ!!」

「そうは言っても、ここはダンジョンです! 攻撃出来る人数にも限りがあるんですよ!」


 騎士団がそれほど精強であろうと、エクエスを一度に襲う人数は限られてしまう。

 通路はそれなりに広いが、それでも限度があり、せいぜいが三人同時が限界だろう。


「何より、地の利はこちらにあってな」


 エクエスが剣を振るう。

 騎士達とは間合いが開いており、剣先はただ、壁にぶつかる。

 空振った――訳ではない。

 ガコン、と騎士達の足下が開いて、通路に大きな穴が開いた。


「落とし穴!? おのれ、卑怯な――!!」


 言葉はそれ以上続かない。

 ……落とし穴の底には、槍衾が待ち構えているのだ。


「その人数で襲っておいて、卑怯もへったくれもないでしょうに。――さあ」


 通路にポッカリと開いた距離にして五メルトはある落とし穴を、エクエスは一気に跳躍した。

 ……甲冑を着たまま、これだけの距離を跳べる騎士が、どれほどいるだろうか。

 後ずさりながらも、騎士達は剣を構える。

 エクエスの見た感じ、少なくともあと一〇人程度。

 もっとも、この先や上層にはまだまだいるのだろうが。


「――ここを通りたければ、私を倒す事だ」




 下層への通路は、可能な限り塞いでおいた。

 罠の中には通路を意図的に崩すモノがあり、ウノはそれを有効活用させてもらった。

 少なくともエクエスを倒さない限り、ここまで来る事は出来ないだろう。

 出来たとしても、相当な時間と労力が必要となる。

 そして今、下層には逃れてきた『邪教神殿の洞窟』の民達が集まっている。

 人間、獣人や森妖精と言った異種族、人型モンスターと様々だ。

 祭壇裏の通路は既に開通しており、川が見えている。

 船はない……が、水棲モンスター種族である魚人が、水先案内人を務めてくれるらしい。しばらく川を渡れば魚人の郷があり、船も手に入るという。

 赤子もいるが、そう言った子らは背丈のある樹人(トレント)が頭上に乗せてくれるという話だった。

 そんな彼らを代表して、ミールィがウノとバステトに頭を下げた。


「神様と御使い様、このたびは本当にありがとうございました」

「こっちにはこっちの思惑もあるからな。気にしなくていい」

「そう言われましても……」


 彼女の手には、大ぶりの宝玉があった。


「……その、ささやかですが、お礼としてこちらをお受け取り下さい」

「いや、そういうのは、自分達の今後の為に取っておいた方がいい。これから、金はいくらあっても困らないだろ」


 別に、ウノに欲がない訳ではない。

 ただ、おそらく知人の先祖である彼女達には、生きていてもらわなければ困るのだ。


「そうかもしれませんが、エクエスに頼まれたのです」

「エクエスに?」

「本来これは、エクエスに最後の俸禄として渡すはずのモノだったのです。しかし、『自分はもうじき不要になりますし、おそらく騎士団に奪われてしまう。なので、私の分の礼として、貴方達に渡して欲しい』と」

「……まあ、それはある意味、間違っちゃいないな」

「……はい」


 ミールィの目尻には、薄らと涙がにじんでいた。

 彼女も、エクエスの死は覚悟しているのだろう。

 エクエスが死ねば、ミールィの持つ宝玉も騎士団の手に渡ってしまう。

 飾る事も使う事も出来ない。

 ならば、もらうだけ無駄というモノだ。


「だから、これは預かっておく」


 ウノはミールィの手から、宝玉を奪った。


「預かる?」

「エクエスがどうなるかは、俺も分かっている。その上で、いずれアイツにちゃんと渡すって話だ」

「よく分かりませんが……御使い様には、何かしらの手段があるのでしょうね。そういう事でしたら、よろしくお願いします」


 ミールィは微笑んだ。

 そして、自分の首から下がっている首飾りを外した。

 また、洞窟の民の一人が、何やら色々と詰まっている風な袋を差し出してきた。


「それからこちらが、御使い様へのお礼として……是非。本当に何もなしというのは心苦しいので、私達の今後の心の平和の為にもお納め下さい」

「分かった、もらっとく」


 そこまで言うのなら、遠慮するのも悪いだろう。

 ウノは首飾りと袋を受け取った。

 首飾りには、何やら紋章の刻まれたペンダントが下がっており、微かに魔力を感じられる。

 袋の中身は雑多で、魔石やら手帳サイズの書物、小さな宝石、果実、牙、それに……。


「……ワイン?」

「何か?」


 ミールィがキョトンと首を傾げる。


「いや、()()の話でさ」


 あー、そういう事ね、とウノは傍らのバステトを見た。


「にゃー……よい匂いがするのにゃあ。上物の逸品にゃあ」


 道理で、しつこく言っていた訳だ。


「言っとくけど、みんなで飲むんだからな。一人で飲むなよ」

「ひ、一口、先に飲みたいにゃあ!!」


 ワインに手を伸ばすバステトを、ウノは頭を押さえて防ぐのだった。

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