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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
108/140

やるべき事

「名乗り遅れたが、俺はウノ。城下町の貧民街で暮らしていた。色々あって今は神の御使いをしている……という風に解釈してくれ。正確に話すと、恐ろしく長くなる。何より、時間もないんだろう?」


 御使いと名乗るところで、苦渋が顔に表れてしまうのはどうしようもなかった。

 とにかく強引に、現実に意識を切り替える。

 実際、状況は切羽詰まってはいた。


「事態を把握してくれているようで、何より」


 うん、と頷くエクエスが名乗るのかと思ったら、一歩引いた。

 代わりに前に出、スカートを摘まんで頭を下げたのは、エクエスの主であった。


「先ほどは、助けて頂きありがとうございました。私、名前をミールィ・エンベル・レイノと申します」


 自然と醸し出される高貴な雰囲気は、ウノに知っている鍛冶屋を思い起こさせていた。


「……真ん中に、国の名前が入っているんだが」

「お察し下さい」


 その辺りは、自分では語れないらしい。

 ウノとしては身分とかはどうでもよかった。

 何せ、正真正銘の一期一会であり、ここを去ればまず再会する事などあり得ないのだから。

 そして次に名乗ったのは、巨漢のオークだった。


「ぶひ……おれ、なまえ、セルドいう。かんしゃ」


 さらにエクエスが名乗り、今度は女神二柱の番となった。

 が、イシュタルは肩を竦めて、首を振った。


「アタシはもう名乗ったわ。後はアンタだけじゃない?」

「にゃー」

「にゃー」

「にゃー」


 幼女神バステトの左右に、黒猫が二匹いつの間にか出現していた。


「って増えてる!?」

「神像が三つあるせいにゃ」

「っていうか、お前どこのバステトにゃ?」

「ウチキは予備(スペア)なのにゃー」


 女三人寄れば姦しいというが、これはもう姦しいというより混沌であった。

 ウノの喉から、呻き声が漏れてしまう。


「……神様(バステト)が三柱。まるで悪夢のようだ」

「まったくだわ」

「酷い言い草だにゃっ!? とにかく同調と統合にゃっ!!」

「にゃ」「にゃー」


 バステトに、左右の黒猫(バステト)が飛び掛かった。

 直後、強い光が放たれ、それが収まると黒猫は消えていた。

 残ったのはバステトだけ――


「真・バステト爆誕なのにゃ」


 ――つまり、最初のままである。


「違いが分からん」

「同じだわ」


「違うが分かるのはウチキだけなのにゃ。要はこの時代のバステトに、ウノっちの時代のウチキの意識を同調させたのにゃ。まあそれはさておき、ウチキはバステト。このダンジョンで崇められし神、バストと呼ばれる存在なのにゃ」


 ミールィが目を見張り、跪く。

 それに構わず、バステトは大階段に視線を向けた。


「状況は把握してるのにゃ。ミールィを逃がす為に、皆はまだ上で奮闘しているのにゃ。ウノっちも地図(フレーム)で確認するのにゃ」


 ウノは脳裏に意識を向け、ダンジョンの地図を展開した。

 全三層なのはウノの時代と変わらず、中庭までの通路も存在する。

 緑色の光点が複数あるも、少しずつ消えていっていた。

 動きが速い赤い光点が、騎士なのだろう。


「……何気にダンジョン地図が、この時代に更新されてる」

「そこはとりあえず置いておくのにゃ。ここでやるべき事は単純で、まだ生きている皆を逃がす事なのにゃ。生き残る事が、勝利条件なのにゃ」

「しかし神よ。逃がす場所がありません。ここは既に行き止まりです」


 エクエスは、無念そうに項垂れた。


「ん?」


 はて、裏手は大きな川に通じていたはずなのだが。

 ウノ達が掘るまでは、崩落していたが……この時代でもまだ、潰れたままなのだろうか。


「にゃー、それがちゃんとあるのにゃ。祭壇の裏手の壁は薄く、大きな川に通じているのにゃ。セルどんやまだ残っているパワー系モンスター達で崩せば、あっという間なのにゃ」

「何と!?」


 エクエスが目を見張る。

 ウノが祭壇の裏手を覗き込んでみると、なるほど崩落する以前に、壁になっていた。

 つまりこれから、あれを崩すのか。

 なんて事を考えていると、チラチラとミールィが何か言いたげにウノを見ていた。

 何だろうと思って、近づいてみる。


「……あの、バスト様の言うセルどんというのはもしかして、セルド様の事ですか?」

「そこに突っ込んでたらキリがないから、諦めてくれ」

「本来の名前より、長くなっているのもですか?」

「うん、そこも。というか俺が正にそれだし」


 ウノに到っては、あだ名が名前の二倍の長さになっているのである。

 パンパンと、バステトが小さな手を鳴らした。


「はい、話を戻すのにゃ。ボケたい所だけど、ガチに時間がないのにゃ。皆で生き残りを回収をするのにゃ」

「ぶふぅ……っ」


 鼻息も荒く、オークのセルドが立ち上がる。


「セルどんは、裏手の掘削作業担当なのにゃ。重要な仕事なのにゃ」

「……わかった」

「私も、お供します!」


 ミールィも張り切っている。

 スッと手を上げたのは、エクエスだ。


「この作戦、逃がすのとは別に、誰かが騎士団を引きつける囮にならなければなりませんな。ならばその務めは私が果たしましょう」

「あー……」


 なるほど、とウノはこの後の展開を把握した。

 そして、エクエスに()()を伝えるべきか、悩んだ。

 そんなウノに釘を刺したのは、バステトだ。


「ウノっち、分かっているはずなのにゃ」

「いや、でもさ」


 ……考える。

 そしてウノは、伝えるのをやめた。

 これに関して結末はおそらく変わらないし……何にしろ、彼女とはまた、再会するのである。

 その時にまた、詫びればいい。


「エクエスには、アタシが加護を与えるわ」


 イシュタルが進み出、エクエスの肩……は、届かないので腰に手を添えた。

 金色の光が手から放たれ、エクエスの全身を淡く包み込む。


「戦神の加護よ。これで数時間は、あの騎士達相手でも余裕で渡り合えるはずよ。ただし、加護が消えれば当然、元の身体に戻るわ。それを忘れないで」


 エクエスの纏う光が安定すると、代わりにイシュタルの身体が薄れ始めた。


「エスタル様のお身体が……」

「心配しないで。神像に蓄えてた力を使ったから、ここでの存在が消えるだけよ。別に死ぬ訳じゃないし……じゃ、マスター、バステト。後でまた合流ね」

「分かった」

「あいあいにゃー」


 イシュタルの力の源である、真新しいエスタルの神像を、ウノは荷袋から取り出した。

 それを、ミーリィに手渡す。


「この神像は、アンタが持っててくれ。旦那の方はこれから重労働だし、余計な荷物になるだろ」

「きゃあ、旦那様だなんてー♪」


 ミーリィは両頬に手を当て、いやいやをするように恥じらった。


「語尾に音符がつくほど浮かれてるのにゃー。とにかくそれは、みりんが持つのにゃ」

「あ、はい」

「おい神様、その略称はちょっとどうなんだ」

「お気になさらずに。ですが、よろしいのですか? これは、大切なモノなのでは……?」

「いや、いいんだ。それは多分この為に預かってたんだと思うし。また、いずれお目に掛かる時が来るしな。それも、意外に近いところで」


 ウノは、テノエマ村のある方角に、視線を向けたのだった。

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