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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
101/140

深層手前にて

 お待たせしました。

 ――ウノ達が、城下町オーシンの冒険者ギルドにいた頃。


 所離れて、ダンジョンの北にある『深層』の手前。

 夕暮れ時のそこに、ハッス達はキャンプを構えた。

 仲間の数は三人、全員が森と同色のローブを着込んでいる。


「さて、ここで一泊か」


 その一人、貴族の妾の息子という青年が、どっかと横倒しになった木に腰掛けた。

 作戦上、ハッス達は人目につく訳にはいかない。

 なので、万全を期して村などに泊まるという事はしなかった。

 森の周囲もどうしても目立ってしまうし、だからといってダンジョンには見張りがいるので、迂闊に出入りなど出来ない。

 ならばと思い切ってここを選んだのだ。


「森のモンスターも、大した事ないな。なるほど、その気になれば、自給自足も難しくなさそうだ」


 自称芸術家の卵が、荷を開く。

 火を使う訳にもいかないので、食糧は携行食だ。


「糞は完全に垂れ流しだけどな」


 下品に笑いながら、水袋を煽るのは、その粗暴さで騎士団を除隊になったという男である。

 だが、体格から見ても、実力はありそうだ。


「汚ねえなあ。飯の最中だぜ」


 笑いながら、ハッスも携行食を囓る。

 ハッスは彼らの名前を知らないし、知らなくても別にいいと思っている。

 それはお互い様なのだろう、彼らもハッスの名前を呼ぶ事はない。

 ある意味で、気楽な関係であった。


「ハッ、気になるなら食わなきゃいいじゃねえか」

「そうは言ってねえよ。エチケットの問題だ。まったく下品な連中だ」

「待てよ、私を数に入れるな」

「そうだ、言ったのはコイツだぞ」


『貴族』と『芸術家』が揃って、『騎士』を指差す。


「全部オレ様が悪いのかよ!?」

「言ったのは事実だろ」


『貴族』の言う通りなので、『騎士』は言葉に詰まる。

 やりとりを聞いていたハッスは、スッと二人の間に手を伸ばした。


「……おい、静かにしろ」

「何でだよ、話はまだ終わってねえ、ぞ……」


 チッと舌打ちして、『騎士』もハッスに倣う。

 さすがに元本職だけあって、その辺りの勘は働くようだ。


「どうした」

「何か動く気配がした」

「ああ。それも、こっちに近づいてくる」


 ハッスと『騎士』は、動かず森の奥を探る。

 自然と手は、剣に伸びていた。


「また、魔物じゃないのか? なら、ぶち殺せばいいだけじゃねえか」

「一匹だけならな」


 気楽な『貴族』に『騎士』が視線を動かさないまま、言う。


「……おい、殺すのはまずいだろ。今、騒ぎを起こしたら計画が台無しになるんじゃないか」


 一方『芸術家』は慎重論を唱えた。

 やれやれ、とハッスは肩を竦めた。


「とぼけりゃいいんだよ。ダンジョンに行こうとして、道に迷ったってよ」


 他の三人は顔を見合わせ、冴えてるなとハッスを見た。


「それだ」




 やがて、森からは弓を構えた一匹のコボルトが姿を現した。


「だれだ?」


 人の言葉を話すコボルト……となると、ダンジョンの関係者だろう。

 人語を解するモンスターの噂は、この辺りだとすっかり普通になっている。


「何だ、コボルトか」


 気を抜く『貴族』を、ハッスは小突いた。


「おい、よせよ。ああ、すまないね。ダンジョンに行こうとしたんだが、道に迷ってしまったんだ。よければ案内してくれないか」

「……なあ、今入ったらまずくないか」


『芸術家』が懸念を抱くのは当然で、計画では騎士団が集うのは明日になる。

 ハッス達の工作はダンジョン内部で行う事になっているし、まあ二日連続ぐらい、どうという事はないかもしれないが、リスクは避けたい所である。

 それは分かるが、ハッスは首を振った。


「話の流れ的に、こうじゃないと不自然だろ?」


 この程度のイレギュラーは、フォロー出来るレベルだ。

 コボルトが弓を下ろしたのを確かめ、ハッスはホッと一息ついた。

 その時だった。


「あなたがどうして、ここにいるのです!!」


 一喝するような声が、森に響いた。

 声の主は遅れてやってきた、小さな狼である。

『騎士』が、横目でハッスを見た。


「しっているのか?」


 チッ……とハッスは、小さく舌打ちした。

 テノエマ村で見覚えがある、仔狼だ。


「中庭のイーリスさんの前の家を、放火しようとした人なのです!! それに、ウノさんにもからみました!! 返り討ちにあいましたけど!!」


 元気のいい仔狼の発言に、ハッスの顔が引きつる。


「おい、ハッス。お前の知り合いみたいだぞ」


『貴族』も、後ろからハッスを小突いてきた。

 こうなってくると、状況もさっきまでとは違う。

 ハッスは、後ろ手に剣を抜く。


「チッ……作戦変更だ。コイツらはここで、口を封じるぞ。一日ぐらい、何とかなるだろ」

「しょうがねえな」


 獰猛な笑みを浮かべ、『騎士』も腰を落として臨戦態勢を取った。

 一方、一旦は弓を下ろしていたコボルトも、再び矢をつがえ直していた。


「……あやしい奴らだ。動くな」

「うるせえ……よっ!!」


『騎士』の手が瞬くと、コボルトの喉元に短剣が突き立った。


「ぎゃっ!?」


 悲鳴を上げて、コボルトが倒れる。


「だれか!! 来てくださいです!」

「叫ぶんじゃねえ、化物!!」


 ハッス達が剣を構えながら、仔狼に殺到する。

 しかし、彼らの刃が仔狼に届く事はなかった。

 不意に頭上が暗くなった……と思ったら、馬ほどの大きさの狼が二頭、ハッス達の前に降り立ち、その攻撃を阻んだからだ。


「なっ!?」

「……ぐるる」

「父様、母様!!」


 まさかの親狼の登場だ。

 タラリ……と、ハッスの頬を冷や汗が流れる。

 しかも、悪い事はさらに重なる。

 森の向こうから、新たな声が聞こえてきたのだ。


「何だ、悲鳴がきこえたぞ」

「こっちからだったな……血のにおい……っ!?」


 おそらくは、今殺したコボルトの仲間達だろう。

 声の数は複数、二匹、三匹では聞かなさそうだ。

 戦力差は明らかだ。


「ヤバい、逃げるぞ」


『貴族』が、ハッスの背中を小突いた。

 そして、身を翻して、()()()へと駆け出す。

『芸術家』も懐から何かを投げると、『貴族』の後を追う。


「あ、おい、そっちは駄目だ!! そっちは深層って呼ばれる場所で……」

「いいから走れ!! 来るぞ!!」


『騎士』が、ハッスの襟首を掴んで、やはり森の奥へと走り出す。


「ぐえっ!!」


 凄まじい膂力で、それなりの体格であるはずのハッスを、軽々と持ち上げていた。

 もちろん狼やコボルト達が、それを見逃すはずはなく、彼らを追おうとする……が。

 直後、足下から閃光が奔り、追っ手達の目を灼いた。

『芸術家』の投げた閃光弾だ。


 ――こうして、ハッス達は危険な『深層』に身を潜める事となった。

 続きます。

 ここからは、ウノ以外の視点もちょっと増えてきます。




 あと、更新が遅れる通知的に書いた即興が以下のモノとなります。


「主様、貧乏揺すりをしていても、状況は動きません」

「分かってはいるんだがな……」

「今は、待つしかありませんね」

「ああ……だけど、焦れる」

「では、私を愛でるという方向ではどうでしょうか。こう、羽の手入れなど気が紛れると思います」

「……シュテルンは、ぶれないなあ」

「ちなみに主様に手入れをされると、余りの気持ちよさについうつらうつらと……」

「いや、寝るな。今寝られると困る」

「しかしそうは言われましても……zzz」


 200文字以上書かないと、投稿出来ないみたいですね。

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