第7話「しっかり者の幽霊ちゃん?」
昔からお化けは嫌いだ。なぜかって?殴っても、蹴っても通じないし。逃げても突然現れる敵わない相手だ。怖い話とかは大丈夫なんだけど、実物を目の前にすると。身体中の震えが止まらなくなり、意識が飛びそうになる。
『こ・ん・ば・ん・は』
「うわぁぁぁぁぁぁあッッッ!!?…………」
俺はガバッと布団から起き上がる。パジャマは大量に汗を吸ったみたいでびしょびしょ、長い長い髪も汗でクシャクシャになっていた。
「んだよ……夢かよぉー……勘弁してくれよぉ」
俺は安心してまた倒れるようにベッドに持たれる。そのはずみでベッドは軋む音を出す。先程の叫び声を聞いたのか
「璃季様?どうかされましたか?」
鴒が部屋にやってきた。プレートにティーカップに紅茶の入ったポットを乗せて。
「へ?あ、あぁ。いやちょっと変な虫が居てな?一瞬びっくりしたんだよ、うん」
「ほー、虫ですか。さぞや大きな虫だったのでしょうね?大量の汗に、髪がクシャクシャ。確か私が知っている限りでは璃季様は虫は嫌いではなかったはずですが?」
ちぃ、誤魔化せなかったか。俺はベッドから出てシャワーを浴びようとすると
「おや、御一緒致しましょうか?幽霊(虫)が怖いのでしょう?」
鴒はクスクス笑いながら俺にそう言ってくるが
「おほほー、断るッッッ!!!!」
俺は部屋にある個室シャワーを使って汗を流したのだった。
髪をポニーテールにして、制服に着替え食堂にいくと。
「あれ?誰もいない?」
鴒と食堂に来たが誰もいなかった。と思ったが
「あら、おはようございます璃季さん」
「おはようございます夜埜依さん、あの、皆さんは?」
「ほかの方は朝練などで先に行っていますよ?私は運動は得意ではありませんので」
夜埜依は苦笑いしながら話してくれる。
「部活って、聖應みたいな学園には無いのかと思いました。」
「確かに、聖應は教が子を見る学園ですから一般的なことはしない。そう感じるかも知れませんが、聖應は生徒の自主性を強く押しているので自立するなら、部活を始めたりして責任とは何かを学ぶ。と言ったところでしょうか」
俺は感心して思わず拍手。まだ聞いていないことがあるので聞いてみる
「部活はどういったものが?」
「基本的には色々あります、一般的なものからオリジナルで作る部活など。私は折り紙部部長をしていますのっ」
お、折り紙部?なんだそりゃ、しかしそんなことは聞けないないので
「折り紙部はどういった活動を?」
「はいっ、折り紙を楽しく折っています」
すんげぇ笑顔が眩しくて、ツッコミたいけどツッコめないこの感じ。話をしていると時間もいい感じになってしまった
「璃季様?そろそろ学院にいきませんと、遅刻してしまいますよ?」
「え?あぁ、そうですね。夜埜依さん?御一緒にどうですか?」
俺はテーブルにあったサンドイッチの入った弁当を鞄に入れながら、夜埜依を通学路を共にするかを尋ねる。
「では、御一緒させていただきますっ」
鴒は寮の玄関で別れて、夜埜依と二人で学院に向かった。
学院に到着すると、グランドには陸上部。武道館では気合いの入った声が聞こえてくる。
「何か部活でもしてみようかな」
と、口に出してしまうと。
「では、体験入部をしてみてはいかがでしょう?担任の先生に許可を得ればできますよ?」
夜埜依が提案してくる、俺自身部活は好きで身体を動かす系は特に大好きだったりする。
「では、少し職員室に行きますので夜埜依さん、また寮で」
夜埜依は『わかりました、ごきげんよう』と言うと教室へ向かった。俺は梶浦緋紗子先生に会いに職員室へ、緋紗子先生はすぐに見つかり体験入部の事を話すと
「わかりました、じゃあこれを放課後に首からぶら下げて、体験入部したい場所へ行ってみてね?」
「わかりました、では」
職員室から去ろうとすると、先生に呼び止められる。
「がんばってね?」
「は、はぁ。有り難うございます」
まぁ体験入部くらいでがんばる必要はないと思うのだが。俺は教室に行くと皆と挨拶を交わし、最初の授業を開始した。
深夜勢だった俺にとって、朝の授業内容が頭に入ってこない。ちなみに移動授業なので後ろの列で窓際。最高の睡眠場所、窓に顔を向けて一眠りしてやろうとしたが。
コツン、コツンと肘を杖にしていた手の甲に何がが当たる。なんだ?と思い机を見ると
「消しカス?」
「君、今寝ようとしていたな?」
知らない奴に小声で話しかけられる。別のクラスか、目がキリッとしていて如何にもお姉様番長してそうな。黒髪にウェーブが掛かっていて、ボーイッシュ?よりは女の子しているが
「す、すみません。朝は弱くて」
「全く、授業を真面目に聞かなければ自分のためにならない。気をつけるんだな」
な、なんだ?俺とキャラ被ってないか?俺より男してるように感じたがしっかり女だ、胸あるし。俺はとりあえず
「あのー、お名前は?私は竹ノ宮璃季と言います」
「雪皇紀だ、もう居眠りはやめることだな」
な、なんか俺が苦手なタイプだ。これからはかかわらないようにしよう、怖い。午前中の授業は終了し、お昼。俺はサンドイッチを持ってテラスへ
「ふぅ、お腹すいたな。うぉ!うまそう!」
弁当の蓋を開けると色々なサンドイッチが詰められていた。サンドイッチを1つ摘み食べようとすると……
「ひぃ!!?な、なんだ?!!」
な、なんか誰かに見られてたような。さ、寒気が
「どうかしましたか?」
ポンと後ろから肩を叩かれ
「ぎゃぁぁぁ!!……て、海利さん?」
海利と夜埜依の2人だった、変なポーズで驚いてしまった。すぐに座り直し
「び、びっくりしました。お二人でしたか」
「テラスに行くのを見かけまして、追いかけてきました。」
「話を聞きましたが、体験入部をする……そう聞きましたが」
女の子の噂って広まるの早くないか?下手に何も言えないぞ………
「何か楽しい部活があればと思いまして、海利さんはどこか入っていますか?」
「私は陸上部です、夜埜依さんは折り紙部」
海利が陸上部か、意外だな。身体つきはそんなにパワフルに見えないんだが人は見た目じゃないんだな。
「私も何か運動部に入ろうかと悩んでいまして」
「確かに璃季さんは、スポーツが得意そうな感じはしますっ。可愛いポニーテールがカッコ良さを出しているといいますか」
ぽ、ポニーテールはまぁ仕方ないが。可愛いって……男ですよ夜埜依さん?
「どこかオススメはありますか?」
「なら陸上部では?」
「悪くはないですが、ちょっと苦手かも?」
嘘ですブルマが嫌なんです許してください。
「なら、フェンシングや剣道は?」
「フェンシングはスピード勝負で、昔コテンパンにされてからトラウマに」
薫子のせいでな。中坊の時に誘われてやったけど、アイツにボコボコにされてから嫌いになったもんだ。
「では、今日剣道部に向かってみます。」
「剣道部にはたしか、『鬼道の女将軍』が居るはずですね」
な、なんだそのおっかない通り名は………あれか?薫子や千早とかに付いてた『騎士の君』とかあんなやつか?
「将軍は成績トップであり、生徒会会長ですから。人気もすごいんです。」
「なるほど……どんな方か気になりますね。」
というか洋学なのに、日本取り入れてるのもミッション系が関係しているかはさて置き。素早くサンドイッチを食べて
「ごちそうさまでした。さて、先に戻っていますね。」
2人とは別れて、俺は放課後を楽しみに授業を進めて行ったが。
「なんだと」
武道館の扉に貼り紙があった。『今日は休部。』せっかく楽しみにしていたのに、仕方なく寮に引き返すことにした。
寮に着くとまだ誰もいないようだ、鴒も今は屋敷に戻っている。俺は自分の部屋に入ると
「!?!?だ、誰か居るのか!」
そう、またも視線。なぜだ?やはり昨日寝る前に見たのは夢じゃなかったのか?!
「で、出てこい!!!」
その一言で、クローゼットの扉がゆっくりと開き。出てきたのは
「…」
俺はもう汗がやばい、幽霊だ。間違いない幽霊だ。あ、足は……あれ?足あるぞ?それに浮いてないし………
「あ、あのー。あ、貴女は?」
するとその幽霊?の女の子は何かが弾けたようにこちらにジャンプして抱きついてきた
「お姉さまぁあ!!ボクを見つけてくださって有り難うございますぅうう!!!」
「ちょ?!?はぁ?!?!待て!待って離れっ!離れなさいって!!」
何がなんだか訳わからず、とにかく落ち着かせることに成功。お互いベッドに座る
「ボクは、杁江果歩と申します。1年で昨日この学院に久しぶりに来ました。病気していたので」
「じゃあ、昨日の夜のポルターガイストってなに?」
とりあえず名前と状況を聞いていくうちに落ち着いた。
「あー、あれはきっと璃季お姉さまのお付きの人かと」
「あいつ覚えてろよ………」
あまり納得はできないが、幽霊じゃなくてよかった。本当に幽霊だったらもう俺は死んでたよ………
「でも良かったぁ、入院退院を繰り返していたのでボクにはお姉さまがいなくて寂しくて。これからはよろしくお願いいたします!璃季お姉さま!」
なんか、きゃっ!って顔になって照れてるし………確かに1年は歳上のことをお姉さまって呼ぶと聞いた。エルダーになったら、同期関係なくお姉さまになるんだったか?
「これからますます………大変なことに………」
俺はベッドにそのまま倒れて、盛大なため息を吐いたのだった。