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「乙女はお姉さまに恋してる―after.elder―」  作者: かずとん。
―夏の奇想曲―
38/39

第38話『サンシャインデイズ』

夏休みに入ってから数日、璃季は実家に戻って長い休日の前半を楽しんでいた、それも引きこもってインターネットやゲーム、これがエルダーである姿なのだろうか?


しかしそれを誰も止めたりしなかった、否、できなかった。

両親は海外へ仕事、鴒は少しの間休日を与えられ屋敷には誰もいなかった、毎晩影祢が晩御飯を届けに来る以外誰も訪ねてくる事は一切ない。


「よし!そこだ!あー!違う違う!」


インターネットのオンラインゲームに夢中の璃季、朝昼と鴒が居ない事をいい事にジャンクフードばかりを食べている、しかしゴミは綺麗に片付けてある、そんな夢中になっている時だった。


プルルルル!プルルルル!プルルルル!


屋敷に鳴り響く固定電話の着信音、璃季の部屋に備え付けられた子機にもそれは鳴り響く


「うぁ!良いとこなのに!」


ゲームを中断し席から立ち上がる、子機を雑に取り上げ通話ボタンを押す


「はい竹ノ宮ですがなにか?」


ゲームを中断されたイライラで応対まで雑になる、すると電話口から聞こえてきた声で姿勢を正すことになる


『竹ノ宮様、(わたくし)は雪皇紀様のメイドをしております、九重(ここのえ)でございます、そちらに竹ノ宮璃季様はご在宅でございますか?』


雪家からの電話にちょびっとビビる璃季、なぜか誰にも見られていないかを確認してしまう、誰もいないけど。


「璃季は私です、どのようなご要件でしょう?」


『璃季様でしたか、はい、今皇紀様にお電話を代わります』


なにやら受話器を渡すノイズが聞こえた後、ハッキリとした声が聞こえてくる


『お姉さま?私です、この間のお礼がしたい。今から時間はあるだろうか?』


お礼、この間の溺れた件の奴だ。あれからも鴒を伝って何度もお礼をと来たが断っていた、しかしこれがなかなかしぶとくて、諦める様子がなかったので渋々受けることにしたのだ、日時は後から連絡するとか言っていたのに突然今日で今かららしい


「は、はい、まぁ大丈夫ですけど」


『わかりました、あとから迎えに行きます』


そして一方的に切られた、子機を元のアダプターにカチッとはめ込み戻す


「って!今から!?お、お風呂入ってないし何にもしてないってば!!」


髪は縛ってお下げ髪にしてある、きっとお風呂に入らないとヘアゴムの跡が付いているはずだし、何を着ていくにしても組み合わせがわからない、メイク道具はあるが実家に帰ってからはしてないために不安。


「ま、まずい………」


鴒に連絡をしようとするが、そのポケットから取り出した携帯をそのままポケットへ戻した、クローゼットを開けると中からレディースのデニムズボンとワイシャツを取り出す、靴は運動靴にした、鏡で見ると


「ちょっとスポーツ好きな女の子にしか見えないよね?大丈夫だよね?」


自分でなんとか言い聞かせる、髪をポニーテールに縛るとタイミングよく外から車のクラクションが聞こえてきた、どうやらもう来たらしい


「早いって!あ、あとは財布!!」


財布を握るとそのままの勢いで部屋から飛び出し、玄関へ向かうとリムジンが横付けされていた、璃季が出てきたのを見ると助手席からメイドが降りてきて、後部座席の扉を開けてくれた


「お待ちしておりました、さ、お乗りください」


多分このメイドさんが九重さんだ、鴒とは違って母性が溢れている、車に乗り込むと対面する形で皇紀と出会った。


「お姉さま、お久しぶりです」


「あ、はい、お久しぶりです」


「お姉さまは普段はそのような格好を?」


「え?あ、あぁたまたまです、はい」


固い、固いぞオレ………苦笑いをしながらも夏休みの間何をしていたかなどを話していた、もちろん溺れた件の事も謝られたが気にしなくていいと言っておいた、しかし今は何処にむかっているのだろうか


「皇紀さん?今はどちらに向かわれているのでしょうか?」


「お昼にどこか行こうかと思いまして、何か食べたい物はございますか?」


「そうですね………ラーメンなどはいかがでしょうか?」


「ラーメン?ラーメンとはあのラーメン?」


「おそらくそのラーメンです、美味しいお店があるんです」


皇紀はラーメンの存在は知っているが食べたことはないらしい、璃季は店の道を九重に伝えるとそのお店に向かって車は走り出す、ラーメン自体はそんなに食べない(食べさせてくれない)璃季は久しぶりのラーメンにちょっとテンションが上がる、唯一かなり美味しかったラーメン屋、あのおじさんは元気だろうか。


色々している内にそのお店に到着、車から降りてきた皇紀の一言


「衛生面や建物の構造は大丈夫なのか?」


まさかそこに目を向けるとは思わなかった、ガラスの引き戸を引いて暖簾(のれん)を潜ると


「らっしゃぁぁせぇぇえ!!!」


「うおっ!?」


店長であるおじさんの声にビクッとなる皇紀、璃季は慣れた感じで挨拶していく


「お久しぶりです、おじさん」


「お!お嬢ちゃん!相変わらず可愛いし、べっぴんだねぇ!おや、そちらのお嬢ちゃんも連れかい?」


「はい、おじさんこっちでいいですか?」


座る席に指を指すとおじさんはそこに水を入れたコップを置いてくれた、璃季はそこに座ると少し放心状態の皇紀を席に呼ぶ


「皇紀さん?こちらへどうぞ」


「あ、あぁ、わかっています」


皇紀は軋むパイプ椅子に座る、璃季はおじさんからメニューを受け取ると皇紀にも見えるようにメニューを広げる、皇紀は驚いていたが少し落ち着いてきたようだ


「おじさん、私は肉大で」


「おうよ!で、そちらのお嬢ちゃんは?」


「で、では同じのを」


おじさんはメニューを璃季から受け取ると厨房に戻りせっせと動き出した、皇紀はなんだか周りからの視線にちっちゃくなっていた、『ありゃお嬢様だな』『綺麗な髪だなぁ』『どうしてこんなところに?』など声が聞こえてくる、気持ちはわかる、初めて瑞穂に連れてこられた時に受けた事、言わば歓迎の言葉だ。


「お、お姉さま、作法やマナーはあるのですか?」


「ぷっ!」


「え? 」


いかん、思わずフラッシュバックした、瑞穂が貴子をラーメン屋に来た時に今皇紀が言ったような事を話してくれたのを思い出した、お嬢様って似てるんだなぁ。


そしておじさんが丼を運んできてくれた、皇紀は初めてラーメンを目にしたのか、湯気が掛かるくらい顔をラーメンに近づけて見ていた


「では、いただきます」


「あ、ちょっと待ってくれ!」


「なんでしょう?」


「いや、お姉さま、本当にマナーとかは?」


「ありません、楽しく、自分が食べたいように食べるのがマナー、らしいですから」


瑞穂の受け売りだ、貴子はそれ以来仕事のお昼にはここに瑞穂と来ているらしい、まぁさすがに今日は来ないだろ土曜日だし。


「ズルズルズル、ん………美味しい」


「い、いただきます……チュルチュル………お、美味しい!」


「そうでしょ?そうやって食べてみたり、スープを飲んでみたり、麺とメンマやネギを絡めて食べたりしてオリジナルの食べ方を見つけるのがマナーって感じです」


「ふふっ、なるほど」


暫く、ラーメンを食べながら話をして盛り上がった、ラーメン屋を出ると


「また来てみたい、また一緒に来てくれるだろうかお姉さま?」


「そうですね、今度は私が奢ります」


「それは楽しみにしておきます」


帰りの車中もどんなラーメンがあるのかなど質問され、日本には様々なラーメンがあると種類だったりなどを大まかに説明をしてあげた、屋敷に着く頃にはお礼の事よりラーメンになっていたのでもう溺れた件については忘れたのかもしれない、皇紀にはまた夏休みを明けてから会いましょう、そう言って皇紀を乗せたリムジンは屋敷から走り去った。



「さぁて、ゲームの続きをしようかな」


屋敷に入ろうとすると、後ろから自転車のベルを弾く音が聞こえてくる、振り向くと自転車に乗っていたのは影祢だった、あの大和撫子、スーパーお嬢様がママチャリに乗って訪ねてくるとか聞いたことない。


「璃季様、来週の末、お時間はあります?」


「自転車漕いでわざわざそれを聞きに来たの?メールや電話でいいんじゃ?」


「たまたまこちらを通ったのでついでにと、それで大丈夫でしょうか?」


すっごい真剣な眼差し、何かあるに違いない、もしかしたら悩み事の相談か?


「なんだよ、悩み事があるなら――」


「では、寮の皆さんと海に参りましょう」


「…………へ?海に?」


「はい、二日間程お泊まりで」


「お泊まり?…………なんですと?」



海、水着、こうなるのは当たり前。また泳ぐということはもちろん璃季も水着を着ないといけない、考えただけで目の前が朦朧とする、返事をする前に影祢は寮の皆に連絡を回して行ったのだった。

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