第36話『お姉さまが2人』
朝、プール授業の前に職員室へ向かい、担当の先生にあの事をつげることにした。あの事とは女の子の日の事だ、正直恥ずかしい以上に消えたい気持ちだが、これ以上に作戦は見当たらず決心してここまでやってきた。
職員室の扉を開いて挨拶をする、学院の乙女ならこのくらい当たり前だが、まだ少し慣れない。
「失礼致します、3年Cの竹ノ宮璃季です、体育担当の幡先生はいらっしゃいますか?」
「おや、竹ノ宮。どうかしたかい?」
「あ、あの、実は………その、こ、この辺がですね……い、痛いと言いますか………」
なんだろう、頭の中ではいくらでも簡単に言えるのにいざ口に出すとなると声がうまくでない、さらには挙動不審。怪しまれてもおかしくない
「んーなんだ?お腹痛いのか?」
「あー、近いですが、違うといいますか………あの、アレなんですアレ……」
「アレ?アレって………あーなんだそういう事か、そんな恥ずかしがる事か?」
「へ?あ、いえ、まさかエルダーになったばかりの人間がアレが理由で休むだなんてお恥ずかしい限りでして………」
背中や手の平は汗でグッショリ、額も僅かながら汗が垂れている、先生はそれに気づいたのかポケットをまさぐって、はいっと何かを手渡された。
「水で飲むんだぞ?鎮痛剤だからそれ、とにかく今日は見学ね、重い方なら仕方ないしな?あははっ」
あー、人生で初めて女の子の日とか言っちゃったよ、言い方は違っても一緒だよね……鎮痛剤までくれたし、もう一生使わないワードだから経験値上がるかな………
先生と別れた後、学院にあるプールへ向かった。
プールに着くと、スクール水着のパラダイスが目の前に広がっていた、ちなみに璃季は体操着だ、長ズボンに半袖。
適当な陰に入ってプールでチャプチャプしている乙女達を眺める
「そんな、お姉さまの水着姿を見られないだなんて……残念ですわ」
「きっとスタイルがよろしいのではなくて?きっと私達がお姉さまの水着姿を見てしまったら、倒れてしまうに違いありませんわ!」
なんだか外野がキャーキャー言っている……男の子なのに、素足でコンクリートをペタペタ歩いて璃季の背後に近づき、急に視界が暗くなる、どうやら誰かに目を両手で隠されたようだ。
「だーれだ」
「影祢さん?もう子供ではないのですよ?」
「バレてしまいましたか」
影祢は直ぐに手を離す、暗い世界から影祢の水着姿に変わる、スタイルがかなり良い。身長はそれはど大きくはないが、その分出るとこは出ている様な感じ、影祢に続いて夜埜依、海莉、果歩が現れる。
なぜ一年生や他のクラスが混じっているのかというと、今日のプール授業は、海で溺れたりした時の救助の仕方などを教わるためだ。合同訓練と言えばわかりやすいかもしれない
「お姉さまの水着姿を見たかったです、残念です」
「ごめんなさいね果歩ちゃん、次は多分大丈夫だから、ね?」
「璃季さんのスタイルが気になりますわね、あんなに食べているのにあまりお変わりになっていないようですし」
「そ、そんなことありませんよ?私も太ったりいたしますし、それこそ牛の様な生活をしていましたから」
牛の様な生活、ここに来るまでの生活のことだが今考えたら、よく病気にならなかったものだ、ファーストフードも黙って食べたりしていたし、鴒にバレたらどうしようかとか考えたりもしたな。
「想像ができません、確かに璃季さんは制服やブーツなどを見るとアウトドア派の気がしていたのですが」
「運動は好きでしたから、夕方のお散歩などよく致します」
お散歩と言う名の筋力トレーニングだけど、いやオレが好きでやってたわけじゃなく、食べたら食べた分動けと鴒に言われたからだ。
「海莉さんや夜埜依さんもスタイル良くて羨ましいですし、果歩ちゃんもこれからも楽しみよね」
「そ、そんなぁ、果歩はまだまだですしお姉さまのようになりたいです!」
せっかくのプールの時間を会話で終わらせるのはダメだと思い、プールで遊んできてくださいと影祢を含めた4人に告げると、夏には最高の娯楽である水の中へ入って行った。
璃季は頭にタオルを載せる、陽射しを直接浴びるのは良くない、持参した水筒を口にしていると、何処からか黄色い声があがる。声がした方を見ると
「きゃー、皇紀お姉さま!」
「素晴らしいです会長!」
どうやら皇紀がプールへ現れたようだ、その皇紀の場所へ真っ先に現れたのは七条アリス、皇紀への愛は半端ない。ファンクラブまで作るくらいだから相当好きなんだろう、皇紀は周りを見渡して璃季を見つけると歩き出し、璃季の居場所へやってきた
「お姉さまは休むのですね」
「はい、体調不良です。それより今まで通りでいいですよ?」
「しかし、お姉さまである事に違いはないので、あまりご無理はされぬよう」
表情は変わらないが、言葉に棘は無くなった気がする。そういえば前からだが、何故最後の獲得票をオレに入れたのか未だに謎だったことを思い出す。
まぁその内わかるかもしれないから、今はいいか。
皇紀はプールに入ると、気持ちいいのか微笑みながらチャプチャプっと軽く泳いでいた、気持ちよさそうだ。
「しかし………暑い…………」
本当はプールに入りたい、しかし、水着になったら最後どうなるか結果はわかっている、暑いのを暫く我慢していると誰かに声を掛けられたのでそちらに視線をやると。
「それっ!!!」
「うわっぷぅう!?」
パシャン!っと顔面に水を掛けられた、不思議とイラつきは無く水の冷たさに身体が喜んでいる、水を掛けた犯人は影祢だった。
「お姉さまも少しくらい、ね?」
「もー、少しだけですからね?それ!」
プールの端ギリギリまで歩いて近づき、手で水を掬い影祢に向けて掛けた、少し体操着が濡れたが気持ちいい。
その後救助訓練をして、3回目のプールは終わりを告げた。
そして4回目のプールの日、いよいよ鴒が完璧な変装をしてプールへ向かう、璃季は適当に隠れて様子を見る、何やら女子と話していたり、水を掛け合ったりしている。今は問題ないが、なんだかテンションが高いせいか璃季とは違った性格が出てきている、
そして見た目は無事に終わりを迎え、璃季と鴒が入れ替わる、着替えた設定にして軽く頭を濡らしておいた、これで誰かと出会っても問題ないはずだ。
更衣室から出る、誰も居ないと思ったのだが
「これはお姉さま、先程は少々お戯れが過ぎたように見えましたが?」
皇紀と出会ってしまう、しかしバレてはいない。これなら大丈夫だ、璃季はニコニコしながらその返答に答える。
「そうでしょうか?前回休んでしまった分を出したつもりなのですが」
「そうですか、それより気になることがあります」
「はい?なんでしょう」
正直早くこの場を終わらさないとどこかでボロが出そうだ、変な汗をかきはじめる、前からだが皇紀の目は何もかもを見通しているような目をしていて、怖い。
「どうして、その様な嘘をつくのですか?」
「え?」
「この私の目は誤魔化せない、身体の体型が丸で違います、他を騙せても、私は騙されない」
体型って、本当に僅かな違いを見破ったというのか?いやカマをかけているのかも、しかしカマをかける理由が見当たらない。
なぜだ?
「何故嘘をついていると思うのですか?」
「私はお姉さまを見ています、あの自稽古以来からですが、そして今日のプールの時陽射しを浴びた髪は熱を帯びています、しかしお姉さまの髪は傷んでいない、陽射しを直接浴びた髪は少し茶髪気味になるはずです、しかし今ここにいるお姉さまの髪は透き通るくらい綺麗な髪をしています、あの時居たあのお姉さまは誰なんですか?」
しまった、そうだった。陽射しを浴びすぎて倒れないように更衣室の窓から鴒扮する璃季を眺めていたからだ、更衣室は屋根があるし陽射しを浴びることはまずない。どうする………何も思いつかない、だが今ここでバレるわけにはいかない、璃季は咄嗟に
「じ、実は私は泳ぐのが苦手でして、海の浅瀬ですら溺れてしまったりするのです!ですから、無理を言って……妹、そう!妹に頼んだわけです!ですから妹は悪くありません!」
「い、妹殿ですか……泳ぐのがカナヅチだと言うのはわかりましたが、嘘をついてまで休むのはよろしくないです、苦手ならば克服しないとダメではないですか?」
「その通りでございます、はい」
「次でプールは最後、その時は妹殿を使わずに御自分で努力してください、そもそも授業中どこへ?」
「へ?あー……」
咄嗟に思いついた内容をペラペラ話してしまったが何とかなっているようだ、架空の妹を作り上げてしまったが男だとバレるよりはマシだ!
「妹と入れ替わって居たので、妹の学校へ行っていました……」
「エルダーであるお方が授業をサボるとは……今回は見なかったことにしますが、次で最後のプールは参加してください、私が泳ぎ方をレクチャー致します」
「あ、有り難うございます………」
バレたりはしなかったものの、次回はでなければならなくなった、また新たな作戦が必要となる、変装はもう通じない、一体どうすればいいの?
瑞穂が言う幽霊とやらが居ればなんとかなったのか?璃季は皇紀と別れた後、鴒と影祢にこの事を話した、鴒は『修行不足でした』と反省をしていた。
誰か、誰か…………なんとかしてよ………
暑い夏はまだ終わらないようだ。




