第35話『水際の会話』
プール授業の前日あの放課後以来、鴒に痛い振りをする演技をみっちり仕込まれた、その成果はすごく、本当にお腹を痛めてしまうという現実に襲われた。
原因はただの体調不良だ、本当に女の子の日を迎えたのかといよいよ怖くなっていたが、体調不良だと医者に言われて何故かホッとした璃季がそこには居た。
「はぁ、まさか本当に体調崩すだなんて……」
「さすがは璃季様、演技以上に成果を出してくれるとは思いませんでした、鴒は感動しております」
「病人になんてこと言ってんのアンタ」
結局今日は学院を休むことになった、明日のプールも休めるらしく、水着を回避することに成功したが、7月は夏休みが入るまでに体調は数回あり、その内プール授業は5回ある。あと4回どうするか2人で考えていたところだった。
「あと4回……どうすれば………」
「いざとなれば出れば宜しいかと、実は胸はペッタンコだったお姉さま伝説などいかがでしょうか?」
「あのな、胸はどうにかなっても男の子には大事な場所があるだろ!」
「いえ、実は2つ持って――」
「やかましい黙れ、影祢に相談するしかないか……」
ダメイドの話を無視する、今は授業中だろうから影祢にメールを入れておくことにした。携帯を手にして文章打ち込み画面を呼び出し、ササっと打ち込み送信する。
「よし、あとは返事を待つだけだ」
「しかし、プール授業をずっと休むわけにはいきません、何か作戦を練らねば」
「瑞穂や千早はどうやって切り抜けたんだ?」
「お話を聞くと、瑞穂様と千早様は幽霊に取り憑いてもらったと聞いております」
幽霊って、あの幽霊だろうか?取り憑く?そんな非現実的なお話がある訳がない、しかし実際プール授業には出ていた見たいだし……
「幽霊ねぇ………」
信憑性に欠ける、大体どこの幽霊だよ。恨まれていたのか?
璃季はベッドでゴロンゴロンしていると、携帯から着信メロディが流れる
「お、影祢だ。なになに?」
『では、学院が終わりましたら寮にうかがいます、お待ちくださいませ。』
「連絡取れたし、とりあえず果報は寝て待て、少し寝るよ」
携帯を枕の脇に置くと布団に潜る、鴒は椅子に座り持参した小説を読み始めた。睡魔は直ぐに璃季を飲み込む、意識はゆっくりと真っ暗闇へ誘われた。
眠ること3時間、ドアのノックで目を覚ます。布団から身体を起こすと鴒は扉を開けた、影祢が鴒に挨拶をすると中に入ってきた、適当な座布団に腰をおろした。
「明日のプール授業は休めるとしまして、次移行ですよね?」
「うん、いや、3回目もあの女の子の日を使えば大丈夫だと、思う。だが残り2回だ」
最初は今日の授業内容を書き込んだノートを渡してくれたり、プリントなどが入った紙袋を受け取ったりと病人ならではなやり取りをした、いや、病人だけど。
そこから30分くらい今後のプールについて話し合っていた、鴒はそれを纏めていく係だ。
「余り休みがちですと、エルダーとなった生徒への示しがつかないと生徒会から何かしら言われる可能性がありますわ」
「そうなんだよなぁ……瑞穂はそれで貴子と揉めたらしいしな」
だが、ある日普通にプール授業に参加した瑞穂、それも本当に女の子の身体になっていたらしい、まりやに聞いた話だけど。
「はぁー……世の中うまくいかないよなぁ……皇紀さんにキレられたら、どうすればいいんだろ」
「大人しく身体を好きにさせてあげるしかありませんね」
「キミは黙っていてくれないか鴒」
あ〜言えばこう言う、かなりひねくれた鴒には面白い出来事でしかないのだろう、溜息何回吐いたらいいのやら。
結局その日は考えが纏まらず、解散となった。鴒は影祢を見送りに部屋を出て行った、璃季は再びベッドに寝転がる。
すると扉をノックする客人が現れる、璃季は「開いてます」と返事をする。扉はそれを合図に開く
「璃季さん?お身体は大丈夫ですか?」
「お見舞いに来ました!お姉さま!」
「こちら、フルーツです」
いつもの3人、夜埜依、海莉、果歩がお見舞いに来てくれた。海莉はフルーツが入ったバスケットをテーブルに置いてくれる、鴒とは違って本当に友達思いの子達だ、騙している自分は心が締め付けられる感じになるが、今は楽しい会話にしたい。
「有り難うございます、嬉しいです。あの明日も大事をとってもう一日だけお休みをするので、緋紗子先生にお伝えください」
「わかりましたわ、しっかり体調を整えてください」
「果歩はお姉さまの水着姿を見たくて仕方ありません!」
夜埜依の返事を他所にズイっと果歩は璃季に近づく、これがエルダー(おねえさま)パワーなのだろうか?ここまで璃季に何かをしたり、楽しみにしたりするのは過去にはなかったのに。
これが友達、助け合う仲間、絆。
璃季にとって無くしたくないものになってしまった、今までの人生がちっぽけにも感じられた瞬間だ。
「み、水着ね。私もプールは楽しみにしていたり……しなかったり……」
「え、何か他にも体調が?」
「へ?いえ、そうではありませんが、あー、そ、そう!こう見えて泳ぎが苦手でして」
苦しいか?海莉はクールな目付きで見てくる、そこに夜埜依が心配入らないとばかりに璃季の手を握る、すんごいキラキラした目でこちらを見てくる
「お任せください璃季さん、この夜埜依がわかりやすく泳ぎ方を伝授してみせますわ」
「あ、あはは……有り難うございます……」
本当は泳ぎ大好きなんです、海とかめちゃくちゃ大好きなんです、小さい時にサーフィンやってたんです……。
心の声は素晴らしい、誰にも聞こえないけれど何故か虚しくもなる。
暫くして夕食の時間になる、体調不良の璃季は鴒が食堂からご飯をお盆に載せて持ってきてくれた。
もちろん病人食、味付けされたお粥だ、お粥なんて滅多に食べられないレア物だろう。今のうちに堪能しておこう、お粥をもぐもぐしていると
「いい事を思いつきました」
「ロクでもないことだろうけど一応、何が?」
「蓮華を貸してください」
とりあえず蓮華を鴒に渡すと、お粥を少しだけ掬い、ふーふーと吹きかけてから、璃季の口元へ
「はい、あーん」
「できるかっっ!!!」
「食べないと冷めてしまいます、はい」
「…………あーん」
イヤイヤ口を開けるとお粥を頬張る、悔しいが美味しい。そして何より恥ずかしい、鴒は情けない顔をしている。何がうれしいのか………
「生きていてよかったです、鴒は幸せ者です。ではもう一口」
「もういい――んぐっ!?」
話している途中で口にお粥を入れられる、しかも冷ましていない、火傷する火傷するから!!水が入ったコップを飲むと、口の中全体を炭酸が支配する
「たぁぁぁんさぁぁぁぁぁぁぁん!!??」
「ぶふっ!!」
お腹を抱えて笑うダメイド、いつか仕返しをすることを誓って、今日の夜は幕を閉じた、炭酸と口内火傷を背負ったまま。
翌日の夕方、もう一度影祢が部屋に現れる、昨日の話の続きをまた数十分くらい行っていたが中々案がでない、ちなみに体調はすこぶる良くなった、ベッドから立ち上がりストレッチをしながら話をしていたら
「そういえば、璃季様と鴒さんは身長が近いですね」
「もう一つ上げるならば、髪も同じくらいです……。まさ影祢様?」
「こんなにも近くに答えは有りました、鴒さんお願いできますでしょうか?」
「ん?なんの話だよ」
2人だけ納得して勝手に話を進められる、身長だとか髪だとか、体型だとか。少し璃季も思考を巡らせる、それに引っかかるワードが出てきた、それは
「影武者です、体型、髪、身長などが近いので完璧に演技をすればプール授業をうまくパスできるはずです、影祢が保証します」
「いやでも相手はエルダーを選んだ生徒達だぞ?さすがに小さな事でバレるんじゃないか?」
「璃季様、この鴒は貴方が小さい頃からずっと見てきたのです、些細なことまで完璧です。ならば早速変装してみましょう」
クローゼットを開くなり制服を取り出し、着替えに部屋から出た。ちなみに何も言わなければこの場で着替えようとしたことを教えておこう、変装をしにいってから数分後、着替えから戻ってきた鴒を見ると
「お、オレがいる……」
「竹ノ宮璃季です、よろしくおねがいしますわ。いかがでしょう?」
「鴒さん、パーフェクトです。これなら大丈夫かと思います!」
どっからどうみてもオレだ、きっと瑞穂も影武者を使ったのだろう、幽霊だなんて嘘をつくのは良くない、今度問い詰めてやろう、鴒はクルンと一回転したり何故かわからんがスカートをたくし上げようとする
「やめろ、人の姿で下品なことをするな」
「これは申し訳ございません、では明後日からお任せくださいまし璃季様」
鴒はノリノリだが一抹の不安を覚える璃季、ニコニコしながら鴒を見る影祢、本当に上手くいくんだろうか?やってみないとわからないが危険な賭けだ、成功を祈るしかない。
幽霊とは違うが身体は女の子、きっと大丈夫。瑞穂はメイドの楓さんに頼んだのかもしれないし、明日はプール授業3回目、それはあの超恥ずかしい事を先生に告げればパスできる、あとは神頼みだ。
「頼んだよ、鴒」
「はっ、お任せください」
返事ばっかり、調子がいいんだから。




