第34話『夏が近づく白い校舎』
7月初め、温度もいよいよ上がってきて30度近い熱波が身体を襲う。終業式までまだ少しあるが今の温度だけでも十分夏らしく、背中や額に汗をかく。教室にはクーラーが備わっているが………
「んー、故障みたいね、電源が入らないのよ」
「そ、そんな……」
今は授業中、しかしクーラーから突如冷風が出なくなったのだ、この3年C組は間取りのせいで日当たりがよく午前中は太陽の光が直撃する、窓を開けてもいいが熱が入ってきてしまう。
クーラーのリモコンをピコピコするがやはり動かない、あの神秘の神風が吹かない、人類の結晶、科学の力!!
「あ、暑いです………」
「まぁ、お姉さま……あ、これならどうですか?」
机に頭を置いてやる気ないをアピールしていると後頭部にぬるいが風が来ている、何やらペコペコ音も聞こえる。
「風?夜埜依さん?」
後ろを振り向くと、ニコニコしながら下敷きを左右に振って風を起こしてくれていた。クーラーよりは温かいけど、ないよりはマシだし、むしろありがたい。
「下敷きって便利ですよね?団扇にもなりますし、クーラーは壊れましたがもう少しすれば授業で『アレ』が始まります」
「アレ?アレってなんですか?」
「はーいはい、授業中ですからお話はまた後にしてくださいね?」
いつのまにか教卓に戻っていた緋紗子先生に注意されたので、黒板に視線をもどした。
授業中ずっと暑さで集中力が損なっていたがなんとか乗り切った、クーラーが壊れたのは内のクラスだけではなく、校舎全体の冷房が故障したらしい。そうなると皆求めるのは涼しい場所、冷たい飲み物、冷たい食べ物だ。
お昼休みになると食堂と購買はいつもの倍の乙女達で溢れかえっていた、それを見るだけで暑苦しくなるが男の集団よりはマシだった。
「さて、寮母さんのお弁当を持っているけど冷たい飲み物を買いに………購買………」
璃季は購買に飲み物を買いに来たのだが、既に行列。進む気配がない、鴒に頼めばすぐに持ってきてくれるはずだが、頼りたくない。
「せめて水筒でも持ってきていたらよかった………」
「お姉さま?」
「え?ひゃう!?」
後ろから声を掛けられ振り向きざまに、首に冷たい物をピトッと当てられた。
「な、なにを!ってなんだ……影祢か」
振り向けば両手にお茶の缶を握った影祢が居た、影祢はどこでこれを買ってきたのだろうか、まさか並んだのか?璃季はお茶の缶をじーっと見つめる。
「お姉さまお一人ですか?」
「え、えぇ。夜埜依さんは先生に呼ばれて居なくなって、海莉さんは他のクラスの子とお弁当と言っていましたから」
「では、果歩ちゃんは?」
「か、果歩ちゃんは……あそこに」
璃季は行列が一番酷い食堂の入口辺りを指さす、影祢は少し背伸びをして指さす方向へ目をやると。
『ど、どいてください!ぎゃぁ!ちょっと誰ですか今果歩のお尻を触った人は!?……ひゃぁ!助け!助けてくださいお姉さまぁぁぁ……………………』
どんどん人の波に攫われていく果歩、声は遠ざかって行った。あれを助けるにはかなりの勇気が必要になる、さらに言うとあの集団に入って男だとバレてしまうかもしれないため気が付かない振りをしていた。
「ふふ、果歩ちゃん楽しそうでなによりですっ」
「君の性格が曲がっているとは知っていたけど、酷いね」
「え?あー、ふふっ」
怒らしちゃ行けない人だ、璃季は果歩に向かって合掌、影祢に誘われて暑いからこそ人が寄り付かないテラスへ行く、太陽が容赦なくこの身を焼こうとしてくる、影祢の顔をチラッと見ると
「~~~♪」
暑さなんて知らない様な顔をしている、鼻歌まで……余裕なのだろうか。テラスに着くとベンチに座りテーブルに寮母さんのサンドイッチが入ったお弁当の蓋を開く、夏らしい色彩豊かなサンドイッチ達が顔を見せた。
「あの、お姉さま?よろしかったら、サンドイッチと唐揚げを交換いたしませんか?」
「別にいいですが、というか2人の時くらい普段通りでいいんじゃないのか?」
「ダメです、普段からちゃんとしないと大変なんですよ?はい、唐揚げです」
サンドイッチの蓋に唐揚げを1個置いてくれたが……
「待ってください影祢さん、唐揚げ1個ではこちらとの価値が合いません、唐揚げ二つとサンドイッチ一つです」
「では、これで交換ですね」
唐揚げをもう一個蓋に置く、それを確認してからサンドイッチを影祢のお弁当の蓋に置いてあげた。
「頂きます、あむ………ん!おいしい!」
最初に唐揚げを口に運んだ璃季、口いっぱいに唐揚げの肉汁がブワッと広がり、なんとも言えない鶏肉の柔らかい感触、味付けも絶妙なバランスだ。
「喜んで頂けて、なによりです」
「あ、それより一つ聞きたいことがありまして、ここの夏場の授業はどんなことを?」
夜埜依さんの『アレ』が気になっていた、授業でアレってなんだろう、夏場での授業………考えるが咄嗟に出ない。影祢はニコニコしながら
「はい、プールですねっ」
「あーなんだ、プールか、プールね」
夏場の授業でプールかぁ、久しぶりに泳ぎたいなぁ。プールとか海てか大好きな璃季は、小さい頃から夏になる度に海やプールに遊びに出かけていたりした、その度に鴒に女物水着を着せられてからちょっと行くのが嫌になった。
…………………………………ん?
……………………………………………んんんん???
「待って、今プールとおっしゃりましたかでござる?」
「日本語でお願いしますお姉さま、はい、プールですよ。どうかしま―――」
「で、出られるわけないだろぉお!?プールだよ!?私男だよ!?」
ガタっと立ち上がるなり影祢に訴える、プール授業なんて出たらバレるどころではない、退学したあと即逮捕、そして社会の恥さらしになる。
「璃季様が余りにも女の子ですので、忘れていました」
苦笑いの影祢の横でガクッと膝をつく。
「くっ………プライドが……男なのに………」
「気を落とさないでください、十分大丈夫ですから!」
「なにがっ!?」
暑さにやられたのか影祢までちょっとおかしい、とりあえずお昼を済ませてプール授業に関しての作戦を練ることにした、出た案が
「病欠、怪我、水が怖い病………もっとマシなのないのかな」
「有るには有りますが、お耳を」
影祢に言われたとおり耳を貸す、コショコショっと話されるが吐息が耳に……話を聞いてみると璃季は顔を赤らめる
「はぁ!?む、無理でしょ!!」
「大丈夫です、恥ずかしがらずに。女の子では当たり前なんですよ?」
「いや、当たり前だからって……『女の子の日』とか……」
女の子の日、男にはわからぬ苦痛だ。それを演じろと影祢は申しているが無茶苦茶だ、そんなことで休めるのか?そう言えば瑞穂や千早はどうやったんだろう……
「お腹を手で押さえながら、痛がっていれば大丈夫です。璃季様ならできますし、鴒さんに指導してもらえれば完璧です」
「れ、鴒か………こんな話しできるわけ――」
「お話は聞きました璃季様」
何でいるの、というか頭の両サイドについた葉っぱのついた枝を外せ、余計に怪しいぞ。鴒はテラスの真後ろの草むらに隠れていたようだ。
「どうやらプールの授業でお困りで女の子の日でなんとか切り抜けたいとか」
「話ぶっ飛び過ぎだし鼻血を拭いてください」
鴒はハンカチで鼻血を拭きとる、完璧に変態メイドだよ。
「鴒さん、璃季様に演技を御指導をしていただけませんか?」
「まて、それ以外にもあるはずだ!」
「ありません、ですから私、里馬鴒が命をかけて演技を御指導いたしましょう」
話を聞いていない、こうなったら鴒は止まらない。変な熱が入ると昔からやり遂げるまでずっと教え込む、おかげでメイクは得意になったよ、悲しい。――しかし
「い、イヤダ、絶対無理!!」
「逃がしません、さぁ早速御指導に入ります!」
「い、いや授業まだあるから!!離して!いやぁァぁぁぁぁぁぁ!!」
鴒に腕を引っ張られどこかへ連れていかれる姿を影祢が見ていた、影祢はクスクスっとこちらを見ながら微笑む。女神じゃなかったのか影祢さん………
「がんばってください、お姉さまっ」
何が悲しくてプールを休まないといけないのか、せっかくのプールが……ちなみに、クーラーの修理はプールが終わるまで直らないらしい、璃季がそれを聞いたのはその日の夕食の時だった。




