第31話『エルダー』
「……………」
今は移動した教室で授業中、緋紗子先生の国語の時間。
璃季はノートに黒板の内容をサラサラと書き込んでいく、チラッと横目で隣を見ると。
「………ふぅ」
雪皇紀、生徒会長であり剣道部部長。学院では色々な二つ名があるなかで一番言われてるのが『将軍妃』だ、女の子っぽくない二つ名だが下級生からすればかなりイケメンのお姉さまだとか、一番エルダー有力候補と言われている。
改めて説明しよう、エルダーとはエルダーシスターの略称であり、学院生徒の見本となる人をエルダーという役職見たいな名前を付けられる。エルダーに選ばれた3年生は下級生または同期からお姉さまと呼ばれるようになる、エルダーに選ばれるには学院生徒の75%の得票数が必要となる。
しかし、1回だけの選挙だけで決まるわけではなく、譲与ができるシステムがあるので個人が得票を譲ることにより最終的に75%にして選ばれる。
「エルダー、オレにできんのかな…」
エルダー選挙はもうすぐそこまで来ている、もちろん候補者は立てない為璃季にも誰かに得票を入れることが出来る。
「……璃季さん」
「へ?は、はい」
「君の番だぞ」
考え事をしているといつの間にか緋紗子先生に黒板の内容についての答えを璃季に言ってもらうということで当てられたようだ、直ぐに立ち上がると黒板に書かれた内容を流し見て答えを緋紗子先生に伝えた。
「はい、有難うございます。では――」
「ふぅ、有難うございます皇紀さん」
「何を考えていたかは知らないが、気をつけた方がいい」
皇紀は他の女子とは違い、喋りは男っぼいしかなり上から目線。本当の男の璃季は普通の喋りでも過ごせるんじゃないのか?と疑問を抱くがその考えはやめた。
「はい、わかりました」
ちょっとニコッとしてみる璃季、少しだけ動揺したような顔を見せた皇紀だが直ぐに元通り。なかなかデレを見せない、かなりの難易度だ。璃季はいつか皇紀を笑顔にして見せようと誓った。
授業が終わり教室へ戻っていく途中だった、後ろから誰かに呼び止められる。振り向くとガバッと抱きついてきた、身長は低いしロリっぽい声。
「果歩ちゃん、どうかしたの?」
「いいえ、璃季お姉さまが見えましたのでつい。えへへ」
果歩はあまり同級生の子と居ないイメージがある、知る限り璃季や夜埜依などと一緒に居る。
「果歩ちゃんは同じクラスの子達とはお話をしたりしないの?」
「お話はしたりしますが、果歩は学院以外でも年上の人達と居たので、話題が見つからなくて」
まぁ気持ちはわかる、昔から年上の人と付き合っていると話題性の違いや話の価値観が変わったりするため同級生とは話しが合わなかったりする。
「あら、そうなの?仕方ないわね、丁度お昼だから一緒にどうかしら?」
「本当ですか?!ご一緒いたしますっ」
急に元気になるんだから、果歩を連れて食堂へ。
今日は寮母さんのお弁当ではなく、食堂で食べたい気分だった。
「何にしようかしらね、よし、ナポリタンにします。」
「果歩はハンバーグにします!」
券売機から食券が排出され、それを取る。食堂のおばさんにそれを手渡し、ナポリタンを受け取った。
「今日は珍しく人が多いようね、どこか空いてないかしら」
「あ、見てください!影祢お姉さま達が居ます」
果歩が指差す場所に視線を向けると、手を振っている影祢が居た。そちらに向かって歩いていく、果歩もゆっくり付いてくる。
「璃季さんも食堂に居らしたのですね、運命を感じませんか?」
「感じません、それより。皆さんエルダーのお話で持ち上がってますね」
周りから聞こえてくる会話はエルダーという単語が含まれていた、やはりそれだけの大イベントなのだろう。食事を取りながら会話に花を咲かせる、こちらも流行りに乗っかる形でエルダーのお話をする。
「今の有力なエルダー率は皇紀さん、やはり凛々しくたくましいとこからと聞きます」
「たくましい、確かにボーイッシュなところは感じます。他にエルダーになりそうな方とかは居るのでしょうか?」
海莉の情報は新聞部に居るお友達から聞いた話らしい、というか新聞部があるの?この学院は。
「そうですね、他なら………」
夜埜依は他を見回してから璃季を見る、するとニッコリする。まさか……
「え?わ、私ですか?そんな訳ないですよね?」
「いいえ!いいえ!璃季お姉さまはエルダーに相応しいです!」
ガタっと立ち上がる果歩は急に熱弁を振る舞い出す。
「璃季お姉さまは、近頃困った下級生を助けたり、あの皇紀お姉さまと仲が良かったりと評判はグングン良くなっていますし!お料理もできて、スポーツも万能!成績も順位はトップクラス!これでエルダーに相応しくない方がおかしいのです!」
結構声がデカかった、とにかく落ち着いて座るように果歩に伝えるとドヤ顔しながら着席した。エルダーは生徒の見本、璃季は見本どころか性別を偽っている。そんなやつがエルダーにだなんて、と考えたいが実際璃季が来る前は他2名もエルダーをやり遂げ卒業している。なんとも言えない
「と、とにかくです。ちゃんと自分にとってためになる方を選ぶのですよ?」
モグモグナポリタンを食べながら恥ずかしさをかき消す、そこに先程の果歩の話を聞いていたグループがこちらにやってきた。
「待ちなさい、今さっきエルダーのお話をしていましたわね?」
「アリスさん、ごきげんよう」
「あ、ごきげんようっ。ではなくて!!璃季さんはまだ転入してきて間がありません、そんなお方にエルダーなんて無理ですわ。エルダーになるのは皇紀さまに決まっています!」
七条アリス(ななじょうありす)、十条家と少し縁があるとかないとか。金髪縦髪ロールでいかにもお嬢様、皇紀をかなり慕っている人物で常に3人の取り巻き(下級生)を連れている。ちなみに家庭科部部長だ
「そうですね、私もそう思います。」
「なんだかアッサリそう仰られると困ります、まぁいいです。とにかく、皇紀さまが確実にエルダーになりますことをお忘れなく!さ、いきましょう」
取り巻きを連れて璃季達のテーブルを離れて行った、まるで台風のようだった。
「あそこまで気持ちよく断言されますと何もいい返せませんね」
「確かにそうですわね、それよりも折り紙を折りませんか?放課後にでも」
影祢の話より折り紙が重要なのか、何処からともなく折り紙を取り出す。食べ終わった食器を下げて皆で少しだけ折り紙を折っていく、ちなみに放課後のお誘いは丁重にお断りした璃季であった。
夕方――教室に1人ポツンと座っていた璃季、この窓の向こうに見える夕焼けは教室の中を照らす。ずっとエルダーについて考えたりしていたけど、ならなきゃ始まらない。最初に頼まれていたのは『派閥』についてだ、だが派閥らしいことは起きていない。小さな派閥ならいくらでもあるが、瑞穂が言うような事は起きていないような気がする。強いて言うならエルダーに選ぶなら皇紀を選べ、とたまに言ってくるアリスグループくらいだ。
「派閥なんかないじゃないか、瑞穂。ただオレを学院に行かせたかっただけじゃないのか?」
「どうしてそう思ったのかな?竹ノ宮璃季君?」
つい1人だったことで素を出してしまう、そこに突然話しかけられたら誰だってビックリする。扉は開いたままだったから気が付かなかった、現れたのは
「緋紗子先生……」
誰から見ても美人で、元聖應の生徒。瑞穂の時代担任で千早の時には一度退職していたものの学院長に頼まれ復職した、そして今回は?わからないが聞いても教えてくれないだろうな。
「もう下校時間よ?何か悩み事?」
「悩みって程では……瑞穂………宮小路瑞穂はどうして聖應に来たんでしょうか?」
気になっていたことの一つだ、本人からも聞かされてなかったような気がする。
「遺言、瑞穂君のお爺様が残した遺言にね?ここに通うように書かれていたの。」
「え?そんな理由でここに来たんですか?」
遺言が絶対とは限らないが、断らなかったのはなぜだろうか。オレなら断わる、と心でボヤく。
「でも彼は卒業するまでの短い時間で、色々な大切な事を勉強したと言っていたわ。それは私も一緒、瑞穂君に色々教えられた気がしたの」
緋紗子先生を助けたのだろうか?先生に一体どんな過去があるのだろうか………話しがいい感じになって来ていたのに
「さ、お話はおしまい。璃季さんもそろそろ寮に戻りなさい?」
「は、はい。では先生」
鞄を取り、教室を出ようとすると先生に呼び止められる。璃季は振り向くと
「君の為にもなる、聖應でエルダーになった子達や、信じた妹達は皆卒業式にいい笑顔を見せる。貴方になら今の聖應を変えることもできるかもしれない。」
鳩が豆鉄砲喰らったかのような顔をしていたかもしれない、先生はどんな思いで皆を見てきたのだろう、それはきっと卒業式を迎える頃に分かるのかもしれない。璃季はそのままお辞儀をして教室から出て行った。




