第24話『真実の先に』
結局詳しい事がわからないまま一日が過ぎて今日、緋沙子先生の授業が耳に入らない。身体は勝手に黒板に書かれた内容をノートへと書き込んでいく、昨日のばあちゃんとの会話で得た事は。
「ばあちゃんは婚約を急がせている。海莉は聖應に来なければ行けない理由がある、好きな人でもいるのだろうか?」
しかしここは女子高だ男子はいない、璃季を除くとだが。
授業は着々と進む、さっきから誰かに呼ばれているような気がするけど気の所為――
「君、璃季さん」
「へ?は、はい」
ちょっぴりボールペンの頭で二の腕をつつかれた、それで意識は考える頭から現実へ帰ってきた。呼んでいたのは皇紀だった、見る度に思う。美人だ、髪も綺麗で今日はポニーテールにしている。いつもは下ろしている髪を束ねていると印象が強く変わって見える、返事をすると少しため息を吐かれた。
「何か困っているのか?」
「あ、その。」
話していいのかわからないがこれは話さないと後が怖そうだ、璃季はノートの切れ端に『お昼、テラスで』と書いてそれを皇紀へ渡すと、小さく頷いてくれた。今は考えることをやめて授業に集中することにした。
そしてお昼、影祢がお昼を誘ってくれたが丁寧に断りを入れてテラスへ向かう。テラスは人気だが夏に近づくと虫刺されを警戒して余り利用者は少ないらしい、先についた璃季は辺りを見回すがまだ皇紀は来ていないようだった。
「ちょっと早すぎたかな、まぁいいか座って待っていよう」
今日のお昼は寮母特製サンドイッチ詰め合わせ、これがかなりうまいし聞いてビックリしたのがサンドイッチのレパートリーが200を超えるらしい、どうやら色々な寮生の希望を叶えていくうちに増えていったんだとか。サンドイッチの入ったお弁当箱を見つめていると
「待たせたな、少し他の人に捕まってしまっていた」
「いえ、皇紀さんは人気者ですし仕方ありません。私が独占してしまいましたがよかったのでしょうか?」
「大丈夫だろう、皆賢い子ばかりだからな。」
皇紀はかなり人気のあるお姉さまだ、あの自稽古以来何か吹っ切れたのかかなり優しくなってきた気がする。生徒会長でありながらクラス委員、掛け持ちもいいとこだが不満は一切吐かないのが売りだろう。話をしながらサンドイッチを摘んでいく
「で、話とやらはなんだ?授業もまともに聞けていなかったようだし」
「そうですね、実はある女の子が知らない相手と婚約をさせられそうになっているみたいで、どうしたらいいのかわからなくて」
「断れば済む話ではないか?」
「それが、ここに入学する条件が婚約することだそうです」
普通なら条件を飲んだ事になる、なのに海莉は暗そうで、2年間縁談を断っている。海莉はどうして聖應にこだわるのか、条件を飲んだのに無視をしているのか、まだわからない。
「私にも縁談の話はいくつもあったが断っている、やりたいことがあるし、私以上に強くなければそんな男は便りにならない。」
まさに脳筋……口に出しては言えない、海莉が聖應にこだわる理由。なんだ?身近なものなんだろうか?
「皇紀さんは何故聖應に?」
とりあえず海莉がそうしたように皇紀にもこちらに来たかった理由があるはずと見て質問をしてみる。
「もちろん剣の為だ、聖應は設備も整っているし道場も広い。さらには大学や留学を推薦してもらえるからだな」
「推薦……もしかして」
確か海莉は陸上部だ、陸上部にも当たり前のごとく推薦がある。待て、知り合いに陸上部にいた奴が居たような……。
思い立ったら即行動!璃季はバッとイスから立ち上がる
「どうしたんだ?」
「すみません!少し用事を思い出したので失礼します、ごきげんよう!」
ぴゅーーーん!!っとダッシュでテラスから立ち去る、電話を掛けられる場所は屋上だ、屋上に着くとポケットから携帯端末を取り出しあの人物を電話帳から呼び出す。
プルルル、プルルルっとツーコール目で声が聞こえた
『何よ何よっ?璃季じゃない。どうしたのすっっごい久しぶりじゃないの!』
あー、そうだったうるさいやつだった。電話の相手は『御門まりや』千早の親戚だ、瑞穂の幼なじみ。彼女も陸上部に所属していた上に実力派、今でもタイムレコードを抜かれていないらしい。
「いや、あのさ。陸上部に推薦とかってあるよね?」
『まぁ有るには有るけど、どしたの?まさか陸上部に入った?』
「そんなわけないだろ、ちょっと同じ寮生の女の子がさ――」
まりやに今までの流れを説明した、まりやは『ほー』『へー』とかかなり適当な返事しかしない。頼った相手を間違えたか?と思っていると
『その女の子、婚約は受ける気もないだろうね。陸上が好きだから推薦狙って留学を目指してるのかもよ?結婚してからじゃ陸上はできないし』
「でも陸上するなら別に聖應じゃなくてもできるだろ?そこがわからない」
あとはばあちゃんが婚約を急かす理由だ、きっとそこに海莉が嫌がる理由がある。でも電話の時にはまだ決心がとか言っていた、受ける気はあるのか?
『婚約から逃げるってことならなんとでも理由つけて引き延ばすくらいするでしょ?あ、ごめん今は仕事中だからまたね!』
「え?あちょ!!………切れちゃったよ」
何にもわからないまま電話終了、こうなったら正直に海莉に話を聴きに行くしかないようだ。用がなくなった携帯端末をポケットに収めて、憎いくらい晴れた空を背にして屋上を後にした。
夕方、学院を出てしばらく歩き寮の玄関を少しだけ開いた時だった。
「おばあちゃん、私は縁談とか今はしたくないよ。」
少しだけ開いた扉の向こうから海莉の声が聞こえた、中には入らず黙って聞いてみる。相手のばあちゃんの声は聞こえない
「私はやりたいことがあるの、陸上で推薦を取りたい。会社の為なんかに人生を棒に振りたくなんかないよ!」
ガチャっと強めに受話器を置いたようだ、璃季はゆっくりと半開きの扉を開いて中に入る。
「海莉さん、帰っていたんですね」
「璃季さん…聞いてましたか?」
「うん、ね?少しだけお話をしない?」
その問を数秒考えてから海莉は頷いた、海莉を連れて璃季の部屋へ。中へ入れると座布団にゆっくり腰を落ち着かせる、しばらく2人は黙ったまま。時計の針が動く音が少しうるさく感じる、璃季は姿勢を正すと
「ね?実はね一昨日の夜海莉さんが誰かと電話していたところを聞いてしまったの、ごめんなさい。でも海莉さんが困っているようだったから何か助けてあげられないかって、迷惑でしょうか?」
「そんな、迷惑だなんで。話を聞いていたならわかると思いますが、私はおばあちゃんから縁談を迫られてます。知らない男の人である企業の御曹司だとか言っていました。」
そこまではなんとなくわかった、あのばあちゃんも縁談のことは大まかに説明してくれたから。
「縁談の理由をご存知ですか?」
「いえ、そこまではわかりません。」
その理由がばあちゃんが婚約させる理由なんだろう、海莉は苦虫をかみつぶした顔をしながら
「うちの会社寺兎自動車は今倒産の危機が迫っているんです。」
「え?倒産って、世界シェア五本指に入るのよね?」
あの世界企業が倒産が近い?そんなことってあるのか?今や車は寺兎とまで言われているトップ企業が?璃季はびっくりして正座からぺったんこ座りになる。
「確かに世界シェアで五本指に入ります、ですがそれも数年前まで。父がギャンブルに走らなければこうにはなりませんでした」
「ギャンブル……」
大体がギャンブル倒産だったりする。ということは、ばあちゃんが縁談を迫っている理由は会社を再建するためなのだろう。そこに別企業と組むには婚約が必要だということか。
「おかげで私のやりたいことを全て無かった事にさせられそうなんです」
ここで、璃季は海莉が聖應にこだわる理由を聞くことにした。それさえ聞けば色々繋がるような気がしたからだ。
「海莉さんはどうして聖應に?」
「聖應には3年間は寮生でいられますし、推薦も取れます。卒業してすぐに留学を決めれば、縁談からも逃げれますし。」
どうやら、ばあちゃんとは話しをする気はないようだ。逃げることばかりが頭にあるんだろう、気持ちはわからなくもないがそのままじゃただの子供だ。ばあちゃんの言い分もちゃんと聞いてから自分のくちでしっかりと思いを伝えないとダメだ。
「海莉さんはそれでいいの?自分の意見を聞いてくれないから、相手から逃げるの?」
「おばあちゃんは私の意見なんか最初から聞く気なんてありません!それに、おばあちゃんは自分のことばかりで私のことなんて……」
根は深いがそこまででもない、まだうまくできるチャンスだ。
「じゃあ、おばあちゃんと会って話をしない?」
「え……」
「自分が思っていることを素直に話した方がいいです、電話だけでは思いは伝わらない、ちゃんと口と目で話し合うのが一番です」
そうだ、昔何もかもから逃げてきた俺は部屋から一切でなかった。それでも鴒は毎日毎日扉をノックして挨拶をしていく、食事も扉の前に持ってきてくれた。その後部屋から出てきた俺は鴒にこてんぱんに言われるのを覚悟したのにアイツは
『ちゃんと口と目で話ができたほうが、伝わりやすいのです。壁の向こうの気持ちは壁に邪魔されます、何事も正直に素直に、目と口で話をしましょう』
今でも頭から離れない、だからこそ後悔させないように、海莉はばあちゃんと会った方がいい。そう思った。
「………わかりました。そこでお願いがあるんです、一緒に来てもらえませんか?」
「へ?あ、いやあの。………………………わ、わかりました。」
名前、田中って言っちゃったんだよね………今更後悔し始める璃季。でもあのばあちゃんは最初からわかっているのかもしれない、なんでも見通していた気がしたから。




