第22話『落し物は何ですか?』
ある日の学院でのお昼、璃季は図書室へ向かっていた。なぜ図書室に行くのか、本を読むため探すため?勉強のため?璃季はわざわざそんなことをしたりはしない、そう昨日の部屋での出来事だった。その日璃季は実家から持ってきていたゲーム機でRPGで遊んでいたときだった
『璃様様、お勉強はどうされたのですか?またゲームばかりに熱中されていますが。』
鴒を他所にベッドで持たれながらプレイしている璃季、もちろん部屋着だが普通の男で璃季を女の子だと勘違いしているなら、目のやり場に困るくらいだらけていて服も乱れまくっている。鴒は扉の側で正座でだらけた主を見ているがやはり保護者としても璃季を見ている
『あとちょい!あとちょいだけだから!』
『この里馬鴒、主が乱れている姿を見るのは嬉しゅうございますが、ある程度気にしていただかないと周りに見つかってしまいます。』
しかし、話を無視してゲームを続ける璃季に鴒は深くため息を吐きつつ、立ち上がり璃季のゲーム機を手から奪い取る。
『なっ!?ばか!何すんだよ返せって!』
『だぁーめぇーです。これでは4月までの璃季様と変わらなくなります、返して欲しいなら責めてお姉さまらしいことをしてくださいまし』
『んなこと言われてもわからねぇっての!ほら返せよ!』
鴒は璃季の魔の手を余裕で回避していく、璃季は諦めたのかベッドに背中から倒れ込む。璃季の下着が見えた鴒は鼻血を出しながら
『エルダー選はこの6月末にあるんですから、しっかりしてくださいまし。皆さんエルダーは璃季様を支持されるおつもりですよ?』
『無理無理、雪皇紀が有利だって、生徒会長だぜ?勝てる気がしないってば。途中から来た人間をエルダーなんかにしたくないだろうに』
璃季は枕を抱きしめながらゴロゴロする、鴒はテーブルに飲み干したカップを片付けながら話す
『そうとは限りません。瑞穂様千早様はやり遂げましたのです、璃季様も必ずややり遂げられますし可愛いです。』
『最後の可愛いは余計です。お姉様らしい事ってなにすりゃいいのさ、テラスでお茶会か?』
『似合わないマネしないでください』
『お前が言い出したんだろっ!?』
鴒は片付けが終わると再び璃季に向かって正座をする、鴒から璃季を見て確かに昔とは違って成長はしているがやはりまだまだ足りない部分があるように見えている。
『なら歴史を調べては如何でしょ?瑞穂様の代や千早様の代だとか』
『歴史をねぇ………まぁ気にはなるけど本人に聞いた方が早くないか?』
『あのお二人が恥ずかしい過去をさらけ出すわけないでしょ?ここの図書室には今までエルダーが努めてきた歴史を載せた資料があるらしいので明日にでも』
璃季は唸りながらだが鴒の提案を飲み込んだ、それが昨日のやり取りだった。璃季はお昼になると図書室へ向かっていた
「図書室図書室………ここか、初めて来たんだけど誰か居るのかな」
軽く図書室の引き戸をノックしてから扉を引くと、チラホラ読書をしていたり勉強をしている乙女達が居た。璃季は静かに扉を締めて奥にある本棚へ向かう、多少ホコリっぽさはあるが紙の匂いなどは嫌にならない。むしろ眠くなりそうだ、適当に知っている本がないか探していると後ろから声を掛けられる。
「璃季さん、いらしたのですね」
「海莉さん、ごきげんよう。図書室にまだ来たことがなかったので来てみました」
海莉の腕の中には3冊ほど分厚い本、全部英語の表記で書かれていた。
「なんだか難しい本をお選びになったんですね?英語のお勉強ですか?」
海莉は首を横に振る、ではなぜだろう?タイトルは英語で『科学技術』など理系の内容みたいだ。あまり難しい本を読んだことない璃季は引き攣った顔になりながら本を見つめる
「これは父が書いた書籍でして、まだ持っていないので借りて帰ろうと考えていたのです。」
「お父様はすごいのね?寺兎自動車を建てた上に書籍まで、憧れます」
一瞬海莉が俯いたように見えたが直ぐにいつも通りになる、海莉とは一度別れて璃季も気にせずに鴒が言っていた学院の歴史書を探し始める。しかし結構広く本の数も普通ではなく探すのに手間取っていると
「何をお探しなんですか?」
海莉が再び璃季の元へやってくる、璃季は考えたよく利用しているなら場所が分かるかもしれないと。それならばと璃季は海莉に訪ねてみることにした
「この学院のエルダーが色々やってきた歴史書はありますか?」
海莉は目を見開くが、ゆっくり優しい目になるとゆっくり歩き始める。呆気に取られていると
「こっちです、わかりにくい場所にありますので」
振り向いてそう言ってから先先歩き始める、璃季も慌てて付いていく。図書室では静かにしましょうというチラシを見かけて、落ち着いた足取りで海莉に付いて行った。確かにわかりにくい場所ににあった、かなり隅でしかも窓際で棚には歴史としか書かれていなかった。初めてなら見つからないかもしれない
「他に何かこまったことがあれば、声を掛けてくださいね。それではあちらに居ますから」
「あ、はい。ありがとうございます」
ペコリと頭を下げてから読書スペースへと向かった海莉、璃季は早速適当にその場で歴史書を開くと。その年のエルダーの写真や行動などが記されたページが現れる
「周防院奏……瑞穂の妹だった子で確か薫子のお姉さまだったか?」
周防院奏、瑞穂がエルダーをしていた時に妹になった女の子で、有名だったのが『十月革命』だったと聞いた。内容はそこまで知らないけど周防院奏が着けていたリボンから始まったとか、命名したのが十条紫苑。
「色々あるんだなぁ、ん?これは」
ペラペラ捲ってみるとそこには瑞穂の母のページにやってきた。
「代五十代、宮小路幸穂。確か鏑木は父方の名前だったから学院では母方の性を名乗っていたんだったか」
千早も御門だが璃季はそのままの性で学院に来た、母方の性は『厳島』。そうあの厳島貴子は親戚にあたるのだ、学院に来る際厳島ではさすがにバレると思いそのままの性でやってきたのだ。
「こうやって見てると、間近にいる人物がすんごい人達なんだなって改めて実感したよ」
璃季は歴史書を棚に戻してまた別の歴史書を手に取り、昼休みいっぱいまで読み込んでいった。そして放課後、帰り支度をしているど夜埜依に話しかけられる
「今日は是非折り紙部に来ませんか?果歩ちゃんもいらっしゃいますし、美味しいお菓子も出しますよっ」
折り紙部、部長は夜埜依で部員は果歩の2人だけの部。部として成り立っているかは兎も角、折り紙を折りつづけるだけなのは中々シュールだ。璃季はこの後特にすることはないので
「わかりました、お呼ばれいたします。」
「やりました!ではこちらへ」
夜埜依はニコニコしながら璃季を部室へと案内する、到着するとそこは他の部室とは違いちょっぴりボロい。倉庫を借りてやっているような感じだ、後ろから押されて中に入るとテーブルにパイプ椅子が複数と本棚を折り紙の飾る場所として利用していた。
「へぇ、沢山あるんですね。これは竜ですか?」
「むぅ、鶴です。酷いです!」
いや、鶴にしちゃ身体は長いし細長くないか?誰が見ても竜。まぁ鶴なんだろう、璃季は用意されたパイプ椅子に座る。ギシギシっとパイプが悲鳴をあげる、年季が入っている。
「果歩ちゃんは飲み物を買いに出てくれていますので一緒に折り紙を折っていませんか?」
「そうですね、紙はここのを使っていいですか?」
「はいっ、では始めましょう」
テーブルには様々な色をした紙が束になってラックに挟んである、そこから適当に1枚取り出して折り始める。璃季はテキパキ紙を折っていく、数分も掛からずに完成したのは
「できあがり、鶴っ!」
「わぁ、さすがは璃季さんです。綺麗な鶴ですね」
「鶴は簡単ですし、折りやすいですよね」
「はいっ、鶴はとても簡単です」
とても簡単なのに、どうしたらあんな細長い竜……いや、鶴が出来上がるんだろうか。世の中には知らなくていいこともあるんだ、気にしないでおこう。そう心に決めた
しばらくすると部室の扉が開く、果歩が帰ってきたようだ。両手には璃季が来ると予想して3つの苺ジュースの紙パックを買って来ていた。
「やはり来ましたか璃季お姉さま!はい、どうぞ」
「ありがとう、いくらかしら?」
鞄から小銭入れ(蛙顔のガマ口)を取り出すが果歩は首を横に振る、果歩は夜埜依の隣に座る。
「これは所謂賄賂!またこれからも来てくださるなら無料提供ですっ」
「これは怖い場所に入ったかな?クスッ」
思わず笑ってしまう、今までならこんな余裕は無かったが慣れてきたのか冗談も言えるようになってきた。璃季を含めた3人は話しながら折り紙を折っていった、そして陽が結構傾いて窓から見えていた夕日が沈みかけた所で。
「では今日はこの辺にして帰りましょう、璃季さん?その折り鶴等はこちらの棚に飾っても?」
「構いませんよ、どうぞっ」
夜埜依に折り鶴やキリン等を手渡すと、あの竜もとい鶴の横に璃季が折った鶴をちょこんと設置した。軽く掃除をしたあと3人で部室を出た、学院の正門を抜けた辺りで璃季は部室に忘れ物をしたことに気がつく。
「すみません夜埜依さん、部室に筆箱を忘れたみたいなので取りに戻りたいのですが」
「では部室の鍵をお貸ししますね、あとからでもお返ししてくれればいいので」
にっこりしながら、猫のキーホルダーが着いた鍵を渡してくれる。『ありがとうございます』と一言添えてから別れて部室へ戻った、目的の筆箱を回収して部室の鍵を閉めて学院を出る。寮まで距離はそれほど遠くはない、ゆっくりと並木道を歩いていると。
「ん?どうかされましたか?」
並木道にあるベンチ周辺をキョロキョロ何かを探しているおばあさんと出会う、昔の璃季ならガンスルーだ。しかし今は乙女だ、乙女なんだから当たり前のように声をかけたのだ。乙女なんだから。
「男なんだけどね………」
独り言も虚しくなる、おばあさんはこちらを見ると直ぐにまたキョロキョロする。
「あ、あのー?大丈夫ですか?」
そのおばあさんは狼が獲物を逃がして苛立ちまくってるくらいの目でこちらを見てきた。
「ほぅ、ワシに話しかけるとはいい度胸をしたお嬢さんじゃな?」
「あ、いえお困りのようでしたから。何か探しているのならお手伝いを――」
と、優しく言っているとおばあさんは逆に苛立ちを増したのか飛びつく勢いでこう言った。
「誰が若造なんかの手など借りるかぁぁぁぁ!!」
「ひぃっ!?」
それは鬼それは化物、大迫力な声に思わず怯む璃季。いくら猫被っていてもこちらも意地になってくる。璃季はおばあさんに近づくと
「手伝います、余程大切な物なんですよね?だから――」
「やかましぃ!さっさと小童は去れ!」
ムカッと来た璃季、ついに猫被りを辞めておばあさんに噛み付く
「あのさばあちゃん、大切な物ならひとりで探さずに誰かに頼れよ。日が暮れるちまうぞ」
おばあさんは急に口調が変わった璃季にビックリしたのか、思考が止まるが直ぐに復帰する。
「ほー、ただのお嬢様ではないようじゃの。見るに聖應の生徒みたいじゃしな?気に入った!ならほれ手伝わんか!」
「わ、わかったから。んで?落し物はなんですか?」
日も沈みかけで、辺りも暗く成り始めた並木道の中を必死に落し物を探し始めた璃季と、見知らぬおばあさん。璃季はまだまだ寮には帰れなさそうだ。




