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「乙女はお姉さまに恋してる―after.elder―」  作者: かずとん。
果歩編―The thing I'd like to do―
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第21話『負けない心』

薫子に引っ張られる璃季と影祢はしばらく走らされて気がつくと璃季の実家近くまでやってきた。あのヤクザ風の男の姿は無くなっていた、息を切らした影祢はまた座り込む。璃季も深呼吸をして息を整える


「いくら喧嘩っ早いって言っても相手を選ばないとだめでしょ」


あのヤクザ風はヤクザ風ではなくヤクザだったわけか、しかし負ける気はなかったんだが。と心ではそう思っても実際は少し身震いしていた、やばい奴だとはわかっていたから。


「あのヤクザってどこの奴なのさ」


「タチの悪い金貸しだよ、それよりその制服で問題でも起こしてみなさいよ。退学どころじゃないんだよ?」


薫は姉のように璃季を叱る、叱られ慣れているが影祢は『申し訳ございません』と謝る。


「影祢は悪くないよ、悪いのはあのヤクザだ。」


「璃季、アンタはエルダーが掛かってるんだ。お願いだから無茶は卒業するまで我慢してよ」


卒業したら無茶はいいのかよ、薫子はため息を吐く。ヤクザのことは忘れてしばらく黙っていると薫子は2人が持つ肩掛け鞄を見て


「で?街に行って何をしていたの?まさかデート?」


「そんなわけないだろ、スケッチだよスケッチ。事情は話したじゃないか」


一応瑞穂や千早、薫子等は鴒から果歩の事を聞いている。相談相手は多いに越したことはないからと鴒は身内には話していた。


「スケッチねぇ、璃季って絵書けたっけ?」


「……練習してるの、悪いのかよ?」


「ま、まさかー、ならしっかり練習するべきだよ。」


こいつ人を馬鹿にしてやがる、見てろよ。金賞くらい余裕だっての!そこでふと思い出す、なぜあそこに薫子がいたのかだ。


「そういえばなんで薫子があそこにいたんだ?」


「え?あぁ千早と………あぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


薫子は突然叫ぶ、怪獣の如く叫ぶ。どうやら千早を置き去りにしてしまったようだ


「は、早く戻らないと千早が怒りに満ちて大変なことに……悪いんだけどまたね!影祢ちゃんも!」


軽く挨拶を投げかけて来た道をダッシュで戻っていく後ろ姿を見ながら、璃季と影祢は今日は早く引き上げる決意をした。あの長い道のりを経て寮に帰宅、影祢とは途中で別れた。影祢は寮生になりたいと前から言っていたが中々うまくいかないらしい、理由は知らないけど。


部屋に荷物を置いた後直ぐに食堂に向かう。食堂には果歩を覗いたメンバー、海莉に夜埜依が席に着いていた。果歩はまだ来ていないようだ


「お帰りなさい璃季さん」


「すみません少し遅くなってしまいまして、果歩ちゃんはまだ?」


夜埜依が入ってきた璃季に言葉を投げてくれた、海莉は立ち上がるとキッチンで冷たいお茶を注いでくれていた。


「はい、先程呼びに行ったのですが。後少ししたら行くと返事を」


「ならもう少し待ちましょ?きっとお勉強ですし」


冷たいお茶が入ったコップを海莉は璃季に手渡す。『いただきます』と言ってから静かに飲み干す、かなり喉が渇いていたみたいだ。あれだけ走らされたらこうにもなるはずだ


それから数分後、果歩が食堂へやってきた。なんだかこの間より顔色がよくて嬉しそうだ。


「果歩ちゃん、お勉強は終わったの?」


「お勉強?あ、は、はい!いい感じにはできました」


なぜイラスト大会の練習とは言わないのか、理由は海莉や夜埜依に心配を掛けたくないのと応募してからビックリさせるという事らしい。果歩は璃季の隣の席に座ると


「あの夜埜依お姉さま、しばらく折り紙部を休ませて欲しいです」


果歩は真剣な眼差しで夜埜依を見る、夜埜依はニッコリして頷きながら


「わかりました、果歩ちゃんも何かやりたいことがあるでしょうし大丈夫ですよ」


「わぁ!本当にですか?ありがとうございます!」


席からガタッと立ち上がり両手を万歳のポーズ、璃季は思わず果歩に向かって


「こぉらダメですよいきなり立ったりしては、お行儀が悪いですっ、めっ」


「「「キュッッッン」」」


「あ…………」


い、今なんて?咄嗟に女みたいなこと………『こぉらダメですよぉ?いきなりぃー立ったりしてはぁ、めっ♡』


璃季は椅子から崩れ落ちて土下座モードになる、どうやら瑞穂や千早と同じ道を歩んでしまったようです。


「はぁ………もう男だか女だかわからねぇ………」


「どうかしたんですか?」


海莉は崩れ落ちた璃季に手を差し延べる、女神に見えたがそれは考えないように差し延べてくれた手を掴み立ち上がる。その日の晩御飯は賑やかで心もポカポカして、すごく気分のいい夜だった。そしてその日の夕食後、璃季は果歩の部屋に向かう。扉の前まで行くと扉をノックする


「果歩ちゃん?まだ起きているかしら?」


『あ、はーい!』


元気な声が部屋の外まで響いてきた、扉が開くと直ぐに中へ導いてくれた。座布団が置かれた場所に正座をして座るとササッと暖かいココアを用意してくれた、少しだけ啜ると果歩から話を振ってくれた。


「お姉さま、今日は何かありましたか?」


「あーうん、実は今日スケッチに出かけていたの。街に」


部屋から持ってきたスケッチブックを果歩に渡して見せてあげると、二パァっと笑顔全開にして


「さすがはお姉さまです、柔らかなタッチで暖かい街のビルなどが表現されてます!」


影祢と似たようなことを言われたが素直に嬉しかった、そこであの話を持ちかけることにした


「あのね果歩ちゃん、私もイラスト大会に応募することにしたの。」


「え……」


さっきまでの笑顔は無くなる、まさか璃季がイラスト大会に応募するとは思わなかったのだろう。璃季は話を続ける


「応募の動機は自分を磨くこと、今の私ではエルダーだなんて皆の希望のお姉さまにはなれないわ。だから、果歩ちゃんに負けないつもりで挑むつもりだよ?」


優しい声で、ニッコリ笑顔で不安を与えないようにする。果歩ちゃんには夢を追いかけてほしい、いや、掴んで欲しいから。璃季は昔から習い事をやっていたが自分から進んでやっていた訳ではない、だが今回はどうだろう?誰かを助けるために、その困っている人を救いたいから。誰もやれないなら自分がやる、誰にも負けたくないから、見返したいから。


そんな理由だけどあの時薫子が言ってくれた言葉、『でも、聖應に入れば人生変わるかもよ?』その言葉の意味をようやく理解したのかもしれない。まだまだわからない部分もある、人間関係は酷く難しく壊れやすい。一度失った信用はその時得た信用の何十倍も努力をしなければならない、今こうやって学院にも寮にも居られるのは周りが救って、困っているところを助けてくれたからだ。


そうか、何もしないより何かして後悔しろとはこのことだったのか。璃季は少し涙を流しそうになるが耐えた、まだまだやることはある。改めて果歩に告げる


「果歩ちゃん、私と勝負だよ。果歩ちゃんが夢を掴む努力をどこまでしたか私に見せてくれる?」


優しいお姉さまでありながら、強く負けないように見つめながら果歩に話した。


「おね…さま。……わたし、果歩も負けません。果歩は漫画家になりたくてずっとずっと練習をしてきました、絶対に絶対に負けたくありません!絶対に金賞を取ってお母さんと………」


そこで話す口を止めてしまう、父親も好きだけど長く会っていない。会えるかわからない、璃季は強い口調で


「負けるな!自分の気持ちを大事にするの、今言いたいのは何?諦めたくない気持ちを言いなさい」


綺麗な瞳から流れ出る涙はダムが決壊したかのように溢れ出る、それでも強く強く璃季に言い放つ。


「負けません!果歩は必ず金賞をお母さんとお父さんに見せたいんです!」


「……うん、そうだね。よく言えたね果歩ちゃん」


「お姉さまっっ!」


果歩はたまらず立ち上がり璃季に飛びついてしまう。璃季は逃げずに頭を優しく撫でてあげる、本当の妹のように優しく優しく。


「じゃ、明日からはがんばらないとね?」


「はい!でも、ちゃんと寝るようにします。あはは」


苦笑いで答える果歩、倒れたら元も子もない。璃季は撫でるのをやめて果歩の両肩を掴むと


「負けないようっ!」


笑顔で果歩に宣戦布告をすると、果歩は―――


「果歩はプロを目指してます、負けるわけにはいきません!……ぷっ、あははは!」


「なんだか疲れてるのかな、あははは!」


変な緊張感に包まれていたこの頃、今ここでその緊張感は幕を閉じた。これからは挑む緊張感が始まる、果歩はもう迷いはないだろう。


「お姉さま?」


「どうしたの?果歩ちゃん」


「もしも金賞を取ったら、何かお願い事をしてもいいですか?」


突然何を言い出したのかと思ったが、璃季はお安い御用だよと返事をした。このお願い事は一体なんなのか?それはまたわかることだろう、さて――


「今日はもう、休もうか」


「はい!」


今日は2人で同じ部屋で寝ることにした、明日からは忙しくなるだろう。果歩を応援しながら自分もがんばらないといけないのだから。

こちらのイラスト大会でのお話は、今更新中の所謂共通ルートが終わったあとの個人ルートにて更新致します。


果歩ルートをお楽しみに!

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