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「乙女はお姉さまに恋してる―after.elder―」  作者: かずとん。
果歩編―The thing I'd like to do―
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第20話『It's for you-君のためなら-』

璃季は落書きセットを自分の部屋に持ち込み、テーブルに並べる。備え付けの椅子に腰をかけて画用紙をペラっと開けて白紙のページを眺める。


「何を書けばいいんだろ、人物?建物?」


イラスト大会に決められたルールはないらしい、書きたいものを書くのがルール。毎日毎日果歩はこんな感じに白紙の画用紙を眺めていたのだろうか?並の精神ではそんなに長くは書けないだろう、白紙白紙白紙。一面真っ白で何も訴えてこない、こちらが1つペンで線を書けばそれは何に見えるだろう?流れ星?髪の毛?


璃季は白紙のページを見つめたまま目を瞑る。果歩は言った、母親が亡くなったのは私(果歩)のせいだと。父親が過労で亡くなったと告げたのはなぜだ?家庭事情は少し複雑なのだろうか、璃季がグレた理由もそれもあったり、女装男子だと馬鹿にされたこともあり嫌になって反抗したこともある。


「書きたいもの、見つからないなぁ……」


椅子の背もたれに深く座る、ふと窓の外を眺めると夕日がこちらを覗いていた。時間帯は17時を周り、もうすぐしたら夕飯だ。


「誰かに相談してみよっかな、俺だけでは難しいし。」


璃季は携帯の電源を入れて電話帳を呼び出す、夜埜依に海莉、影祢の登録した名前が下から上へゆっくり現れる。璃季は影祢の名前をじっと見つめる、携帯の十字キーの真ん中のボタンを押すと呼び出し音が鳴り始める。


プルルルル、プルルルル


3回目の呼び出し音が鳴る直前で影祢に繋がった。


『あら、璃季様どうかしたのですか?』


出てくれたからか?影祢の声を聞くと悩んでいた心の暗さが少し晴れた気がした。


「あぁ、あのさ?実は――」


先ほどの果歩の状態と璃季がイラスト大会に応募することなどを伝えた。影祢は璃季が話を終えるまで黙って聞いていてくれた、影祢には迷惑をかけてしまっている。いつか返さないと


『そうでしたか、璃季様が果歩ちゃんの背中を押してあげられるのですね。やる以上はワザと下手なモノを書いたりはせずに真剣にやる事をオススメいたします』


「わかっているよ、手加減なんかしたくないのは昔から知っているだろ?」


電話越しなのにすぐ側で話を聞いてくれている気分になる、影祢は昔から人の相談にはよく乗ったりしていたっけな。少し間で関係ない話をしてから璃季は


「それでさ、悪いんだけど明日の放課後時間あるか?」


『はい、それは大丈夫ですがどうかされましたか?』


影祢が頭の上にハテナマークを出しているのに違いない、璃季はその答えを教えて上げることにした。


「じゃあさ放課後に―――」


「……まぁ、わかりましたっ!なら私も持参していきますね」


「あぁ、じゃ頼むよ」


それを最後に電話の受話器が閉じたマークを押して終了した、璃季はテーブルから立ち上がり肩掛け鞄に落書きセットを収納する。


「よーし、果歩には負けらんないな。絵心がない俺だけど努力すればどうにかなるはずだ!」


璃季はその鞄をテーブルの横にある鞄掛けに引っ掛けて、夕飯が並べられる食堂に行くため、部屋を後にした。その日の夕飯の時間には一番に果歩が食堂に到着していたのだった。


――――――――――――時は流れて翌日の放課後。


緋紗子先生のSHR(ショートホームルーム)を聞き終わりササッと身支度を済ませ先に職員室へ向かおうと教室から出ようとした時だった。


「あ、竹ノ宮さん?」


「はぇ?なんでしょ?」


ち、ロールに捕まったか。と七条アリスを見ながら口には出せないので心で呟く


「昨日のオムライス、中々よかったので宜しければ我が家庭科部へ入りませんか?」


まさかの入部の誘い、今だから言っておこう忘れている人達も居るはずだが璃季は『女』が苦手だ。今まで普通に接してきているが表には出していない、苦手と言っても喋る等は大丈夫だが触られたりするのがあまり……自分から触るのは命懸けだったり。


いや、命懸けは言い過ぎた。まぁ以前ほど苦手意識はないけどドキドキが止まらないのはきっと不整脈なんだろう、また病院に行こう。


「って聞いていますの!?」


「へ?あぁ、すみません。で?」


「で?ではありません、家庭科部に入部しませんかと聞いていますの」


部活、確かに探してはいたけど今はそれどころではない。果歩のことで忙しいのだ、ここは断ろう。璃季は両手のひらを合わせて片眼を瞑りながら


「ごめんなさい、また今度!ごきげんよう!」


ビュンッ!!と早足で教室から出ていく璃季、アリスはそれをただただ見送るしか出来なかった


「あ、ちょ!行ってしまいましたわ、次こそは竹ノ宮さんを」


アリスは璃季を見送ったあと、璃季を必ず入部させると心に誓ったのだった。


璃季は職員室へ向かい緋紗子先生に外出許可を取る。緋紗子先生は


『何やら熱心ね?応援するからがんばりなさい』


と一言添えて許可を出してくれた、璃季もありがとうございますと言ってから職員室を後にする。下駄箱で待ち合わせをしていたので影祢をすぐに見つけられた、璃季も下駄箱から靴を取り出して入り口で待つ影祢に近づき声をかける。


「お待たせ影祢さん」


「璃季さん、私も今来たところでしたので待ってはいませんよ?」


なんだか恋人みたいな会話だがそんなんではない、そんなんではないよね?璃季?


「説明欄が話しかけてくるな!!」


「どうかしましたか?」


「え?いやなんでもないですよ?それじゃ行きましょうか」


影祢が『はい』と返事をすると璃季達は校門から出て街へ向かう、聖應女学院から街まで歩きだと20分くらいだ。そう今日街へ繰り出す理由は『風景画』を書こうと決めたからだ、影祢に教わりながらになるが上手くなるためには上手い人に聞くのが一番だと考えたからだ。資料もあるが堅苦しいのは苦手で人に聞いたほうがわかり易く説明してくれる、璃季と影祢は他愛のない話をしながら坂を下り街へ着く。


「街に来たのはいいんだけどどんな風景画を書こうか悩むなぁ」


「ビルを書いてみてはいかがでしょう?」


風景画と言っても一杯ある、山、海、街並み等ほぼ無数。無難にビル一杯書いてみようかと思った璃季はどこか座れる場所がないか探す。


「よし、あの店に入って2階から書こうか?」


璃季が歩きだそうとすると『お待ちください』と影祢に止められる、ちょっと転びそうになったが踏ん張った。


「なんだよ、他に書けそうな場所ないだろ?」


そんなことを言うと影祢は人差し指で自分の制服を指さす、一瞬なんのことだがわからなかったがすぐに思い出す。


「しまった、制服のままはダメだったか。じゃあどうしようか」


こんなことなら着替えておけばよかった、そう思ったが影祢が何かを探すように周りを見渡して


「あちらの公園ならビルを眺めながら書けます、いかがでしょう?」


「背に腹は変えられない、そこにしよう」


影祢のサポートにより近くにあった公園へ入る、ママさんが井戸端会議?だかわからないが数人が輪を作って話している。その親の子供や犬なども好き勝手に走り回ったりして思い思いにやっていた、2人は近くのベンチに座る。中に入ってきたのを見たママさん達は『あら聖慶の子?』『将来的ウチの子も聖應に入れたいわね』等と話しているのが聞こえた。


「さて、早速始めようか」


「はい、がんばりましょう」


璃季が肩掛け鞄から落書きセットを取り出す、影祢も同じように鞄から画用紙と使い込んでいる色鉛筆を取り出した。


「まずは、目の前に見えるビルから書こうかな。こうやって…」


璃季は鉛筆を走らせていく、それを見た影祢もゆっくりと同じビルを描いていく。風は無く暑さも程よくスケッチ日和だ、書いている間に遊び回っている子供のサッカーボールがこちらに来たり、目の前で走っていた女の子がコケたりして集中はできなかったが


「よっし!できた!」


「はい、私もできました。せーので見せ合いませんか?」


「おーけー、じゃあいくよ?せーの!」


2人は向かい合うように身体を捻り、画用紙をバッと裏から表にして見せ合いう。


「って影祢、お前それ……」


「久しぶりのスケッチでしたから、すこし線が乱れたり建物のバランスがおかしいですが」


影祢が書いたビルは、まるで高画質レフカメラで撮影したのをそのまま見せられたくらいにうまかった。それでいて線が乱れたり建物のバランスが変だと言った、見てる世界が違う。影祢恐ろしい子……影祢は璃季のスケッチを見てにっこりとする


「璃季様のビルはなんだか暖かくて、優しいタッチです。そういう風に書ければよかったのですが」


璃季が書いたビルは、線は所々で歪んでたり真っ直ぐ書いたつもりだが斜めったりして影祢と比べると天と地。それなのに影祢はスゴク綺麗だとか、優しいタッチだとか言う。皮肉ではなく心から言ってくれているのだとわかった。


「イラストだとかスケッチって難しいし奥が深いんだな、1枚書くのにこんなに精神が疲れるとは思わなかったよ」


「何も綺麗に書くのがイラストやスケッチの全てではなく、どれだけ気持ちや愛を込めて書くのかが重要なんです。璃季様はどう言ったモノを書きたかったのでしょう?」


璃季は自分の書いたスケッチと影祢が書いたスケッチを交互に見る、やはり影祢が書いたビルのスケッチが一番モノとして伝わってくるが璃季が書いたのは本当にただただそのまま書いただけにしか見えない。


「そりゃ、影祢のようなビシッとしたビルを書きたかったさ。俺のは誰でも書けるしさ」


そこで影祢はムッとした顔をして睨んでくる、何に怒っているんだ?影祢は顔を璃季に近づけて


「それは間違っています、その人が書いたモノは確かに誰にでもかけますが。その人が書いた思いは誰にも書けません、そのビルも璃季様にしか書けません!」


「そ、そうか?わ、わかったよ」


プイっと顔を背けてムクれる影祢、公園を出るまで機嫌は直らなかった。スケッチを終わらせた2人は少し暗くなった夕方の空の下を歩いて帰宅していく、街の雑踏、人の声、ビルのネオン。全て人が作り出した舞台を璃季と影祢は歩いていく。


「果歩、昨日と今朝はいつもみたいに現金だったけど無理をしてるようにも見えたんだよな」


「それはやはり無理をしていないと皆さんに見せたかったのでは?」


2人で人混みをよけながら歩く、話をしないで帰るのはちょっと寂しいから話題を出してみた璃季。影祢は答えてくれた


「かもしれないな、まずはイラスト大会に出ることを教えてあげないとな」


「はい、そのほうがよろしいかと」


と、話して歩いていると影祢は対向して歩いてきた若い男にぶつかってしまう。影祢は直ぐに振り向き


「申し訳ございません」


その男性に深々と頭を下げる、しかし


「おいコラ、今ぶつかった拍子に大事な腕時計壊れたやろがぁ!?」


腕時計をチラチラ見せながら壊れてますアピールをしてきた、しかしおかしい。ぶつかったのは肩で腕時計には当たっていない、横一列で歩いていたのでぶつかる瞬間は見た。見た目はスーツでガラのネクタイ、お決まりのヤクザ風。影祢はそれでも謝る


「申し訳ございません、弁償致します。」


「はぁ?弁償?舐めてんのか女?……お前ら聖應のお嬢さまか、なら今すぐ500万くらい用意しろや」


「そ、そんな!?」


影祢は金額を聞いて目眩を起こしそうになる、倒れかけた影祢を支える璃季。


「申し訳ございませんが私達は何もしていません、何かあるなら弁償をすると言いましたしぶつかったのは肩。腕時計には当たっていない筈ですが?」


璃季は制服な為にとりあえず猫をかぶる。それに腹が立ったのかヤクザ風の男は影祢の腕を掴み


「おい、お前らちょっと来いや。いい女みたいだしな?」


「は、離してください!!いや!」


璃季は影祢の手首を掴んだ男の手首を掴む、璃季は無意識でドスの効いた声と目で


「……おい、離せ。てめぇみたいなクズが影祢に触れてんじゃねぇよ」


「あ?!いけません璃季様!」


ヤクザ風の男は璃季の発言にさらに頭に来て影祢の手首を離して、璃季の胸ぐらを掴んだ。今にも殴りそうな場目で周りの人達が『警察呼んで!』と叫んだりするがヤクザ風は逃げずに殴るモーションに入る、影祢はなにもできずに地面にペタんと座り込む。


「死ねやアマがぁぁぁ!」


璃季は目を瞑らずにヤクザ風の男の目を見ていたら、ある声が璃季の後ろから聞こえた。


「何やってんのさ!!!」


その声の主が璃季様とヤクザ風の間に入りその男を突き飛ばした、その声の主は


「薫、なんでここに」


「アンタは馬鹿か!ほら早くいくよ!」


璃季と座り込む影祢の腕を掴み、ビルの間から見えなくなっていく夕日に向かって走り出した。

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