第2話『聖應女学院入学案内書』
薫子と別れた後、オレは屋敷に帰宅する。
正門を潜り玄関に入ると、見知らぬ靴がある。
「誰だ?親父達も帰ってるみたいだし。客か?まぁいいや」
俺は自分の部屋に戻るために階段登っていく。部屋の扉の前までいくと鴒に呼び止められる。
「璃季さま、お話がありますので客間に来てくださいませ」
「オレは今からゲームで忙しいんだが」
「来なさい、客間に。」
すげぇ、怖い顔してきたから渋々客間に二人で向かうことに。客間近くになると話し声が聞こえる。……聞いたことある声だな。
中に入ると
「やぁ、元気にしてたかい?璃季」
「瑞穂?!なんでお前が」
宮小路瑞穂、四年前に聖應に通っていてエルダーだった『男の娘』。見た目も声も完全に女だ、わかるわけない。ちなみに彼女がいる。
「おじさまに聖應のことで教えて欲しいと聞かれてね、やってきたわけだけど。相変わらず璃季は喧嘩屋で、ゲーマーみたいだね(笑)」
瑞穂はクスクス笑う、オレは親父のに向き合うようソファーにドサッと座る。
「で?話って?嫌な話しならオレは部屋に戻る」
「まぁまぁ、悪い話じゃない。お前は完璧女の子だし、スタイリッシュな女の子は人気者にはなれるぞ?」
「何度も言うが男だ、男!!大体髪を伸ばしてんのがわりぃんだよ!」
「ばかもん、お前はもう女として生きろ!」
「ぶっ飛ばすぞクソおやじ!!」
掴みかかろうとしたら瑞穂に止められる。
「気持ちはすごくわかるけど、話を聞いてからでもいいだろう?だから、さ?」
オレは舌打ちをしながら、ソファーに座り直す。瑞穂が咳払いをして
「で、話というのは聖應のことなんだ。今の聖應は少し前と比べて派閥などが増え始めていて、人気を集めている生徒に対し、不人気の生徒が嫌がらせ。またはその逆で人気を集めるために賄賂や脅しといったことが秘密に行われているらしいんだ。」
オレは半分だけ話を聞きながら紅茶を飲む。
「それ以外にもエルダー選出の際に悪戯や批判。簡単に言うと生徒らしいことではなく、自己中心的な動きが目立ってきたと聞いたよ。聖應はミッション系の学院であるからして、個人の主張が優先なんだけど。それをなにか勘違いしているみたいなんだ、悪戯の酷さに休学してる子もいるとか」
話が見えない、それとオレにになんの関係があるのか。オレは紅茶の入ったカップをソーサーに置く
「オレになんの関係があるんだ?そんな話をして」
「つまり、璃季には聖應に入学して欲しいんだ。と言っても飛び級になるけど」
瑞穂は苦笑いしながら、もう入学しろと言わんばかりに璃季に告げた。
「やだね、てか!女が通う学院とか見つかったら豚箱行きじゃねぇかよ!女の臭いが充満した学院って考えるだけで目眩がするわ」
「あ、あはは。まぁ気持ちはわかるよ、ボクもそうだったし。でも璃季はホントにわからないしさ!大丈夫だって!」
瑞穂はあくまでも入学させるらしい。オレは立ち上がり
「わりぃけど、断る。そんな危険な賭けに乗れねぇし」
部屋に戻るために出口を目指そうとしたら
「お待ちなさい璃季。」
鴒はオレの前に立ちふさがる。
「オレはいかない。あんな経験して、今度は男だとバレたら。オレはどうすればいいんだよ」
鴒は目を瞑る、そうだ。小学生、中学生とバカにされ。世間で言うヤンキーってやつで呼ばれ。何もかも嫌になった、なのにまたそんな似たような。それより危険が伴う事をしろだなんて。オレにはできない。
「ボクや、千早くんも同じだった。璃季だけじゃないよ、何かあったら必ずサポートすることを誓う。だから、聖應を救って欲しいんだ」
瑞穂はソファーから立ち上がり、声は静かだが力強い言葉で俺に問いかける。
「………無理だ。千早、瑞穂はできたかもしれない。だけどオレは………」
それだけを告げて部屋を出ようとした時だった。
パシンッッ!!!!客間一杯に乾いた音が鳴り響く。理解するのに数秒かかった、じわっとした痛みが頬に広がる。
「……っ?!れ、鴒」
「私は主人である、璃季を叩きました。これは罰にされてもおかしくありません。私はずっと、貴方を叩いたことを悔やみ生きていくしかありません。貴方と同じで、ずっと悩み続けることでしょう。」
「な、何が言いたいんだよ……」
オレは少し俯く、鴒はオレの両肩を掴み
「いい加減に、前を向きなさい璃季。貴方にはまだ無限の可能性があるのです!貴方にしかできないことが!それを開花させることができるのは、私達ではなく、貴方自身です!手助けしかできないのです私達は。」
鴒は少し目を潤わせていた。あの鴒がこうにもなるなんて、オレはなんてことを……昔からずっとオレに色々教えてくれた鴒はまるでおふくろのような存在だ。
「大丈夫だよ、絶対に何かあっても助けるからさ!」
瑞穂も強い眼差しでオレに訴えて来る。親父は
「なら、もし聖應を無事卒業できたら。お前の願いを1つ叶えてやろう。どうだ?悪くないだろう?な?母さん」
キッチンから話を聞いていたのか、母さんが顔を出し
「りゅーちゃんがやれないわけがない。習い事も全部こなしてきたじゃない。だから、大丈夫よ」
母さんもそう言ってくる。そうか、いつまでもふさぎこんでちゃダメだよな。オレはゆっくりソファーに座り直し。
「わかったよ、入学の話をしてくれ。」
「璃季(璃季)っ…!わかった、じゃあ早速なんだけど」
入学案内の話は2時間ほどをかけて終わった。久しぶりの学院生活が『女の子』だらけの場所とか、正直死にそうだけど。
そろそろ、自分自身と向き合わないとな。
夜、明日の編入のために制服を鴒が部屋に持ってきた。女もんの制服とか久しぶりだ。何故か中学生の制服が学ランじゃなくセーラー服だったし。
「こちらが聖應の制服になります。季節的に今は黒です、ロングスカートにミニスカートタイプがありますが」
オレは迷わずにミニスカートを手に取る。
「ロングスカートだと動きにくいし、ミニスカートだな。靴に指定は?」
「特にはありません。なにかございますか?」
オレはクローゼットから、軍隊が履くようなブーツの膝下まであるやつを手に取る
「やっぱこれだな、あとは。」
オレはまたクローゼットから、ハイニーソを手に取る
「ま、こんな感じじゃないか?」
「さすがは璃季さま、ご自分でエロさを引き立たせるとは。この鴒めは感動で涙が。」
なんで抑えてる場所が鼻なの?オレにはよくわからんが、それよりさっきのこと謝らないとな。
「さ、さっきは、そのすまなかったな、泣かせちまってさ……ごめん」
頭を軽く下げる。あの鴒が涙を流すなんてよっぽどだ、きっとそれだけ…
「あれは目薬です、騙されましたね璃季さま。私が簡単に泣くとお思いで?ん?」
「てめぇぇ!!騙しやがったな!?オレの今の謝った時間返せやっ!!」
目薬をフリフリして、嘘ですよアピール。ちくしょ……
「もういい!!オレは寝るから出てけ!」
鴒を追い返して、オレはベッドに入るとそのまま眠りについた。
「嘘じゃありませんよ……目薬を使う予定でしたが。使わずに済んだのです、璃季」
扉の向こうのことなんて、何も聞こえなかった。
そして時間は早く過ぎて、編入日。聖應女学院の正門につくと、鴒が身だしなみの最終チェックをしていく。
「ポニーテール、完璧。ニーソ完璧。化粧完璧。見た目、声、パーフェクツ!!さぁ璃季さま、行きましょう。」
鴒は編入の手続きで一緒に学院へ、玄関を潜るともう女の園で臭いでぶっ倒れそうになるが耐える。鴒と職員室に行き編入手続きを終わらせ、今日から入る教室へ。3年の教室を見つけ入口で立ち止まる。
「はぁ飛び級だし、いきなり3年だからな。勉強大丈夫かな。」
「大丈夫です。璃季さまは完璧ですから、さぁ入りましょう。」
オレは頷き、扉に手を掛けて――
開ける。中に入るとみんなが見てくる。
物珍しい目で見てくるが、オレは慣れていた。
なぜならば――
「お初にお目にかかります……竹ノ宮璃季です。」
昔からそういう目に
「……よろしくお願いします。」
見られ続けていたのだから。