第11話「剣に導かれた聖女」
「か、影祢?お前付き合うって何を突然?!」
いきなり付き合えとか無理に決まっている。心の準備も出来ていない、それにまだ俺の気持ちがだな?
一人で頭をフル回転させていると、影祢は少し顔を赤くして。
「ち、違いますの、剣を交わらないですか?という意味です!」
「へ?……あぁー、なるほどそういうことか。あはは、びっくりしたぞ」
嬉しいのか悲しいのかわからないが、とりあえずよかったよかった。しかし何故それが条件なのかわからないな
「でもなぜ、自稽古を?俺より上手いだろ?」
「璃季様はわかっておりません。私より綺麗で、ブレない刀裁きはだれにもできません。今からでもよろしいですか?」
影祢は持参していたのか、竹刀袋を見せてきた。断る理由はないしこちらとしても、雪皇紀との自稽古を控えているしな。
「場所はどうする?鴒に言えばすぐに用意できるが?」
「では、お願いします。」
急遽、自稽古をする事になった俺は鴒に連絡し場所を用意してもらった。ちなみに、バレたことも報告すると。
『初めては影祢様でしたか。』
と意味深な事言う鴒に『あぁそうだよ』と答えておいた。その用意された場所は……
「里馬道場、久しぶりだな。」
「はい、心が引き締まります。」
里馬道場は鴒の親父さん、つまり俺達の先生の1人が開いた全国でも有名な道場だ。俺と影祢は鴒に鍛えられたが、先生の腕に勝てるものはいない。
「お!鴒帰ったか」
「ただ今帰りました、父上。それと璃季様に影祢様もいらっしゃいます」
鴒は一歩下がり俺達を前に出るように促してくれた。
「お久しぶりです、師範。」
「璃季ちゃんじゃないか!いやぁいい女の子になったなぁ!がはは!」
あー、ぶっ飛ばしてぇ……男だってわかってるくせに
「それに影祢ちゃんよく来たね。話は聞いているよ、璃季ちゃんと自稽古だろ?」
「はい!久しぶりに腕がどうなのか知りたくなり始めたので、参りました。」
影祢はペコッと頭を下げる。影祢は大和撫子と言われても過言ではないからな。俺達は下座に着いて、正座をする。
「で、璃季ちゃん同じ学院の女の子と自稽古するって聞いたぞ?腕もすごいやつなんだろ?」
先生も正座でこちらに向き合う。鴒は先生の斜め後ろで正座をしている。
「はい。どこかの流派らしいのですが、まだ技を見ていないので何とも」
「ふむ、名前は?」
俺は雪皇紀の名を口にすると。先生は目を見開くが直ぐに普通に戻る。
「ふむ、聞いたことあるな。まぁあれだ、お前とは宿敵みたいなもんだろうさ」
「宿敵って、会ったのは初めてですよ?」
「お前、教えていないのか?」
「フェアではありません。」
先生は後ろにいる鴒に話しかけると、鴒はそう答えた。俺にはさっぱりだ
「固いやつだな。ま、それよりさっさと影祢ちゃんと自稽古をしてみたらどうだ?審判はワシと鴒がやろう」
俺と影祢が自稽古をすると聞いた門下生が道場に集まった
「わかりました。じゃあ早速」
「一本勝負でいきましょう。」
俺は頷く、用意された道着や防具を取り付け。ステージに立つ
「手加減はなしだ、負けるつもりはないし。」
俺は正面に立つ影祢を睨みながら話す。
「当然です。璃季様より早くに免許皆伝をいただいたので、負けるわけには行きません。」
ある程度話すと先生と鴒がステージに入る。
「両者前!」
指定の位置まですり足で歩き、しゃがむ。鞘を抜く動作をして竹刀を構える。
「一本勝負無制限、決まるまで止めません。」
鴒がルールを告げると、先生は俺達を見てから。
「はじめぇぇ!!!!」
開始宣言を受けて、竹刀を構えたまま立ち上がり、怒号の声で威嚇する!
「はぁぁぁぁあ!!!」
「はぁっ!!!」
両者は竹刀をカチカチっとぶつけ合う状態。どちらかが動けば状況が変わる。俺は小さな歩幅で前後に動きながら間合いを詰めたり、下がったりを繰り返す。ここでしびれを切らせ、前に出ると体力も減るし隙を見られる。
「……………」
影祢の集中力は凄い、こちらが仕掛けるアピールをしているが動じない。先に蕩くか?剣道ではいつまでも動きがない場合ペナルティを喰らう時がある。俺は上段の構えをする
「はぁ!胴ぉぉぉお!!!」
竹刀を横に傾け、左足で床を蹴り前へ踏み出してくる!
「甘い!はぁぁ!!」
バシィィン!!上段から影祢の竹刀を床に払いのける。影祢の竹刀が床に叩きつけられるが直ぐに下がる。下がったのを見てから、俺は仕掛ける後ろに下がりながらだと直ぐに対応はできない、俺は面を狙う!
「甘いです!面ぇぇぇえん!!!」
払いのけ面を決めるがうまくいかず、面金に当たる。そのまま鍔迫り合いに持ち込む。
「腕、落ちたんじゃないか?!」
「璃季様こそ、竹刀がうまく動いていませんよ?」
力は俺が上だが身長が低く動き回りやすい身体は剣道に向いている。影祢は鍔迫り合いをやめてまた下がりながら、今度は下がり小手を狙ってくるが、俺はこれを待っていた。下がり小手をする場合、面はがら空きになる!俺は下がり小手を決める瞬間、竹刀を払いのけて、面を決めた。
「面ぇぇぇえん!!!」
スコォォォン!!!っと綺麗に面が決まった。
「面あり!勝負あり!!」
俺達は指定の位置にしゃがみ、竹刀を鞘に収める動作をして、自稽古を終えた。面や小手を取って、ドサっと床に座り込む。
「やはり、璃季様の竹刀は芯がブレていません。剣道を続ければもっと良くなると思うのですが」
影祢はスポーツドリンクを飲む俺に話しかけてくる
「俺はダメだよ、喧嘩剣道が混じっているよ。それに俺は剣道なんてただの身を守るだけのものだとしか思っていないのさ。スポーツとしてはダメダメなやり方だ。」
自傷気味に話す。鴒は俺の長い髪をポニーテールに縛りながら
「璃季様の剣道は確かに喧嘩剣道で、ダメダメです。」
「人に言われたら傷つくな、これって」
落ち込んでみると、鴒は俺の頭を撫でながら
「ただ正しい剣道をしていては、守れるものも守れません。誰かを守る時に、ルールも制限もありません。時にはひねくれた考えを持ちながら勝つことも必要なのです。相手のステージに立ってはいけません、勝つときは自分を信じる、それが剣の道です。」
鴒の話を黙って、噛み締めていた俺達は、やっぱりまだまだだなと痛感したのだった。
道場を後にした俺達は
「俺は寮なんだ、あっちだからまたな。」
「そうですね、ではまた明日です『璃季さん』ごきげんよう」
影祢はさっきの昔から知っている影祢ではなく、今の、聖應のお嬢さまに戻っていた。
「はい、ごきげんよう。影祢さん」
影祢とは別れて、暗くなってしまった夜道を鴒と寮を目指し歩く。
「いよいよ、あと1日で自稽古ですが。何か策はおありですか?」
「そんなのあるわけないじゃないか、まだ相手の内もわからないんだからな。」
俺はカバンを肩にひっげて、歩く。
「………大丈夫です、璃季様なら必ず勝てます。」
「なんの根拠があるんだよそれ、相手は全国連覇だぞ?」
鴒はクスッと笑うと、急に立ち止まる。
「先ほど申したではありませんか、時にはひねくれた考えをしなければならないと。毎日ひねくれた璃季様なら得意ではありませんか?」
「はぁ?!ふざけんな!ひねくれてなんかねぇよ!ばか!」
「それ、凄くいいです!もっと!璃季様もっと!」
こんな調子で勝てるのかよ……
俺はため息を吐きながら、少し重い竹刀袋を肩にかけ直しながら、寮に帰宅した。




