『春の風、迎える現実』
「璃季、お前そろそろ学校へ行かないか?もう世間では2ヶ月前には入学式を終えているぞ?」
そう、親父に呼ばれ告げられたのは『学校』へ行けという言葉だった。オレにはコンプレックスがある。見た目は完全に女で、肩より下まで長いうす明るい茶髪の毛。身長は女モデルに近い177センチ、男には絶対にあるはずのほとんどのヒゲや毛が生えない。
声も変声期なんかなくてマジで女声。親父曰くドS系お姉さんみたいな濃い女声!とか
さらには、両親や姉の趣味のせいで家以外では女物の服を着せられるわ、髪は長いからって外にいるときはポニーテールにしなさいとか……
小学生のころ、男子には『お前男かよー、女じゃないかよーきもちわりぃ!』とか女子には『いいなぁ、可愛いし髪の毛綺麗でサラサラだしぃ』などとオレからすればこいつら頭大丈夫か?
と、言いたいくらいだった。オレは誰とも関わりたくないために、中学に入ると不良になった。所謂ヤンキーだ、こう見えて世間から見ると金持ちの家に生まれた俺は習い事や勉強は完璧にしていた。それを武器に担任をボコボコにしたりした。だがまた中学で酷いことが起きた、両親はオレの学ランを取り上げてセーラー服を着ろと言われ。ヤンキーグループからも姉御姉御と言われ続けた。もう一度言うがオレは『男』だ、胸もない。男の大事な物もある。
そこを踏まえて、親父たちに呼ばれる数時間前の話をしよう。
オレは中学を卒業してから引きこもりになっていた。寝ては起き、ゲームをしたりして時間を潰して2週間が立った朝だった
コンコン、コンコン。
扉をノックする音が聞こえる
「……んぅ…んだょ……」
返事が聞こえたのか部屋に入ってきたのは。
「璃季様、朝食ですよ。起きて下さい」
家の屋敷のメイド長『里馬鴒』だ、オレが餓鬼のころから優先して女にしようとする犯人の1人
「んー…適当に置いといて」
オレは布団を抱き締め寝返りを打つと鴒はオレに近づき
「はしたないです、パジャマも乱れてエロいですよ璃季?」
鴒はオレの専属+保護者代理。両親はたまにしか屋敷に帰らないため、このデカイ屋敷にはメイド達とオレしか住んでいない。鴒は真面目になると敬語や丁寧語は無くなる。
「うるせ、オレは男だ。女じゃねぇ」
「その声とパーフェクトガールボディーでは、説得力がございません。」
「あんま調子に乗ってるとぶっとばすぞ?」
「やだ、そんなキリッとした目で言われたら……鼻血が」
鴒は鼻を抑える。こいつは変態だ、俺に対して。
「考えてもみてください。男なのに女の体つきに、女声。髪は長髪でポニーテールが一番似合う!ちょっと怖いヤンキー女にそんなこと言われたら萌えます。」
いや、かなり度が過ぎた変態だわ。オレはベッドから起き上がる
「さて、飯食ったらゲームっすかなぁ」
「璃季様、髪をといて差し上げます。跳ねています」
鴒は髪を解く鉤歯と鏡を持つ
「もうやめてくれよ、髪とか切っちまうか。長いから女女言われんだし、ナンパもくるんだよ。全く」
「それだけ璃季様が可愛いし、かっこいいお姉さんに見えて魅力的だからですよっ」
「やかましぃババア!!!ぐほぉお!?」
鴒は俺より年上で、20代。鴒の方が大人のお姉さんだが、なぜか変態。いい大人が変態かよ……ちなみにボディーブローいただきました。
「あんまり調子に乗るならぶっとばしますよ?」
「な、殴る前に、言えや……」
結局大人しくポニーテールにされる。オレは動きやすいレギンスを履き、ワイシャツを着る。なぜレギンス(女物)かって?家族ぐるみの陰謀だよ……
「ふぅ、あーポニーテールって昔からだけど窮屈なんだよ」
「諦めてください、とても。とてもお似合いですっ!きゃ!」
あー殴りたい、無性に殴りたいわ。オレは財布をポケットに入れて部屋を出ようとする
「お待ちなさい。どこへいくのです?」
「コンビニだよコンビニ。腹へったからさ」
鴒は深いため息を吐く、どうせいつものだ。
「屋敷の者が作った朝食があります。そちらを食べてください」
「断る、毎日毎日高価なもん食べてたら体悪くなる。それに太る」
またため息を吐く、鴒もいい加減わかってくれないのか?鴒はオレに近づき
「屋敷の作る食べ物は全て管理しています、太ることはありません。さぁお財布を出しなさい」
「断る、じゃ」
部屋を出ようとしたら腕を掴まれ一本背負!!!床に叩きつけられる
「いだぁぁ!?な、なにしやが――ぐぼっ!?」
鴒は体重を掛けて馬乗りになる
「大人しく屋敷の朝食を食べられないなら家の中でも女物の下着にしますよ?」
そう、外に行く時は下着すら女物…………男なんだよ?
「ちょ!わ、わかったから離してってば!」
鴒は大人しくどく、オレを立ち上がらせる。
「さ、食堂へいきましょう。」
鴒に腕を引っ張られながら食堂に行き、朝食を済ませた。
ちょっと出かけると鴒に告げて家を出ると。
「………」
数人のスーツを着た男達がオレんちの隣の屋敷の正門でウロウロしていた。オレはそこを通り過ぎながらチラッとそいつらを見たのが悪かった
「おい姉ちゃん、なんかようか?」
ね、姉ちゃん………
「いや、なんでもねぇよ」
俺は目だけを合わせて話す。返答の仕方にイラッとしたのかズカズカ近づいて
「女だからって容赦しねぇぞ?あ?」
こいつ、『新しい奴かな』まぁいいや。こっちもストレス溜まってたんだよ、オレはそいつの胸ぐらを掴み
「んだよ、やんのかよハゲ」
「このアマァァァア!!!!」
強面の男はストレートにパンチを繰り出すが甘い、甘すぎる。パンチの芯がブレてる。女だとおもっているからか?オレは軽くよけて腕を掴み一本背負をかます
「ぐぁあ!!?な、ごほ!?なんだこの女………」
強面の男はコンクリートに背中を強打。それを見ていた残りの奴らもこっちへ来る。その時だった
「やめなさい!あんた達!!」
綺麗な黒髪に、モデル体型の女。
「「「お嬢!?」」」
「ん、なんだ薫子か」
薫子、七々原薫子は家の隣に住んでいる極道の娘だ。元聖應女学院のエルダー?とかゆうのになってたらしい。薫子とは昔からの友達で、姉ちゃんみたいな存在。今は彼氏がいる
「璃季っ!喧嘩っぱやいのはよしなってなんかいもいったでしょ!」
「先に喧嘩売ってきたのはそっちからだし、オレは正当防衛だろ?」
オレは崩れた服や髪を直す。
「はぁ、鴒さんの気苦労がわかるわ。あんたらもちょっとだらしないでしょ!」
「こ、この女普通じゃないっすよお嬢!」
「璃季は女じゃないって。男よ、男。」
強面の男は数秒くらい真顔になってから。
「「「ええぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」」」
近所の人達も窓から見てくるくらい叫びやがった。オレが男じゃないのが嫌なのか、全く……それから薫子と二人で少しだけ散歩に出ることに、世間話をしたり、人を彼氏と同じで女にしか見えないとか言われ続け、ある学院の前に着く。
「うわぁ、懐かしいなぁ。二年前はここの寮にいたんだよね」
「女ばっかの学院だろう?窮屈で頭が痛くなりそうだわ」
俺は校舎を見ながらそう呟いた、薫子はニヤニヤしながら
「『千早』も通ってたからねぇ、出会いもすごかったしさぁ。あんたも入るんじゃない?」
「やだね、『千早』がどうであれオレはいかん。女みたいだからって入らされるとかごめんだよ」
オレは屋敷へ引き返そうと歩き出すと
「この学院に入ればきっと今の人生変わるかもよ?千早と、その前の先代と同じでさ」
薫子は真面目な顔をして、強い眼差しで答えた。
「………変わらねぇよ、オレはあの人達みたいにはなれないよ」
オレは薫子に軽く手を振り、学院を後にした。
例えあの人達がうまく行っても、オレは無理だ。
だって、女が嫌いなんだから。