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雨音は恋のしずく  作者: ルイ シノダ
9/11

第四章 虹の彼方に (2)

ついに、玲と弥生は体を合わせてしまいます。まるで二人一緒に魔法にかかったように。弥生は、何となくうれしく心が躍る感じをうけます。

でも、玲は、桂とのことを考えると・・

ちょっと罪ですよね。

第四章 虹の彼方に


(2)

ゆっくりと目を開けると彼が目の前にいた。

“うそっ、なんで”自分で全く理解できない状況を見つめていた。自分の左で寝ている男性ひとがいる。万が一と思い、自分の大切なところ手を持っていくと明らかに自分とは違うものが有った。

“どうしよう”冷静になってきた頭の中でヘッドレストにある時計を見ると十二時を過ぎていた。そのまま、ゆっくりと起き上がろうとすると、隣の人が腕を触った。そして首を横に振ると自分を引き寄せた。

 ゆっくりと顔を近づけ唇を合わせると彼の腕の中に戻った。頭の中は何も考えていなかった。ただ、彼の腕の中で抱かれるようにしていると、とても心が穏やかになった。そしてまた、目を閉じた。

 

 朝早く、彼にタクシーで送ってもらった。別れ際にもう一度口づけをした。彼の乗ったタクシーが、見えなくなるまで見送った。

 そっと、飾り門を開けて、玄関のドアに行くと音を立てないように開けた。そして玄関を上がった時、

「今帰ったの」

お母さんの声が聞こえた。“まさか、寝てなかったの”そう思いながら

「ごめんなさい」

お母さんは、起きてこないまま

「謝らなければならないことをしたの、弥生」

なにも言えなかった。ただ、目の前にいないお母さんに頭を下げるとそのまま、二階に上がった。

すぐに着替えると一階のバスルームに行ってシャワーを浴びた。さっきまでの事が蘇る。“どうしよう”あまりにも突然で、あまりにも考えていなかった。

ただ、体を交わした。“どうしてなの”。自分が描いていた、好きな人が現れて、その人に預けるだろうと思っていた自分の大事なものを、まだなにも知らない人に・・。

弥生は理解できない自分の行動に戸惑いながら、頭は、だんだん現実のものに変わっていった。


 玲は、タクシーで弥生を送った後、家に着くと静かに門を開け、玄関ドアまで行った。そして静かに開けながら二階に行こうとすると

「玲、桂ちゃんと一緒だったの」

階段の下からお母さんが声をかけた。

「一緒だったらいいけど、こんな時間になるなら、連絡入れなさい」

息子の顔を見ると明らかに戸惑いの瞳だった。

「桂ちゃんと一緒じゃなかったの」

何も言わない息子にそれ以上問い詰めてもと思うともう一度、自分の寝室に戻った。“お母さん、ごめん”そう思うと着替えて、バスルームに行った。

さっきまで腕の中にいた女性ひとの柔らかさが腕の中にある。“どうしたんだろう”何も頭に浮かばずにシャワーを頭から浴びた。これからのことが見えなかった。ついこの前、桂から預かったものが大きく心にのしかかっていた。


 あかねは、弥生の動きがいつもとほんの少し、気のせいかな程度だが、違って見えた。

“どうしたのかな”と思いながら見ていると

「あかね、どうしたの。さっきから私のことばかり見て。何か付いている」

「ううん、何でもない。そう言えば、今日は、風が弱いわね。いつももっとはっきり吹いているのに」

そう言って、外を見た。弥生も外を見ると確かにいつもとは違った風の感じがした。

花をメイクするテーブルのそばから立つと、表の方に歩いた。そして空を見上げると“えっ”と思った。国立芸術会館の方の遠い空に虹が見える。“なぜ”と思いながら

「あかね、来てみて、虹が見えるよ」

お店の中にいるあかねに声をかけると

「えーっ、こんないい天気に。雨降ってないよ。どこ」

「あそこ、あれ」

「どこ、見えないよ」

「だって、さっきあそこに」

「弥生、大丈夫」

「おかしいな。さっき見えていたのに」

「気のせいよ」

そう言ってあかねがお店の中に入って行った。弥生は、あかねの後ろ姿を見ながらもう一度見ると“あっ”確かにある虹が。“ふふっ”と微笑むと周りの花も微笑んでいるように見えた。

 あかねは、なぜかいつもの弥生と違って見えた。“また、微笑んでいる”自分もつい微笑むと“まあ、いいか”と思って台帳に目を落とした。


「葉月どうした。なにか目がうつろだぞ」

昼食を取りに行った食堂の中で、同僚に言われた玲は、

「そうか」

「そうかじゃないだろう。午前中だって、なんか“ぼーっ”としてたぞ」

心当たりが思い切りある玲は、それには答えずに箸を進めた。

玲は、だんだん冷静になっていく中で、桂のこと、そして澤口弥生のことが頭の中で重なっていた。“桂の心はよく分かっている。でもなぜか、自分の心は明らかに別方法を向いている”昨日の出来事がそれをさらに強くしていた。


 あの後、なにも約束もないままに別れた。あれから二日、だんだん心の中にしっかりと入ってきた。“でも自分から電話できない。掛けてきてほしい”そう思いながら弥生は、心の揺れを抑えようとしていた。

 玲は、スマホに手をかけるといきなり鳴った。“桂”と表示された。“そう言えば今日は木曜日、土曜の約束かな”と思ってディスプレイをスライドさせると

「玲、桂。明日、会えない」

“えっ”と思っていると

「ねえ、だめなの」

「大丈夫だけど」

「じゃあ、明日ね」

そう言って一方的に切れた。いつもの我がままと思うと“まあ、いいか”と思いながらスマホを見た。指が自然に動いた。履歴を見ながらタッチした“澤口弥生”。

少しの呼び出し音の後、

「はい」

「あの」

相手が無言のままにいると

「今度の土曜日会えませんか」

「土曜日は仕事です」

「では、日曜日は」

弥生は、お店が水曜日定休有ることを考えると

「すみません。お店のお休みは水曜日だけなので。他の日は夕方からなら」

そう言った後、一瞬“どきっ”としたが、

「そうですか。では、水曜日にしましょう。でも・・あの、土曜日の夜、だめですか」

少しの無言のあと

「分かりました。どこで」

「ハチ公前交番六時に来られますか」

“六時、少し早いかな、でもあかねに頼むか”そう思うと

「分かりました」

そう言って、スマホの終了ボタンをタップした。弥生は何となく心が温かくなった。そう思うとベッドの横にある小さなテーブルの横にある椅子を立った。


 いつもの場所に玲が座っていると微笑みながら

「玲、待った」

「えっ」

いつもは、“待った”など言うことがない桂の言葉に一瞬だけ驚くと桂が不思議そうな顔をして

「玲、どうしたの」

なにか違う感じに

「いや、行こうか」

そう言って席を立った。通りに出ると桂は、玲の左手を握った。地下鉄の駅の方に向かいなら

「玲、今日はどこ行こうか」

「桂が行きたいところでいいよ」

「ほんと、じゃあ、表参道ヒルズ。ほしいもの有るんだ」

少し、いやな予感を覚えながら

「いいよ」

と言うと桂が玲の顔を見て微笑んだ。


「玲、見てこれ。奇麗でしょう」

目の前のショーウィンドの中に置かれている指輪を見た。奇麗な二つのリングが交差してそのセンターにダイヤが乗っている。プラチナとゴールドを合わせた指輪だ。

玲の左手を握りながら少しだけゆすっている。

「ねっ、奇麗でしょう」

“念を押すように言うということは買ってくれといういつもの我がままだ”と思うと

「確かに素敵だね」

「私に合うと思う」

「桂に合わない指輪なんてないよ」

言ったが最後で、桂は玲の顔を“じっ”と見た。

“えーっ、やっぱり”と思うと玲は、リングのそばの値段を見た。“うっ”と思ったが、我がままな妹だという感覚で仕方なく、

「いいよ」

と言うと

「ふふっ、やっぱり私の未来の旦那様」

そう言って、店員を手招きして

「これ、サイズ合わせてください」

とオーダーした。

玲は、滑りそうになりながら“いつから僕は未来の旦那様になったんだ”と思いながら桂の嬉しそうな顔を見ていると“仕方ないか”とあきらめた。


表参道ヒルズの反対の通りを少しだけ中に入った右手にあるイタリアンレストランでスパゲティを食べながら

「玲、ありがとう嬉しいな。こういうの買って貰えるのって、独身の時だけって聞いたから」

そう言って美味しそうにスパを口に入れた。

「聞いたって、誰から」

「さあ、お友達」

そう言って、今度はペリエの入ったグラスを口元に運んだ。

“誰だ、桂に余計なことを吹き込んだのは”と思いながら自分もグラスワインを口に運ぶとそれを見ていた桂が、

「玲、私も飲みたいな」

「だめ」

まじめな顔して言うと

「やっぱり」

そう言って、少し首をへこますようなしぐさをした。この前は、完全に桂に乗せられた。確かに自分も酔っていたが、あそこまでの行動をそうそう途中では止められないと思うと玲は、桂へのお酒は注意すると決めていた。

 食事が終わり、そのままテーブルで、桂はアルコールなしカクテルを、玲はグラスワインを飲んでいると急に桂がまじめな顔をして

「玲、今日は桂お酒飲んでない。でも誘ってくれてもいいよ」

“もう”と思いながら、玲もまじめな顔をして

「桂、前にも言っただろう。急ぐことはないって。いつも僕は桂のそばにいるし、もう証明もしたでしょう」

桂の瞳を“じっ”と見ると

「じゃあ、会った時は、半分だけ証明して」

椅子を滑りそうになりながら“こんなに可愛い顔をして、全く”と思うと

「桂」

と言って仕方ないという顔をした。桂は本当に可愛かった。普段でも声をかけられる人も多いだろうと思うと少し心配になり

「桂、ところで普段、声とか掛けられないの」

「えっ、ないよ。薫と一緒のアトリエは、まず人は入ってこないし、後は電車だけ。街を歩く時は必ず、玲がそばにいるもの」

「えっ、僕と会う時以外はって、友達と遊びとか行かないの」

「うん」

嬉しそう話す桂を見ながら“えーっ、桂って僕しか知らないの”頭の中が整理できないでいると

「だって、桂、玲と一緒でないといやだもの、他の人と一緒なんて想像もできない」

ほとんど頭痛に近い感覚になった玲は、頭の中で“あきれ”と“そこまで”という思いが交差した。

桂は、自分しか見てなかったんだ。だからいつも自分何だ。これだけ長く、二〇年以上桂のそばにいながら気がつかなかった自分に少し呆れた。

そして桂の別の部分が見えたと思うと、“この前のことは桂にとって僕のお嫁さんになるための通過点だったんだ”頭の中でますます重くなってくる目の前に座る可愛い幼なじみを見ながら玲は、置かれた立場の重さを感じていた。

家の門の前で軽く口づけをすると桂は嬉しそうに中に入って行った。玲は、家に帰りながら“事の重さ”を感じていた。

“妹だと思っていた女の子が、実は自分しか見ていなかった、いや他の人は全く知らなかった。そして自分のお嫁さんになるのが運命のように思っている”あまりの重さに、少し疲れを感じていた。


土曜日は、桂を連れて、ゴルフの練習に出かけた。ポロシャツに短パン姿の桂は、周りの目を引いた。桂は何となくやりにくさを感じて

「玲」

と言って隣の打席で練習している玲を見た。

 玲は声をかけられてスイングを止めると桂が困ったような顔をしている。周りを見ると練習しないで桂に視線を注いでいるのが分かった。玲は少し考えると

「桂、僕の席に座っていなさい」

そう言って、周りの人をにらんだ。

「はーい」

と嬉しそうな声をかけて玲の打席の椅子に座ると周りの人も練習を始めた。

“やっぱり、桂のそばには自分がいないといけないのかな”そんなことを考えながら残りのメニューをこなすと

「桂、帰ろう」

そう言って片づけ始めた。ゴルフ場を出るとまだ、一一時。車に向かいながら

「玲、この後はどうするの」

「桂を家に送ったら、水泳に行く」

「水泳」

「うん、体をしっかりと鍛えておかないと」

「どの位泳ぐの」

「三〇〇〇メートル、一時間くらい」

「じゃあ、待っていてもいい」

「ええーっ、だめだよ。家にいなさい。その格好で待っていると、さっきみたいになるよ」

「でもーっ」

「だめ、桂が気になって泳げない」

「ふふっ、嬉しいな。じゃあ、家で待っていてあげる」

“なにーっ、水泳の後もいっしょのつもり”。今日は、弥生と夜、会うことにしているので

適当に桂と離れた置く必要があった。

「桂、泳いだら、また迎えに行くけど、今日は夕方までだよ。夜は、用事があるんだ」

「えっ」

今日は夜遅くまで玲と一緒のつもりでいたので思い切り不満な顔をすると

「会社の仲間と会うんだ」

心に少しだけしこりを残しながら言うと

「そう、それじゃ、仕方ないね」

つまらなそうな顔をして桂は言うと窓の外を見た。


桂の気持ちを良く理解しながら、それでも弥生に惹かれる玲。さて彼の心がとても揺れます。

次回もお楽しみに。

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