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雨音は恋のしずく  作者: ルイ シノダ
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第四章 虹の彼方に (4)

弥生と偶然に会った日、桂から連絡が有った。いつもと違う感覚に戸惑いながら翌日会うと弥生との事を強く追及される。そしてコーヒーショップを飛び出した桂を追うように玲も外へ出た時、激しく後ろから何かがぶつかり、気を失ってしまった。

第四章 虹の彼方に


(4)

 玲は、スマホの突然のバイブレーションに驚きながらディスプレイを見ると“桂”と表示されていた。

 そのまま、“通話”にタップすると

「玲、明日会いたい」

いつもの言葉と思って

「いいよ」

と言うと、いつもはそのまま簡単に切ってしまう桂がそのままにしていた。少しの沈黙の後、

「桂、どうしたの」

と言うと

「玲、今日、誰と会っていたの」

言葉の意味をすぐに理解した。そして何も言わないままにいるといきなりスマホが切れた。何も考えられないままに、スマホの“通話終了”の表示を見ながら“桂”と心の中でつぶやいた。


いつものアトリエの近くにあるコーヒーショップで待っていると桂が、真剣な顔をして入ってきた。いつもなら明るい笑顔で自分の名前を呼ぶ幼なじみが、少しも微笑まずに来ると自分の前に座った。

普段なら、立ったまま、出ようと目で催促する。何も言わないままに目の前に座る桂の顔を見ていると

「玲、昨日の夜、誰と会っていたの」

なんとも言えない悲しみを堪えた顔で尋ねた。

「桂」

「あの人は誰。玲とは・・」

段々、涙が瞳の淵に溜まってきた。

「花屋の人だよね・・」

店員がコップに入った水をテーブルに置こうとして、二人に近づくのを止めると

「玲、話して」

今まで耳にしたことのない厳しい口調で言うと自分を預けた男性ひとの顔を見た。


 玲は、自分の今ある気持ちと幼なじみの言葉に何も思い浮かばなかった。どの位経ったのか分からない時間が過ぎると桂は何も言わず席を立った。

玲は、自分の何もできない不甲斐なさと割り切れない気持ちを持ちながら、それでも守らなければいけない大切な妹、桂の後を追うとコーヒーショップの外に出て桂んこ後ろ姿を追った時だった。後ろからいきなりのショックにそのまま意識を失った。


「玲、見て綺麗でしょ。この花。あなたの為にお店から持ってきたの」

部屋の中に綺麗な真っ赤なバラの花が大きな花瓶に入れられて置いてあった。目の前に弥生が白いシャツとブルーのデニムをはいて立っている。そのままリビングと続きになっているキッチンに行くと

「今日は、あなたの好きなスパよ」

そう言って、ほほ笑んだ。玲は自分がほほ笑んでいるのが分かった。キッチンに立つ弥生を後ろから腕に包もうとすると、いきなり弥生が自分の腕の中に倒れてきた。大きな胸が腕の中にある。

柔らかい感触に嬉しくなると弥生が振り向いて顔を寄せてきた。唇を合わそうとするといきなり“ふっ”と引き戻された。

世田谷の総合運動場で桂が誰かに襲われている。思い切り走ろうとするが、手が届かない。桂が誰かに連れ去られていく。“かつらー”思い切り怒鳴るといきなり、真っ暗な闇の中から強引に引き戻されるように現実に戻ると、誰かが目の前で寝ていた。

病院のようだった。“だれ”と思いながら顔を見ると弥生がベッドの上で目をつむっていた。みんなが泣いている。“この人たちは誰だろう”そう思って近づくとベッドと急に意識が戻り始めた。誰かが呼んでいる。左後頭部が重く痛みを感じる。

「玲、玲」

その声をはっきりと意識すると目を覚まそうとして体に痛みが走った。“うっ”と思うと腕が動かない。抑えられているようだった。ゆっくりと目を開けると見知った人たちがいた。

「桂、お母さん、お父さんも」

「気がついたようです」

医師の声に

「よかった」

と言ってお母さんが手を自分の頬に持ってきた。

「ここは」

玲の細い声に

「病院です」

「えっ」

「玲、桂ちゃんが救急車を呼んで私たちに連絡をくれたの」

何を言っているか分からないままにいると自分の体が、ひどい状態であることに気付いた。右腕が折れて、左足が吊られている。体中が痛い。

「どうしたんだ。僕」

そばにいる幼なじみの顔を見つめるようにしながら聞くと

「玲が私の後を追ってコーヒーショップを出た時、いきなり路上に上がった大型バイクに飛ばされてバイクの下敷きなった。大変だったのよ。周りの人が寄ってきて“救急車とか、警察とか”言って、あっという間に・・」

目に涙が一杯になると

「玲のばかー。心配したんだから。三日も目を覚まさないから・・。もしこのままだったら・・」

後は、声にならなかった。

「桂」

「玲、三週間はこのままだ。足の骨がつくまで動けない。ちょうどいい。桂さん、玲を見てやってくれるか」

父親の言葉に桂は、涙目のまま、はっきりした顔で頷くと玲の顔を見た。

やがて玲が目を覚まして意識がしっかりしていることを確認すると父親は先に帰り、その後、着替えを取りに行くと言って母親も病室を出た。

桂とベッドに縛りつけの状態に近い玲が残ると

「桂」

とだけ呼んだ。

桂は、“ふふっ”と微笑むと

「玲、これでもうどこにも行けないわよ。おしっこも私が取ってあげる」

「えーっ」

「看護婦さんのほうがいいの」

「いや、でも」

「うそよ。今は、そういう時代じゃないわ。なんとなくごわごわしているでしょ」

言われて気がつくとなんとなく腰のまわりがおむつのようだった。

結局、三週間で退院はしたものの、その後の通院とリハビリで一カ月を必要とした。その間、桂は、ずっと玲に付き添った。

 リハビリもほぼ終わるころ、家まで送ってきた桂をリビングで待たせていると

「玲、私は出かけてきます。桂ちゃん、玲のことよろしく」

今度の一件で、桂は玲の家で家族同様の人となった。母親が出ていくと

「玲、だいぶ治ったね」

「ああ、桂のおかげだよ」

その言葉に桂は“じっ”と顔を見ると

「玲の部屋に行きたい」

と言って勝手に二階に上がっていった。“何となく”と思いながら、まだ完全に治っていない足をゆっくりと動かしながら部屋に入ると

「桂」

まるで“心の準備はできている”という目をしながら玲に寄り添ってきた。

「玲」

そう言うと桂は玲に体を少しだけ預けた。

「玲、お願い」

「でも」

「桂、玲が元気になったら、こうしようと決めていたの。ずっと玲のそばにいたんだから。いいでしょう」

そう言って、玲の首に腕を巻きつけると唇を合わせてきた。マシュマロのように柔らかい唇が触れた。確かに桂は、自分の看護に献身的だった。“仕方ないか”と思うとゆっくりとベッドに桂を誘った。

 白のブラウスのボタンをはずし、キャミソールを腰からあげると素敵なベージュのブラが見えた。桂は眼をつむりながらブラのホックをはずすと、玲の背中に腕をまわした。

 ゆっくりとトップに口を添えるとそれだけで桂は声を漏らした。まるで待っていたかのように。

「スカート」

そう言って、自分でブルーのスカートのホックをはずすと自分でベッドの下に置いた。素敵な淡いベージュのパンティが見えた。

「玲」

もう一度声を出すとシーツに腕を下ろした。ゆっくりと口づけをしながら、桂の大切なところを触ると少し湿っている感じがした。そのままゆっくりと指を上下すると声が漏れた。

布の脇から少しだけ指を入れると十分だった。そのまま桂の大切な所に指を這わせながら触っていると

「玲、お願い」

濡れた声になりながら、お願いするように言うと玲は、ゆっくりとお尻側に手を持って行きながら脱がせた。足を開かせながら少し膝を立たせると玲は唇をそこに持って行った。

 桂は、嬉しかった。“玲と体を合わせている”それだけで嬉しかった。自分の大切な所に玲の唇が入ってくるとたまらなかった。心の中で“玲、もっと”と思いながら彼の頭を触っていると、やがて彼自身が自分に合わせてきた。

 初めての時とは全く違った。体に鋭い感覚が走りながら体を委ねている甘美な刺激に体を任せた。激しく玲が動くと自然と自分の腰が動いた。信じられなかった。やがて

「桂、いい」

「玲、大丈夫」

自分の中で何かが激しくぶつかっている。まるで合わせるように。やがて熱いものが入ってくると玲が思い切り自分の大切な所にピッタリと合わせた。そして最後のそれが出終わると玲は、ゆっくりと自分の体に合わせてきた。

「桂」

「ふふっ。嬉しい」

そう言って、思い切り玲の唇に自分の唇を合わせた。

「玲、怪我治ったら、婚約したい。いいでしょう」

少しの沈黙の後、桂の瞳を見ながら

「桂」

と言うと頷いた。

「婚約しよう」

何となく、入れたままにしているそれが、また元気になるともう一度、さっきより激しく突いた。桂が、激しく眉にしわを寄せながら声をあげている。もう一度思い切り、自分の思いを出すと、今度は桂の横になった。

本当に可愛かった。一緒にしている時の顔がたまらなかった。この時、“澤口弥生”名前は完全に意識の中から消えていた。


 あれからすでに二ヶ月が経っていた。弥生は、あの後から全く連絡が来なくなった人に、始めは、ちょっと寂しさを感じていたが、時が過ぎるとだんだん心の中から消えていった。

 こんなものなのかな。そう思っていた。花をメイクするテーブルにある椅子に座りながら“ふっ”と表を見ると“えっ”明らかに前とは違った雰囲気で歩いている二人がいた。

国立芸術会館から六本木方向に歩いていく。店の中から二人が見えなくなると弥生は、椅子を立った。ゆっくりと店先に出て六本木方向を見るとあの人が、あの時の可愛い女性と手をつないで歩いている。

なんとも言えない気持ちになった。頭の中が“ぼーっ”としていた。体が勝手に歩いていく。そして少し小走りになると二人の前に出た。


玲は、桂と手を握りながら歩いて行くと、いきなり自分たちの前に立ちはだかった人の顔を見て“はっ”とした。“澤口弥生”

その女性は、きつい目で自分を見ていた。何もせずにただ見つめていた。目が心の言葉を言っているようだった。“うそつき”と。

“連絡がなかったのは、この女性と一緒だったからだ”。自分にあんなことを言っておきながら“心があなたを見ているんです”。

玲は、動けなかった。桂は、二人の態度に始め見ていたが、いきなり玲の前に立って、弥生を見ると

「どちら様ですか。私の婚約者に何かご用が」

鋭い視線を弥生に投げた。

「婚約者」

怒りが込み上げてきた。目の前に立つ女性を強い力で横にどかすと右手で思い切り、玲の左の頬を平手で殴った。

「うそつき」

ものすごい目で見ていた。連絡がなかったのは、何かの事情位にしか思っていなかったことが、本当は“妹と言っていた女性と婚約するなんて”

「妹と言っていた人と婚約ですか。最低ですね」

それ以上は言う気にならなかった。思い切り玲にぶつかるようにして花屋のほうに小走りに行った。花屋の前であかねが心配そうな顔を投げかけている。だんだん涙が出そうになってきた。

「弥生、大丈夫」

涙がこぼれそうになっている大切な友達に声をかけると

「あかね、ごめん。少しだけ休ませて」

そう言って、店の奥に入って行った。


玲は、体が動かなかった“どんなに情けない顔をしているのだろう”そう思いながら、桂の顔をみた。桂は、思い切り寂しそうな顔をして玲の顔を見ている。言葉に出さずに“どういうこと”と言っていた。

国立芸術会館で本当は自分も出展する予定だった展示会に、玲の看護の事で間に合わず、同じアトリエの薫の作品を見に来た帰りだった。六本木で食事をするつもりだった。頭の中からは“澤口弥生”の事は薄れていた。それだけに何も考えないで花屋の前を通った。それがまさかこんなことになるとは。想像の外にあった出来事に玲の心は対応できないでいた。桂が心配そうな顔で見ている。

「玲、とにかく帰ろう」

理由は分からないが、あの怪我の後、両親の喜びの元、正式に婚約したことで、玲は自分と思っている。すでに花屋の女性ひとの事は、関係ないと思って頂けにショックな出来事だったが、今は、この言葉しかかけられなかった。

 “もう、玲は誰も見ない。自分だけの人”。桂は、今本当にそばで元気ない顔をしている男性ひとを見ながら“守るんだ”という気持ちになっていた。

そして、玲は、桂の言葉に頷くとそのまま二人で信号を右に曲がり六本木方向に歩いた。


弥生は、あかねに言って早めに上がるとまっすぐ家に帰った。玄関で母親の声に答えながらそのまま二階に上がるとソファに座りながら“じっ”と鏡を見た。

“弥生、もう終わったんだ。なにも考えない”

“弥生このままでいいの。あんなうそつきな男。遊ばれたのよ”

“仕方ないじゃない。自分の判断でしたんでしょ”

“でもだましたじゃない。妹だって。ボディガードなだけだなんて”

“でも”

“でも何よ。このままでいいの弥生”

心の中の葛藤に揺れながら疲れたようにソファに横になった。

いきなり起きるとスマホを手に取った。そして“会ってください”と入力すると宛先に“葉月玲”を履歴から選択した。

 送信ボタンを押そうとして・・時間が経った。押せなかった。“もう、終わったんだ”そう思うとそのまま、スマホを机の上に置いた。


 次の日、“あかねの花屋”に行くといつものように店先に鉢を並べ始めた。奥の保管庫から鉢を持ってきて台に並べる。弥生が鉢を置いて腰をまっすぐにした。

 あかねは、ショーウィンドウの中から切り花を出そうとした時だった、“ふと”店先に立っている弥生のそばに何かが現れた。そして“ふっ”と伸びあがると弥生の体の周りから目に見えない何かが取られた。覆っているものを取るように弥生の上のほうに取るとその何かも昇るように消えた。

「弥生」

「えっ」

「いま・・」

「えっ、なあに、あかね」

弥生は、とてもすっきりした顔であかねを見て微笑んだ。そして空を見上げると“えっ”あの時の何かが微笑んだような気がした。


事故がきっかけで桂との仲を深めた玲は、ついに桂と婚約をする。弥生は、玲から連絡がない事を気に留めながらも特に意識はしていなかった。そこに二人が、現れました。そこで取った弥生の行動は、女性として当然の行動でしょう。

でも、移り気で奔放な恋の女神アフロディーテが、最後に微笑んだのは、玲と桂でした。ふふっ、これで良かったのかも。

これでこの物語も終わりです。「雨音は恋のしずく」いかがでしたでしょうか。


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