吸血鬼の食事みたいなもの
特に何もない部屋。
部屋には勉強机と本棚が二つほどとクローゼット、それにベッドが一つ置かれているだけで他は何もない。
勉強机では高校生用の教材が紙袋に入ったまま埃をかぶっていた。
その横には黒色のノートパソコンが置かれている。
片方の本棚には小説、所謂ラノベと漫画がギッシリと詰められていて片方の本棚には小学生の頃、中学生の頃に使っていたであろう教科書が適当に詰め込まれていた。クローゼットには黒のジャージと二着のシャツがハンガーにかかっていた。
そしてベッドの上には白いTシャツにジャージのズボンをはいた男がベッドから腕をダラリと垂らしていた。
まぁそれが俺だったりする。
暇なのでモノローグ的なものを語ってみたもののよけい萎えるだけだった。
何もする気になれない。
今日は別に休日ではないので学校があるのだが生憎俺は引きこもりなので学校などいかない。
俺の名前は党条 終夜。
夜が明けそうな時に生まれたから終わる夜で終夜。
なんのひねりもない。
そんは名前をつけてくれた両親の片割れの母親は俺を生んで数ヶ月後に死んでしまったらしい。
現在は俺が四歳の時に再婚した優奈さんが俺の母さんだ。
父さんと母さんは再婚する前にヤってたみたいで結婚式当日には赤ちゃんもいた。
俺の妹だ。
記憶が曖昧なのでもしかしたら結婚式当日にはいなかったかもしれないけどまぁその前後のどちらかにはいたはずだ。
まぁ半分しか血は繋がってないが立派な妹だと俺は誇っている。
しかもその妹、朝夏は現在、アイドル活動なんかをしている。
中学一年生で金を稼いでるなんて少し羨ましい。
結構売れていて毎日テレビで見るほどだ。
多分俺が引きこもりをしていなかったらきっと妹関連でちやほやされていただろう。
されたくはないが
父さんは銀行で働いていてまぁまぁ偉いさんらしい。
母さんも銀行で働いていて父さんの部下らしい。
要するに党条家唯一の汚点が俺なわけである。
父さんも母さんも妹も優しいので俺をせめることはしない。
ある程度は学校いったら?など声をかけてくれる程度だ。
本当良い家族だ。
俺が俺みたいなやつの家族だったら多分怒鳴って最終的には無視だろう。
俺は最低か。
などと自己嫌悪していると家のチャイムが鳴った。
いったい誰だろう?
父さんと母さんは結構遅くまで仕事をしているし妹も今日は仕事で遅くなるはずだ。
となると新聞の勧誘かいたずらか……まぁどれにしろ俺はこの部屋からは出ないぞ、うん。
しばらくするとガチャと鍵が開く音がした。
さらにドアが開く音が家に響いた。
誰だろう。
まさか泥棒………?
しかし俺の家には金目のものなんて特には……妹関係か?
こう、例えば何かしらの方法で朝夏の家であるここを突き止めて侵入して朝夏の部屋へいき…その、なんだ、下着だとかをあさるため……とか。
違うぞ、別に朝夏の部屋を荒らされたら可哀想だとか朝夏がそれをネタに脅されたらどうしようだとか朝夏がトラウマになったらどうしようとかそんなんじゃないからな、えと、そう、こないだ俺が貸した漫画が盗まれたら嫌なだけだ、別に朝夏の為ではない、俺のためだ。
取り合えず武器として教科書が適当に詰め込まれている本棚から殺傷力の強そうな漢字辞典を手に取り日焼け一つない手で自室のドアを開けた。
軽い貧血で倒れそうになったがなんとか壁にもたれ耐える。
朝夏の部屋は隣なのだが果てしなく遠く感じる。
普段、箸より重いものを持たないので(持ったとしてもネットで買った新刊ぐらいだ)漢字辞典の重みで足取りがフラフラになる。
なんか俺…人類的に退化してないか?
そんな疑問を抱きつつ、ついに朝夏の部屋の前に到着した。
そしてドアを開けようとしたのだが何故か緊張して躊躇ってしまう。
おい、俺、何緊張してるんだよ、たかが妹の部屋だぞ?
よし、入るぞ、俺は妹の部屋に入るぞ!
と意気込んだその瞬間肩を叩かれた。
「ひゃ!?」
「うぇ!?」
ビックリしすぎて変な声が出てしまった。
というより何か聞いたことのある声が聞こえた気がする。
「えっと…お兄ちゃん?漢字辞典なんて持って何してるの?」
朝夏だった。
緊張の糸が切れてその場にヘナヘナと座り込んでしまった。
「え!お兄ちゃん!?大丈夫!?」
「だ、大丈夫」
朝夏の手を借り何とか立ち上がる。
「何でここにいるんだよ……」
「えっとね、今日は早めに収録が終わってその後の写真撮影も早く終わっちゃったから帰ってきたんだけど…お兄ちゃんは何してるの?」
漢字辞典を武器に妹の部屋に忍び込んだかもしれない泥棒さんを討伐に
言えねぇ…恥ずかしすぎる
言い訳を考えなくては………ピコンッ
「ちょっとトイレに」
「?トイレって一階だよ?しかも階段は向こう側だよ?」
オワタ\(^o^)/
「お兄ちゃん大丈夫?顔色悪いよ?ほら、部屋に戻ろう?」
「……はい」
朝夏に手を引かれ自室に戻る俺。
あ、漢字辞典は朝夏が持ってくれている。
軟弱すぎるだろ俺ェ
自室に戻り、ベッドに腰かける。
「ダメだよお兄ちゃん、ちゃんと寝なきゃ」
朝夏が俺を押し倒し布団を俺にかけ、自分の前髪をかきあげると額を俺の額にくっつけた。
いや、何このシチュエーション。
「熱は………ないみたいだね」
「よかった~」と言うと朝夏は部屋を出ていった。
……普通逆だと思うのだが?
風邪ひいた妹を介護する兄、熱があるか確かめるために額と額をごっつんこ、それで妹は顔真っ赤にする。
的なシチュエーションだよな?
その前にそもそも風邪ひいてないし、貧血だし。
まぁ…良いか…
ベッドから起き上がり本棚から漫画を取りだし読み始める。
調度四分の一を読み終えた時ふいにドアが開けられた。
「あ!お兄ちゃん!寝てなきゃダメでしょ!」
「だ、大丈夫だって」
「それは自分の顔を見てから言いなさい!」
朝夏はどこからともなく鏡を取りだし俺に向けた。
そこに写ったのは顔が青白、というかアルビノみたいになった俺が写っていた。
「ほら、早く吸って」
朝夏はおもむろに部屋着である上の服を脱ぐと俺の上に座った。
なんというか…水色の所謂スポーツブラと恥ずかしさからなのか桜色になった肌に流れる汗が妙にコラボして……こう…エロかった。
そして顔を俺の方に向けて抱きついた。
「は、恥ずかしいから早くしてね…?」
「あ、あぁ」
俺は朝夏の首筋に犬歯で噛みついた。
床に投げ出された鏡には目が赤く光った俺の姿が写っていた。




