Depend On The Dependence
好きなわけじゃないんだ。
俺のタイプでもなかったし。
ヲタクだし。
真面目だし。
ただただ、彼女の優しさを利用していただけなんだ。
好きなわけ、ないんだ。
眠れない夜、俺は最終手段として、彼女がよく頭を撫でてくれるのを思い出す。
何か大事な物を触るように、そして十二分に長く撫でてくれるあの感じは、心地のいいものだった。
あれって…なんて名前のサービスだったの?
あの人がこの塾に来る度に、俺は心躍ってしまう。
金曜日のセンター試験対策講座の終了後、彼女は絶対に勉強しに来るから。
俺も彼女も個別ではないんだけど、たまたま数学を教えてくれる先生が同じで、俺の講義終了後に勤務外時間なのに勉強を教えてくれていたこの自習室で、俺らは初めて知り合った。
見た目は成人してるかどうかかなーってくらいで。服装もオシャレなんだけど、カジュアルというよりはフォーマルで、第一印象はここの先生だと思うぐらいのセンスだった。セミロングで茶色く染めているストレートのサラサラヘアだった。
大学生なら普通な感じ?
数学が得意らしくて、先生よりも分かりやすく教えてくれて、金曜日はいつもここにいるから――って言われて。
そっからずっと教えてもらっていた。
彼女なんていらない。ただ誰かに依存していれば、傷付つきもしないし何より相手を傷つけない、そう思ってた。
信用しちゃいけない。それがどこにも行かない不動なものであるっていう信頼は置いても。好きな人に嫌われるより、依存してる人に理解されないことの方がきっと傷つく。本気で信用しちゃいけない。
気付いていなかった。知らぬ内に、いつの間にか信用していたこと。依存って称して、本当は好きになっていたこと。
今更言えるわけないんだ。
自習室の隅のお気に入りの場所には彼女が座っていた。
部屋の前の窓越しに観察しながら、自販機でコーラを二缶買う。
それを持って部屋へ入る。
彼女がドアの音で振り向いた。
「アヤねぇ、合格おめでとう」
笑顔で、コーラを一本渡す。
本当は心底、彼女の2回目の浪人を祈っていた。
「ありがと。でも、もうシュウの勉強見れないね…」
ううん、もう会えないの間違いでしょ。
願っていたのは…彼女だけじゃなくて自分の浪人も。
俯いていると、ポスっと頭に手が乗った。すぐにふわっと浮かんで、上辺の方を優しく撫で始めた。
あの時と同じだ。
悲しくなるから、しないでほしいのに。
ずっと一緒にいたいのに。
明日はどんな日が待ってるんだろう。
容易に、落ち込む自分が想像できる。
自分を悩ませる奴は、危険だ。
離れるべきなんだ。
「シュウ、私ね。待ってるから。」
そっと首をあげると、彼女は撫でている手を膝に戻して、俺をじっと見た。
俺の笑顔が凍る。
「待ってるから」
彼女は、遠い目で俺を見つめている。
待ってる。その言葉の意味が分からない。
分からない。
違う道へ進んでも、違う場所へ離れても。
この気持ちはいつか消えるんだろう。…それがいい。寂しくない。
きっとまた、別の誰かに。
今更言えるわけないんだ。
待ってるから。
キミが素直になれる日を。