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―序―

 ――序――


 夢というものはいつでも気楽なものだったはずだ。

 恐ろしい夢にうなされようと、理想的な情景を見ようと、意味不明な物語が展開されようと、それは人間の脳が情報を整理するために行う記憶処理の一つなのである。現実には何一つ影響しない。だから気楽。

 そのはずだったのに……。

「今日はこんなもんかな」

 溜め息をつき、両手を叩き合わせるようにして掌の汗や汚れを払う。

 足元には様々な破片が転がっている。鉄屑や、ガラス、刃物の一片や木材やひしゃげた鉄パイプ。それに加えて、妙な異臭を放つ肉片や得体の知れない物体。

 そのどれもが原型を留めておらず、広範囲に渡って周囲にぶちまけられている。

「……はぁ、明日は学校だってのに」

 思わず愚痴が零れた。

 見上げれば、そこにあるのは見た事もない空。いや、既に何度か見ているが、慣れない空。

 こげ茶色をした、見るからに不健康な色合いの雲がまるで台風でも来ているかのように上空で渦を巻いているのに、地上には風はない。それどころか、地面というものは存在していない。確かに足場はあるが、視認し辛いのだ。まるで綺麗に磨かれたガラスの上に立っているようだ。

 転がっているものの一方は、今までは怪物だったものだ。それと一緒に周囲に転がっているもう一方のグループは明らかにこの場所には似つかわしくないものだ。それもそのはず、それは怪物を打ち倒すために生み出され、使い捨てたものなのだから。

 とりあえず目に見える場所にいた化け物は全て葬った。

 そうして、一息ついているのだ。

「……こっちも、終わった……」

 背後からかけられた声に振り返る。

 そこには一人の少女がいた。セミロングの黒髪に、華奢に見える身体つきの少女。

「あいよ。じゃあ、少し休もうか」

 言うと、少女は頷き、大きな角材の上に腰を下ろした。

 その傍まで行き、足元にあった背もたれの取れたパイプ椅子を拾い上げて埃を払い、腰を下ろす。

「そろそろ覚めるかな……」

 小さく呟く。

 ここは夢の中だ。

 とはいえ、現実と全く関わりがないわけではない。その証拠の一つは目の前の少女だ。彼女は、現実の世界に存在する人間であり、この夢の中の空間に召喚されている。自分と同じく。

 それだけではない。この、現実とは異なった世界での感覚は現実のそれと共有されている。この場で受けたダメージは規模は減るものの、現実にも受ける事となるのだ。

 つまり、この世界で死ねば現実にも死ぬ。

 傷さえ受けなければ、疲労は心労にのみ変換されるらしい。大して変化はないわけだが。

 結局のところ、心と身体は密接に結びついている。一方に何らかの影響が出れば、もう一方もつられて影響が現れるのだ。病は気から、というのはそのいい例だろう。

 心労でも身体を動かすのは億劫になるのだから。

「はぁ、これで成績も急降下だな……」

 少女の反応を得ようと呟くが、それに対するリアクションはなし。

「……」

 横目で少女に視線を向けていると、彼女がそれに気付いて不思議そうに顔を見返してくる。

 それから目を逸らし、溜め息を一つついた。

「あの野郎、俺らに何をして欲しいんだよ……?」

 これは正直な思いだ。

 ここに二人が召喚されたのには、理由がある。いや、理由なんてないのかもしれない。しかし、同じ一つの存在によってここに呼び出されるようになったのは確かだ。

 それは、もう一月ほど前に遡る。

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