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辞令

「ユラ、あなた先ほどは魔術をつかったの?」


ヒナリアは先ほどの出来事に興奮気味の友人ミレイと別れ、教師の部屋に向かう。ミレイだけでなく、先ほどユラの行為を目撃した者たちで物議をかもしていたラウンジを早く去りたかった。現在、学校の廊下を二人は手をつないで、周りから見れば年の離れた兄妹のようだった。


「まじゅつ?わかんない」


ヒナリアと手をつないで歩いているユラは本当に何を言っているのか分らない顔だった。


「わたくしの方の魔力には変化ありませんし、ユラにも今はほとんど魔力はないはずですけど。」


使い魔と主人の特性に魔術を行使する根源となる魔力の共有という事がある。腕の立つ魔術師ほど内に宿る魔力の総量は多い。主人であるヒナリアには使い魔の状態が大まかに把握できる。つまり魔力総量の変動もぼんやりとではあるが、感知できる道理である。それでも先ほど起きた出来事の詳細を知っているわけではなかった。


「あなたがわたくしの前に出た時は心臓が止まるかと思ったわ。」


実際止める暇もなかった事もある。



「…ヒナまもる。」


ユラはまだ舌っ足らずな調子で言った。この言葉はすでに聞いていたヒナリアだったが今、自分の手を握って歩いている少年にはとても想像が及ばない行為だった。


「相手は上級魔術の使い手だったのよ。怖くはなかったの?」


「よくわかんない。」


使い魔には主人を守るという本能があるということは誰でも知っている。それは人型であるユラも例外ではないのだろうか、とヒナリアは推測する。


「わたくしも今までいろんな魔術をみましたけどあんな感じに魔術そのものが消えるなんて初めてだわ。」


魔術とは基本的に無から有を生み出すもの。数ある防御魔術も大抵は軌道をずらすか跳ね返すものがほとんどだった。ユラが先ほどした(と思われる)ものはどれにも当てはまらなかった。


「おや、ミス・ミクシア。来ましたね。」


いつの間にか、教師、ケント・バルテールの部屋の前まで来ていた。彼も作業から帰ってきたのか、目の高さほどの書類を抱えていた。よく重くて倒れないものだ。


「申し訳ない。いま手がふさがっていてね。どうぞ、入って。」


彼は手を使わずにドアを開ける。魔術師ならだれでもできるような事である。

バルテールは膨大な書類を部屋の隅に置くと散らかっている机の上から一枚の紙を持ってくる。


「ええと、君の使い魔についてだが、幼年部のAクラスへ配属されるようにとの指示だ。」


そう言って彼は辞令書のような体裁の紙をヒナリアに見せる。そこには彼の言うとおりユラを幼年部、Aクラスへ所属させるという指示が書かれていた。


「あの、本当にユラを幼年部に入れなくてはいけませんか?」


先ほどユラには言ったが、ヒナリア自身も未だ不安な要素が多かった。


「こうして正式に指示が下ったのだ。おとなしく従った方がいい。」


「ですが、ユラとはまだ使い魔契約をかわして日が浅いのです。主人としては使い魔の事をもっと知らないと。」


「まあそう言ってくれるな。ただでさえ君の成績はぎりぎりの綱渡りなのだ。使い魔と契約した事でさえ、あまり好意的にとらえている教師はいない。とにかくあまりイレギュラな事はしない方がいいという意味でおとなしく従った方がいいといったのだ。」


「使い魔と契約する事は魔術師としては褒められることでしょう。」


「それが、実技成績最下層の君だったら誰もが疑いたくもなる。なにか裏があるのではないかとね。」


「まあ、先生がそんなひどい人だったとは思いませんでしたわ。」


「私がそうは言っていない。それに君は見た目、素行は優等生だし、座学の成績もいい。だがどうしてもこの学校は実技にウエイトがおかれるからな。」


バルテールはヒナリアの素行の良さを「見た目」だとしっている数少ない教師である。先ほどからの教師としてはきわどい言葉もヒナリアを問題児と認識している彼なりの配慮だった。


「シュテルクでは高年部に卒業判定が行われる。それはマギアゲームをはじめとする魔術実施演習での成績と普段の授業成績。君が卒業判定をクリアするにはどうしても今の成績にプラスαが必要になる。その意味でも使い魔の能力向上はいいことだと思うが。」


「それは…」


「幼年部のAクラスには君と同様に人型の使い魔も所属している。っとまあ今さら言うまでもないな。人型の使い魔という稀なケースが近くに既存したのは君にとって僥倖といえる。彼女から学ぶこともきっと多いだろう。」


「いえ、それどころかユラはまだ魔術以外にも知らないことばかりなのです。とてもわたくしから離れて生活できるとは―」


「まあ心配は最もだが、それを学ぶための学校でもあるのだ。君の魔術師としての成長も、彼の使い魔としての成長もな。」



バルテールは話が終わったとばかりに机の書類に目を落とした。



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