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少年使い魔

「いいですか。ユラ。あなたはわたくしの使い魔なのです。使い魔には常に主人の傍にいて周りの危険から守るという義務があります。ですから例え怖くても一人で逃げたしたりしてはいけませんよ。わかりましたか。」


「う、うん。」


「うん、ではないでしょう。なんて言うんでしたっけ。」


「えっと、はい。マスター。」


少年は少しおびえながら目の前の女性の指示に従う。


「よろしい。では行きますよ。」


そういって女性はドアを開いて部屋へと入っていく。少年は彼女に続いて中に入るが、その中には段になった机についた人間が一斉にこちらを見ていた。たまらず少年は直ぐに女性の背中に隠れる。その瞬間部屋の中を甲高い声が鳴り響いた。


「きゃー!ヒナリア。それが例の使い魔なの?幼年部の子を誘拐してきたわけじゃないわよね。」興奮気味に女生徒がヒナリアと呼ばれた女性に詰め寄ってくる。


「ご安心ください。この子はわたくしの正式な使い魔ですわ。無事に契約も交わしました。」


女性―ヒナリア・フォン・ミクシアは落ち着いた姿勢を崩さずに答えた。


彼女たちが驚いているのも無理はない。使い魔と主人としての主従を結ぶ契約を交わしたとしてもそれが人型であることはごく稀である。大抵が、精霊や精獣といったものと契約を交わす。そもそも高等部で使い魔を使役している魔術師自体、ほんのわずかしかいないのだった。


「いいなーいいなー。こんなちっちゃくて可愛い使い魔私もほし~」


女生徒たちは興奮気味にヒナリアの背中にしがみついている使い魔である少年に目を向けていた。怖がるその仕草が火に油を注ぐ結果になっているのである。


「ほら、ユラ。ちゃんとみなさんに挨拶なさい。」


ヒナリアは少年―ユラを前に促した。


「あ、あの、ユラ。」ユラは怖々と声を出す。


「ユラです。でしょ?御免なさいね。この子まだ右も左もわからない状態で。」


「なにもわからない少年にヒナはこれから色々と教え込んでしまうのね。」


冗談めかして女生徒が言う。


「もう。あまりからかわないでください。」


ヒナリアは上品な調子を崩さずに答える。


「全く、よりにもよって使い魔がそんな子供だなんて、魔術師としての底が知れますわね。」


鋭い声が会話に介入した。


「エザリア様…」ヒナリアを囲んでいた一人が周波数を抑えて呟いた。


「これは、エザリア様。騒がしくして申し訳ございません。」


ヒナリアは特に意に介した様子もなく答えた。


「ふん、みなさんも使い魔と契約したくらいで騒ぎ立てるのはおやめなさい。」


辛辣な言葉に反発するものはいない。彼女、エザリア・ド・マリアがこのクラスだけに限らず、ここシュテルク魔術養成学校内でも屈指の上流家庭の生まれである事は周知の事実であった。よって誰も彼女に反抗しない。


「そのとおりですわね。いくら『ウィザード』への第一格魔術師評価規定に「使い魔を使役すること」とあるとは言え、別段騒ぐ事ではありませんものね。」


皆が口を閉ざした中、ヒナリアだけが相変わらずの流暢さを保った言葉をエザリアに投げかけた。その言葉にエザリアはあからさまに不快さを表わす。


「ヒナリアさん。あまり調子に乗らない事ね。回復術しかつかえないあなたがそんな見るからに低級な使い魔を使役した処で周りの評価が変わるとは思えませんね。」


「あら、見た目で低級だなどと決めつけるなど、聡明なエザリア様らしくありませんね。なにか悔しいことでもあったのですか。」


エザリアの言葉にひるむことなく、ヒナリアは挑戦的にエザリアに迫った。使い魔のユラは依然とヒナリアの後ろにひっついていた。


「べ、別に悔しい事なんてありませんわ。大体あなた、いつもわたくしに対するその失礼な態度をおやめなさい。マリア家を敵に回すつもりですか?平凡な庶民の貴方が。」


「滅相もありません。それに高貴な身分であるエザリア様が些事を訊き流せないような矮小な器でないこともちゃんと存じておりますわ。」


ヒナリアの笑みに黒いものが混じっている事は既に皆が気づいていた。「エザリア様と言いあいができるのはヒナリアだけよね。」と小声でつぶやく声が聞こえる。


「あ、あなたね―」


「こら、いつまで騒いでいるんだ。もう授業始めるぞ。」


この流れを止めたのは教室に入ってきた教師だった。それを見た生徒は皆各々の席へと戻っていく。エザリアもヒナリアに一瞥を流しながら席へと戻った。

ヒナリアも後ろの使い魔を連れながら席につこうとした処を止められる。


「ミス・ミクシア。使い魔と契約したという報告は受けているが、一緒に授業を受けるつもりか?」


教師の視線に使い魔ユラはヒナリアの後ろへ完全に隠れてしまう。


「ええ、いけませんか。」


「人型の使い魔は一般的にも珍しい存在ゆえ、校則での規定も曖昧になってはいるが、幸い本校には先例がいる。それに倣えば、君の使い魔は幼年部への転入が妥当だろう。」


「ちょっとお待ちください。この使い魔をマリーエンジェルと同列に並べるのはどうかと思いますわ。」


反応したのはエザリアだった。あわてて立ち上がり声を上げる。


「座りなさい。ミスマリア。兎に角、使い魔は幼年部へ転入してもらいます。魔術師としての教養は使い魔の能力も含有しているのだ。手続きがあるゆえ本日は特別に同伴を許可しよう。フリータイムに教務室へ来なさい。いいですね。」


「わかりましたわ。」


ヒナリアはうなずくしかなかった。



「…。」


その間も使い魔ユラはおびえたようにヒナリアの背中に隠れていた。



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