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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

8月27日18.36分 御臨終です

作者: 案内人
掲載日:2026/07/20

止めなくては……


この「音」を消し去らなくては……


誰だ…?誰なんだ…?


この音を奏でる悪魔は…


俺を苦しめる死神は…


一体何なんだよ…この「音」は…


「ある物」に手を伸ばす


この「音」を確実に消せる道具に


こんなものに 縋るとはな



――――――――――――――――――――――――



「最近どうよ?調子は」


「へっ まぁぼちぼち…ってとこだな」


「この事件 かなり長引きそうだな」


「この事件も だろ?」


やれやれと首を振りながら 俺、霧島黎人はパソコンを開く


「情報確認か 真面目ちゃんだな」


当たり前だろ これでも刑事だ 「書類逃しの狭間敬斗」とは違うんだよ


口には出さない反論を並べながら 目を通す



月の丘市 8月6日

4階建てのアパートにて事件発生 当日は雨

ガイシャは住人30代の男性 真鍋慎一 サラリーマン

第一発見者は隣人 事件翌日訪ね血溜まりを発見 事件発覚

凶器は落ちていた金槌

ドアに本人以外の指紋発見 解析中

発生時刻は恐らく深夜1時辺り

遺体は「未発見」


今わかってんのはこんぐらいか


「明日 アパートの住人に聞き込み行って来る」


「ははっ 了解」


――――――――――――――――――――――――



「…此方警察署の方から参りました」


当惑と微かな怯えが混ざった視線を向ける住人に警察手帳を見せ 名乗る


「先日この辺りで起きた事件について何かご存じないかと」


冷静に しかし腹に力を込めて言う


「…この前の事件って…あの…」


「ええ……殺人事件です」


一段 声を潜める


他の住人も知っているとはいえ 大っぴらに話して良い事ではない


誰が犯人かもわからないのだから


「あ…ああ…あ…」


「落ち着いて下さい」


…仕方無いだろう


つい先日まで普通に話していた隣人が 今となっては物言わぬ人なのだから


「あの日は……俺 帰り遅くて… 12時ぐらいだった筈…」


「続けてください」


「そしたらまだ あの人の部屋も電気付いてて… なにやら話し声が聞こえたんですよ」


「…その内容等 分かる範囲でお教え頂けますか?」


男は首を横に振る


「いえ…そこまでは… ただ 揉めてる感じはありませんでした」


「そうですか…その後は?」


「普通に部屋に帰って寝ました でも……次の日…出てこなくて……鍵も開いたまま…」


「……見つけてしまったと」


男の声が震える 焦点が定まらなくなる


「俺が…俺があの夜行ってれば……俺のせいで…」


「辛いことを思い出させてしまいましたね」


「も…もし犯人が分かるなら…俺 なんでもします!…だから…だから…」


男が肩を掴み 懇願してくる


言われなくとも…


「ええ 確実に 逮捕します」


それが 刑事の仕事だろう


犯人の目星が付いた


後は遺体さえ上がれば…


――――――――――――――――――――――――


「…以上で今回の捜査会議を終了する」


重々しい空気が立ち込める部屋から退出する


外に出ると 幾分空気が軽くなったように感じる


更に軽そうな奴が来たな


「よっ 真面目ちゃん お手柄だったな」


「今回の手柄はこのまま頂く…とか言ってる場合じゃねぇな 敬斗さんよ」


「…遺体…まだ上がってなかったな」


敬斗はやれやれと手を広げる


「全く 遺体を隠すのは珍しい事じゃないが余りにも…」


「山にでも埋められたか?」


「んなわけ 第一雨だぞ 出てきてるはずだ」


そもそも月の丘市は山は無いとは言わないがそこまで深いわけではなく


「んじゃ海!」


「あったら少しは夏の楽しみが増えるんだがな」


海無しでもある


「取り敢えず 指紋が上がるの待ちだな」


どうやら裏の奴らとも関わりがあったらしく逮捕歴がある奴の指紋も照合してるらしい


ふぅ…クソ… 今回も長丁場だな


「この事件終わったらさ 飯行こうぜ」


「はっ そいつは良いな 何処にだ?」


「最近出来た洋食堂 ハンバーグが絶品らしいぜ」


その情報収集能力を捜査に活かしてくれないか?


のほほんと笑う同僚を見ながらふとそう考えるのだった


――――――――――――――――――――――――


「指紋解析が完了」


はぁ…やっとか


「ここ数日 ガイシャと関わりがある奴片っ端から指紋取ってたからな で?誰なんだ?」


書類読んどけよ阿呆か


「はぁ 武藤英司42歳男性 裏稼業の奴だ 20年前に逮捕されて今年出所してる」


「んでその後は」


「裁判所から取れ次第家宅捜索だ 遺体も見つかるだろ」


これにて一件落着だな


だよな?


――――――――――――――――――――――――


「此方警察署の方から参りました」


インターホンを鳴らすと中から男が出てくる


体格はかなり良く 腕には刺青を消した跡が微かに残っている


「なんですか?刑事さんか え?」


「少し家の中を見せてくれますか?」


「……令状は?」


「御座います」


少し躊躇うような素振りを見せた後 ドアを開き 中に入れる


多くの警察官が家の中を隅から隅まで捜索し始める


これだけの人数で虱潰しに探せば見つかるだろう


「さて 武藤英司さん お話を伺えますか?」


「…いいでしょう」



「紅茶です」


「ありがとうございます 頂きます」


まさか毒が盛られているわけもあるまい


カップに指を掛け 持ち上げる


熱ッ 良く持てるな?


紅茶を口に含む目の前の男を見据える


「…単刀直入に聞きます 8月6日 何をしていましたか?」


眉がピクリと動いた気がした


「…特には 家に居たからな」


「証明できる人は居ますか?」


男は手の火傷を擦りながら訝しむ


「それは私にアリバイを聞いているのかね?」


引き攣った笑みを返す


動揺は表には出さない


「いえいえ 今は様々な情報がいるのでね」


「成程……特にいないな」


アリバイ無しか


この時点で彼は「犯行が可能な人物」


だが逆に言えばまだ黒ではない


やはり遺体を発見しなくては……


「後は質問があるかね?」


「では… 真鍋慎一という男をご存じでしょうか?」


その言葉に 男の顔が動く


微かに ほんの微かに歪んで見えた


「…彼とは旧知の仲でね 良く話したものだ 彼がどうかしたのかな?」


「……亡くなりました…」


男は机を叩く


「何だと!? 亡くなっ…た…?」


「残念ながら…」


「…誰だ? 誰が彼奴を…?」


「まだ はっきりとは分かっていません」


今から分かるさ


「どうして…どうして…だ…」


遺体さえ見つかれば立証出来る


「彼は……恨みを買うような男じゃ…」


その化けの皮 剥いでやるよ


「家宅捜索…終了します…」


待っていた!これで遺体は…


「特に怪しいものは…見つかりませんでした…」


嘘だろ……


目の前の男の顔が 勝ち誇っているように見えた


――――――――――――――――――――――――


「……どうなってやがる」


遺体が上がらない…


やはり隠した?どうにかして処分した?そもそも奴は犯人なのか?


クソっ頭が回らねぇ…


「おいおい落ち着けよ 余り自分を追い詰めるもんじゃないぞ」


「落ち着いてる場合か!?彼奴が犯人なのは確実なんだぞ!」


「俺にだって分かるさ これでも3桁を超える犯罪者を見てきてんだ でも…」


力なく首を振る


「仕方ないじゃないか 証拠が無い やっぱ地道な初期捜査からやり直しだな…」


空気を変えようと思ったのか 声色が明るくなる


「まぁ 珈琲でも飲めよ 今日は長くなるぜ?」


…何も飲まないよりはマシだろう


「ありがとな って熱ッ!」


「おっと失礼 悪いな」


こんな事最近もあった気が…


ん?


熱湯…火傷…まさか……


「そういう事か!」


「ど…どうした?」


「行くぞ!」


当惑の表情を浮かべる狭間に告げる


「この事件を解決にだよ!」


――――――――――――――――――――――――


「夜分遅くに失礼します」


「…何か用かな?」


名前を告げると男、武藤英司の顔に警戒の色が浮かぶ


「あの時の刑事さんか……犯人が見つかったのかね?」


「いえ ですが確認したいことがありまして」


「明日も仕事が忙しいんだ」


「特に後ろめたいことが無ければ ご協力頂けるかと」


男は苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべる


「………座りなさい」



「それで何だね?明日も忙しいのだが……」


「料理人は大変ですね」


男の顔が固まる


「今……なんと?」


「大変ですね…「料理人」さんは」


今が勝機と見て、続ける


「先日頂いた紅茶 かなり熱かったですよね 熱いものも触れてしまうのは料理人に良く見られる癖、職業病」


「ああ…確かに私は料理人だが…何かおかしいかね?」


「何故隠していたのですか?」


「……忘れていたのかもな…」


…ボロは出さないか… なら…


「では質問を変えましょうか 料理人は便利ですよねぇ……大きな冷凍庫もある、何より肉の処理も簡単だ…」


「……何が言いたい」


「おたくのハンバーグは絶品だそうですね」


「……世辞は要らない」


「何か特別な材料でも入って居るんですか?」


「…普通の材料だ 挽肉に、玉葱、…」


核心を突くなら……今だ


「例えば……人肉とか」


男の顔が溶けた蝋の様に歪む


――――――――――――――――――――――――


「何馬鹿な事を言っている!?そんなわけ…」


「挽肉にしてしまえば誰も人肉とはわからない ですよね」


男は顔を紅潮させ、まくし立てる


「第一お前の妄想じゃないか!」


「いえ 貴方冷凍販売もしてましたよね…」


紙を取り出す 中には様々な物質が記載されている


「そのハンバーグから人の組織が検出されました」


男の顔はみるみる青ざめていく


「6月23日午後9時53分 逮捕します」


手錠をかける重い音が響いた


――――――――――――――――――――――――


「良かったな!大手柄だぞ!」


「どうやら警視庁1課に呼ばれる日も近い様だな」


「ははっ よく言うぜ?俺が冷凍ハンバーグ頼んでなきゃ詰んでた癖によ」


軽口を叩き合っているが実際 かなりの騒ぎになっていた


迷宮入り寸前の事件を若手2人が解決したのだから当然称賛の嵐……


かと思えば独断で動いた事を注意された


まぁ今はどうでもいい


頭にはこびりついた疲労が溜まっている


取り敢えず久々に家に帰ってゆっくり…


「は?」


突然 視界が歪む


平衡感覚が狂い 立っていられなくなる


床に倒れ込むと 口の中から金臭い塊が飛び出す


(血? 俺が吐いたのか?…)


「おい!?大丈夫か? ちょっ…救急車を…早く!」


(そんな慌てんなよ…)


それが最後の思考となり 意識は沈んでいった



―



「……ここは……?」


知らない天井


やけに清潔な部屋


「病院…か…」


「…目が覚めたか?」


そこには見知った狭間の顔があった


「ったく馬鹿がよ お前…病気だったらしいぞ お~い医者を呼んでくれ〜」


「病気か… 日頃から健康体だったんだがな」


医者を連れてきた狭間は頭を振る


「ほら説明してもらえ ちゃんと聞くんだぞ〜」


「いつもお前も会議聞いてないだろ」


医者はなにやら端末を取り出し 説明を始めた


どうやら過労が原因で血管やら何やらが狂ったらしい


緊急手術だったのか……高そうだな


それから退院後も暫く仕事は休むように…か


丁度いい あんだけの活躍だ


少しぐらい休んでもバチは当たらないだろう


――――――――――――――――――――――――


その夜 静かな病棟に音が響く


職業柄、耳はかなりいい方だ


ピッ……ピッ……ピッ……


電子音……心電図?


隣の部屋から聞こえてきてんのか


ピッ……ピッ……ピッ…ピッ…


隣りにいるのは……確か原因不明の病の老人だったか


看護師から聞いた情報を思い出しながら 少し考える


ピッ…ピッ…ピッ…


はぁ やめだやめだ 早く寝よう


「良く休め」って言われたしな


ピッ…ピッ…ピーー


……


クソっ……慣れてるとはいえこれは無いだろ…


看護師やら医者やらの足音が響く


聞いてしまった音は


耳にこびり付いた音は


「死を告げる」音だった



――――――――――――――――――――――――


……全く…慣れないベッドだからかね? 寝付きが異様に悪かったな…


取り敢えず目覚め 欠伸をする


荷物を纏めながら 少し考える


……やっぱ隣の部屋の奴は……


幾ら医療に疎いとはいえあの心電図ぐらい理解できる


………辞めとこう せっかくの休みがつまらなくなる


今日はのんびりして明日は……少しどっか出かけるか


無理に思考を変える


せっかくの休みだ 存分に謳歌させてもらおう



――――――――――――――――――――――――


久方ぶりの我が家だな……


手術後僅かだ 当然ながら体力は落ちている


現に電車で立ってるだけでヘトヘトだ


ソファーに腰掛けた瞬間 睡魔が襲う


そのまま横になり 微睡みに身を委ねる



ピッ……ピッ……ピッ……



筈だった


あの「音」 等間隔な電子音が耳を突く


まだ耳に残ってやがるのか……


ピッ……ピッ……ピッ……


音は止まない


思い切り耳を塞ぐ


ピッ……ピッ……ピッ……


音は消えない


まぁ……数日もすりゃ忘れるだろう


ただの錯覚みたいなもんさ


そう思考を誤魔化して眠りに着いた


――――――――――――――――――――――――


カレンダーは8月19日


休養も刹那 明日から仕事


寝たら音は消えると思い込んでいた


だがその朝は違った


ピッ……ピッ……ピッ……


音が止まない


朝食を食べる間も テレビを眺める間も


朝ベッドから起きた瞬間から音が続いている


おかしい……明らかにおかしい……


幻聴にしても原因が分からない


ふと嫌な思考が浮かんだ


「…誰かが……俺を嵌めてる……?」


慌てて額を叩き 思考をリセットする


「なんてな まさか……」


しかしその予感はガムのように頭蓋にこびり付き離れないのだった


――――――――――――――――――――――――

業務終わり


疲労困憊の身体を引き摺るように歩いていると声が聞こえる


「よう真面目ちゃん! 調子はどうだ?」


「よく言って最悪 って感じだな」


音が止まない今 久々にあった狭間のうるさ……明るい声は少しばかり精神に良い


一瞬……音のことを狭間に話そうかと思った


いや……流石に悪いか


「どうした?なんだかボーッとして」


「……ああ悪い 考え事してた」


適当に誤魔化しながら笑う


こいつ意外と鋭いんだよなぁ……


そんなくだらない会話を電話が切り裂いた


「ハイハイ 今出ますよ〜っと」


狭間が小走りで受話器を取りに行く


「スピーカーモードにしろ なんだか嫌な予感がする」


受話器からは女性の声


「……助け……たすけて!……早く……」


唯ならない様子だ


「おい狭間 行くぞ!」


こういう時に限って動けるのが俺等しか居ない


急がなくては……


――――――――――――――――――――――――



電話の発信源から特定した家


もう夜も深いと言うのに電気がついている


しかし 異様に「静かだ」


耳からはいつもの「音」しか聞こえない


先程の叫びや悲鳴 助けを求める声は何処へやら


「注意しろ 罠かもしれない」


後に控える狭間に言いながら 玄関のドアを開ける


ピッ…ピッ…ピッ


心なしかいつもより音が早い気がする


その瞬間 ドアの影 死角になる所から男が飛び出してくる


その手にはナイフ 薬を入れているのか目は異様に見開かれていた


「!?まずっ……」


ピッ…ピッ…ピッ…


ナイフが首筋に向かう


「死ねぇ!ポリ公!」


寸前に死が迫る


ピッ…ピッ…ピッ…


辛うじて反応し 後ろに下がり回避する


そのまま鳩尾に拳を叩き込む


内臓が拉げる感覚と共に拳が痺れる


荒い息を抑えながら 告げる


「……逮捕だ…」


ピッ……ピッ……ピッ……


――――――――――――――――――――――――


「病み上がりだというのに済まないね 今日はもう帰っていいぞ 明日も休みなさい」


「…いえ 業務は可能です」


「相変わらずだな だが自己犠牲は美徳とは思えないぞ」


そう言われ 家に帰された


……音はまだ止まらない


そういえば…なんでさっきは音が早く…?


そもそもこの音はなんなんだ…


疑問が浮かんでは消えていく


音……等間隔な電子音…


ピッ……ピッ……ピッ……


まさか……


キッチンへと向かう


確かめなくては この音の正体を


ピッ……ピッ……ピッ……


棚から取り出したのは……包丁


手に冷たい金属が触れる


ピッ……ピッ……ピッ……


躊躇いながら その戦慄きを抑え 手を首筋に持っていく


この推理が正しければ……


ピッ……ピッ…ピッ…


首筋寸前に当てた瞬間 音の間隔が変わる


ピッ…ピッ…ピッ…


より性急に 激しくなっていく


やっぱりそうか……


包丁を落とす


床からガシャンと金属音が耳を劈く


この音は……俺の心電図だ


死期を告げる 「命の心電図」


ピッ……ピッ……ピッ……


内臓が裏返る様な感覚が襲う


シンクに向かい 酸味のある液体を吐き出す


ピッ……ピッ……ピッ……


この音が 不意に恐ろしい物に感じられた


ピッ……ピッ……ピッ……


――――――――――――――――――――――――


目覚めた後も思考は明晰だった


恐怖と焦燥感が無理矢理脳の処理能力を上げているのだろう


ピッ……ピッ……ピッ……


テレビを見ながら思考を巡らす


『8月20! 今日の商品はコチラ! 最新型「骨伝導イヤホン」!』


この音にはなにか原因があるはずだ


誰か音を仕組んでいる犯人がいるはずだ


そいつを見つければ音は止められる


誰だ……誰だ……


耳に何かされた? いや……


むしろ音は頭の中から鳴っているようだ


綿棒で耳を搔くが当然なにも出てこない


『コチラの商品!なんと税込……』


……骨伝導……


ふと耳の後ろを触る


微かに指先には違和感があった


これか……


鏡で耳の後ろを見る


底には本来ないはずのそれがあった


蚯蚓が這ったような跡 縫合跡が…


「ああ…」


ピッ……ピッ……ピッ……


これが原因か…


思考は唯一つ


「早く止めなくては」


棚を漁る お目当ての物に指先が触れた


カッターナイフ


金属製の冷たさがやけに強く感じられる


カチカチとゆっくり刃を出し 耳の後ろに当てる


血が滲み ポタポタと床に赤が垂れる


「うわぁぁぁぁぁ!」


力を込めて押し込む


皮膚が破れ 血が噴き出す


痛い……熱い……


ピッピッピッピッピッ


傷口に指を突っ込み 漁る


グチュグチュと嫌な音が響くなか 指が硬いものに触れる


引きずり出すとそれは小さな金属球


微かに振動しているのが伝わる


「ははっ…はははっ…あははははは!」


耳の赤も痛みも関係無い


大事なことは「音が止まった」という事実だけだ


――――――――――――――――――――――――


さてと こんな事を出来る奴は一人だけだ


……アイツだろう


上司に電話をかける


「どうかしたかな?」


「………すみません 明日も休みます」


音を完全に消し去るにはこれしか無い


――――――――――――――――――――――――


それから俺は必死に犯人の近辺を探った


見つからないようにつけ ただ探った


自宅、帰宅時間、帰路、家族構成、体格、行動のありとあらゆるものを知り尽くした


来たる26日 決着の日だ


――――――――――――――――――――――――


街灯の明かりが照らす夜


薄暗い中一人の男 その太った身体をつける


まだ…まだ…


歩幅を合わせ、バレないように


冷静にかつ急ぎ、逃さないように


まだ…まだ…


今だ


そう思った瞬間、走り込む


服を掴み 思い切り倒す


そのまま男の腹に馬乗りになる


ズボンから刃渡り15cmの殺意を取り出す


男は怯え、泣き叫ぶ……いやみっともなく「鳴き喚く」


そのまま腕を振り降ろし「すべきことをした」


良い気分だ……


――――――――――――――――――――――――

目が覚めた 静かな朝


最高だ


音が止まった


もうあの耳障りな音に苦しむ必要もない


『夜道で被害 残虐な犯行』


テレビじゃ何度もあの夜のことを放送しているが最早どうでも良い


目覚めた時から世界の全てが輝いていた


「ははっ……はははっ…」


不意に笑いが込み上げる


その時だった


ピッ……ピッ……ピッ……


は?


どういう事だ?


あの音は止まったはずじゃ


ピッ……ピッ……ピッ……


無情にも音は鳴り続ける


しかしそれよりも今は苦しい


「無関係の人間を殺めた」


その事実が胸を締め付けていた


額を下げる


断罪を待つ罪人の様に


それと同時に相反する感情が浮かぶ


………逃げなくては


――――――――――――――――――――――――


着信音が響く


職業病だろう 殆ど無意識のうちに取る


受話器から聞き慣れた声が聞こえる


「おい 大丈夫か?」


「……狭間か…」


声を聞くたびに 胸が痛む


俺はコイツも裏切ったのか


「無断欠勤なんて真面目ちゃんらしくないなぁ お冠だったぜ?」


「……良いんだ」


ピッ……ピッ……ピッ……


「なんかあったら連絡しろよ? すぐに飛んで行ってやる」


ピッ……ピッ……ピッ……


「ホントに大丈夫か? 体調は…」


ピッ……ピッ……ピッ……


「おい?聞いてるか〜?」


ピッ……ピッ……ピッ……



五月蝿い



「……俺だよ」


「おいおい 急にどうし……」


これが せめてもの償いだろう


「俺だよ あの事件の犯人(ホシ)」


向こうで息に詰まるのが分かる


いきなり仄めかしたのだから当たり前だろう


「……嘘だよな? んなわけ…」


「15cm 当たってるだろ?」


「……なんでだよ…」


その瞬間 頭の中で「ナニカ」が壊れる音がした


「仕方なかったんだよ仕方なかったんだ止めるにはこれしかなかったアイツで間違いないんだアイツしか出来ないんだ証拠もあるんだだからやったんだ仕方なかったんだでも止まらないんだアイツは犯人だけど犯人じゃないもう俺は何も出来ないんだもう逃げるしかないんだ頼む……」


感情の波が引いていく


出力された言葉(別れ)を吐き出す


「…放っておいてくれ」


「………」


狭間の声が消え静寂が戻る


ピッ……ピッ……ピッ……


――――――――――――――――――――――――


……もう何もないな…


ピッ……ピッ……ピッ……


ははっ……


思わず口から自虐的な笑いが込み上げる


その発作は口から肩へ、腹へ広がり哄笑へ至る


ピッ……ピッ……ピッ……


ただ笑った


そうでもしなければ壊れてしまう、狂ってしまう


「元々か…」


笑いが引くと反動で思考は澄まされる


抗ってみよう、足掻いてやろう


針を取り出し、耳に近づける


音を止めるならその通路を断てば良い


ピッ…ピッ…ピッ…


耳の奥で風船を割り、赤が垂れた


痛みで針を落とすが、その音は聞こえない


ピッ……ピッ……ピッ……


「クソが……」


聞こえない独り言を呟きながら 諦める


――――――――――――――――――――――――



止めなくては……


この「音」を消し去らなくては……


誰だ…?誰なんだ…?


この音を奏でる悪魔は…


俺を苦しめる死神は…


一体何なんだよ…この「音」は…


「ある物」に手を伸ばす


この「音」を確実に消せる道具に


無骨なシルエット


冷たい感触


それは拳銃(救い)


この自身の命と引き換えに音を確実に消し去る魔法


込められたのは魔法の弾丸(救いへの片道切符)だ


ところで誰だったんだろうな?


まぁ……いいや……


口に救いを咥える


片道切符を受け取る為に


最期に 自分じゃ聞こえない恨み言を遺す


「縺、縺弱?縺阪∩縺?h」


ピッ……ピッ……ピッ……ピッ…ピッ…ピッ…


ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

どうも案内人です。

初めての短編ホラーと言う事で大変おまたせしました。

他作品も読んでいただけると嬉しいです

―――――――――――――――――――――――――

連載中の残酷自我解放アクション「救いなき世界の裏路地で」https://ncode.syosetu.com/n9529mb/

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