三十九. 手紙
『まずは、先日の非礼をお詫び申し上げます。澄蘭様のお気持ちも考えず、感情のままに声を荒げたこと、大変申し訳なく思っております。
言い訳になりますが、公主様が手の届かない遠くへ行ってしまう──そんな気がして、焦りに我を失っておりました。
大変不敬ですし、みっともない限りですが、貴女様と共に行動なさる第二皇子殿下への妬心がなかったと言えば、嘘になるでしょう。公主様の大切な兄君に、何という情を抱いているのかと、自身を恥じるばかりです。
婚姻の儀でお伝えしようと思っていましたが、どうしようもなく話下手な自身に見切りをつけ、文にてお伝えしようとする不躾さを、どうかご容赦ください。
澄蘭公主様に初めてお目にかかった日のことを、私は今も鮮明に覚えています。
私の確認不足で約束の時間を違えてしまい、公主様を長くお待たせしてしまったあの時──。公主様は、熱心に書物に目を通しておられました。
目を輝かせ一心に文字を追い、時に眉を寄せ何かを考え込み、時に微笑むそのお姿に、私は一目で心を奪われておりました。学ぶことを心から楽しんでおられるご様子が、ありありと伝わって来て、この方と共に過ごす未来はどんなに素晴らしいだろう、幸せだろうと、夢想したことを覚えております。
一方で、書物から離れた時の公主様は、いつもどこか苦しそうです。そのお心を理解できない、お辛さを和らげることも出来ない自分を、ずっと歯痒く思っておりました。
公主様は、私が「学ぶことを肯定した」とおっしゃっていました。ですが、知とは誰かの許可のもと得ていくものだとは、私は思っておりません。ある時には純粋に向き合い、ある時には身を立てる手段として、自身の生を自身で豊かにするための道具であると、考えています。
もちろん、この国を取り巻く教えは理解しておりますし、公主様にもお立場があるのでしょう。
ただ、少なくとも、私と共に在る時には、何も気にせず、ありのままのご自身で居ていただきたいのです。共に気が赴くままに学び、知らないことを教え合い、いつまでも穏やかに年を重ねていきたいと、心から願っています。
昨今、錚雲の訳語集の編纂に手を付け始めました。
私のつまらない話を笑顔で聞いてくださった公主様と、いつか、かの国を旅することが出来れば良いと、密かに思っております。
両国の長年のわだかまりを解き、民の往来が当たり前となる将来が来るよう、私も一官僚として力を尽くします。
その時にはぜひ、あちらで発展を遂げたであろう算術を共に習ったり、市場を隅々まで探索したりして、二人で笑い合えたら幸甚です。
長くなり過ぎてしまいました。申し訳ございません。
冬となり、日に日に寒さを増してまいりました。どうかお風邪など召されぬよう、ご自愛ください。
また近いうちに、会いにまいります。』




