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蘭花伝 ──黎明の皇女は天命に抗う──  作者: 冬生 恵
【第四章】黎明(れいめい)の空
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三十九. 手紙



『まずは、先日の非礼をお()び申し上げます。澄蘭(ちょうらん)様のお気持ちも考えず、感情のままに声を荒げたこと、大変申し訳なく思っております。

 言い訳になりますが、公主(こうしゅ)様が手の届かない遠くへ行ってしまう──そんな気がして、焦りに我を失っておりました。

 大変不敬ですし、みっともない限りですが、貴女(あなた)様と共に行動なさる第二皇子殿下(でんか)への妬心(としん)がなかったと言えば、嘘になるでしょう。公主様の大切な兄君(あにぎみ)に、何という情を抱いているのかと、自身を恥じるばかりです。




 婚姻(こんいん)の儀でお伝えしようと思っていましたが、どうしようもなく話下手な自身に見切りをつけ、文にてお伝えしようとする不躾(ぶしつけ)さを、どうかご容赦(ようしゃ)ください。


 澄蘭公主様に初めてお目にかかった日のことを、私は今も鮮明に覚えています。


 私の確認不足で約束の時間を(たが)えてしまい、公主様を長くお待たせしてしまったあの時──。公主様は、熱心に書物に目を通しておられました。

 目を輝かせ一心に文字を追い、時に眉を寄せ何かを考え込み、時に微笑むそのお姿に、私は一目で心を奪われておりました。学ぶことを心から楽しんでおられるご様子が、ありありと伝わって来て、この方と共に過ごす未来はどんなに素晴らしいだろう、幸せだろうと、夢想(むそう)したことを覚えております。


 一方で、書物から離れた時の公主様は、いつもどこか苦しそうです。そのお心を理解できない、お辛さを(やわ)らげることも出来ない自分を、ずっと歯痒(はがゆ)く思っておりました。


 公主様は、私が「学ぶことを肯定した」とおっしゃっていました。ですが、知とは誰かの許可のもと得ていくものだとは、私は思っておりません。ある時には純粋に向き合い、ある時には身を立てる手段として、自身の生を自身で豊かにするための道具であると、考えています。


 もちろん、この国を取り巻く教えは理解しておりますし、公主様にもお立場があるのでしょう。

 ただ、少なくとも、私と共に()る時には、何も気にせず、ありのままのご自身で居ていただきたいのです。共に気が(おもむ)くままに学び、知らないことを教え合い、いつまでも穏やかに年を重ねていきたいと、心から願っています。




 昨今(さっこん)錚雲(しょううん)訳語集(やくごしゅう)編纂(へんさん)に手を付け始めました。

 私のつまらない話を笑顔で聞いてくださった公主様と、いつか、かの国を旅することが出来れば良いと、密かに思っております。

 両国の長年のわだかまりを解き、民の往来(おうらい)が当たり前となる将来が来るよう、私も一官僚として力を尽くします。


 その時にはぜひ、あちらで発展を遂げたであろう算術を共に習ったり、市場を隅々(すみずみ)まで探索したりして、二人で笑い合えたら幸甚(こうじん)です。





 長くなり過ぎてしまいました。申し訳ございません。


 冬となり、日に日に寒さを増してまいりました。どうかお風邪など召されぬよう、ご自愛(じあい)ください。


 また近いうちに、会いにまいります。』


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