第3話 温泉領、地獄。村人、ほぼ全滅。
王都から馬車で数日。
俺はついに赴任先――
フェルメルト温泉領
に到着した。
が。
(……え、なにこれ)
まず目に飛び込んできたのは、
倒れたまま動かない男。
「ぎゃああああああああああッ!?!?
し、死んでるぅぅぅッ!?」
慌てて駆け寄ると、かすかに声が返ってきた。
男
「……いや……生きてる……すこし疲れてるだけ……」
(少しのレベルじゃない……!!)
辺りを見渡せば――
・腰を押さえてうずくまる老人
・膝を抱えて震えてる青年
・頭にタオル乗せて蒸気吸ってる少女
・倒れてはないが“壁にもたれて息切れしてる人”多数
(何この“村人全員HP5”みたいな状況……!?)
そこへ、でかい影が近づいてくる。
「おお……お、おおおお……?」
「ひえっ!? まだ敵いるの!?」
「お、俺は敵じゃなくて……ガルスだ……っ!」
出てきたのは大柄な中年男。
でも、その体はまるで空気で膨らませた人形みたいにフラついていた。
ガルス
「はぁ……はぁ……ようこそ……お、お越しを……」
「いや息切れひどすぎない!?
階段昇ったあとみたいな状態だけど!?」
ガルス
「村の戦士という設定……だった……はず……なんだが……」
(設定って言っちゃった!?)
◆突然の美女登場(ただし虚弱)
「ガルス様、声を出しすぎると……倒れますよ……」
ふわっとした白い髪の少女が現れた。
整った顔立ち、青い瞳。
ただし、若干フラフラしている。
リリア
「わ、私は……リリアと言います……
領主様、ようこそお越しくださ……」
倒れた。
「倒れたーーーッ!!!?」
ガルス
「ああ……リリア!!」
俺
「いやガルスさんも倒れそう!!?」
なんだこの領地。
みんな体力ゼロか?
(いや……これはただの“虚弱”じゃないぞ)
俺は人混みの中に漂う、
“よどんだ気の流れ”に気づいていた。
(……ああ、これ完全に“温泉の気脈”が死んでるパターンだ)
温泉はただのお湯じゃない。
湧き出る気――この世界だと“魔力の流れ”にあたるもの――で人は元気になる。
逆に、気脈が枯れれば――
こうして村全体が不調になるのだ。
(つまり、この領地を救うには……温泉だ)
◆メルダ婆、登場
「おぬしが新しい領主かい」
しわくちゃの、しかしどこか凛とした老婆が杖をついて現れた。
メルダ婆
「名はメルダ。村で一番物知りじゃ」
「はじめまして。ユウトです」
「若いのに態度は礼儀正しい。気に入ったよ」
さっき会った村人たちとは違い、
メルダ婆だけは妙に元気そうだ。
(もしかして……こいつが一番強い?)
メルダ婆
「さて、ユウトよ。お前さんに頼みたいことがある」
「なんですか?」
「村を救ってくれ」
「ザ・直球!!?」
メルダ婆は淡々と語り出した。
「この村は、温泉が枯れてからずっと不調続きじゃ。
湧き出る魔力が弱まり、人も家畜も全体的に弱っておる。
儂はもう年でな……どうすることもできん」
「温泉……枯れたんですか?」
「完全ではないが、ほぼ出とらん。
魔物も近づくし、人も倒れるし、獣だってヒョロヒョロよ」
(そりゃ村全滅するわ)
メルダ婆
「そこで、お前じゃ」
「俺……?」
「お前の体からは、妙な“整った流れ”を感じる。
この世界の人間とは違う、何かがある」
(そう、前世の“生き方”がそのまま気に出てるだけなんだけどね……)
メルダ婆
「村はもう限界じゃ。
頼む、助けてくれ……ユウト」
その言葉に、俺は決めた。
「……わかりました。
でもまずは――温泉を見せてください」
メルダ婆
「よかろう。ついてくるんじゃ」
こうして、
俺と“虚弱すぎる村人たち”の戦いが始まった。
まずは温泉の復活からだ。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 感想 をいただけると励みになります。
これからもどうぞよろしくお願いします!




