第1話 転生したら、なぜか貴族のボンボンだった
はじめまして、鍼間ゆのです。
気づいたら「鍼灸が世界を救う物語」を書こうとしていました。
なぜそうなったのかは私にも分かりません。気づいたら鍼が飛び、ツボが光り、世界が救われたり救われなかったりしています。
おそらく風変わりどころか、だいぶカオスな展開になると思いますが——
その混沌すらも一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。
どうぞ、ゆる〜い気持ちで、世界がどう転ぶか見届けてやってください。
――気づいたら、知らない天井があった。
(ん……ここどこ?
いつもの治療院の天井じゃない……?)
「坊ちゃま!! 目を覚まされたのですね!!」
知らないメイドさん(めちゃ美人)が飛び込んできた。
(うん? んん? これ夢?)
夢にしてはリアルすぎる。
頬をつねってみても痛くない。
代わりにメイドさんがビクッとした。
「ぼ、坊ちゃま!? つねってもいいのは腕だけです!!」
「いや、あの……あなた誰?」
「えっ……坊ちゃま、本当に……?」
メイドさんは固まった。
そこへ、髭モジャの大柄なおじさんが駆け込んでくる。
「ユウト! 目を覚ましたか……!」
「誰だこの渋いおじさん!」
「父だ!」
「あ、父上……?」
どうやら俺の名前はユウトらしい。
前世の俺(鍼灸院長)はどこへ行った。
「お前は落馬して六日間眠っていたのだ!
記憶が混乱していても無理はない!」
(落馬……なるほど、転生あるある設定ね)
どうやらこの世界では
“落馬事故で記憶喪失”
という扱いで済ませられるようだ。
便利すぎるぞこの国。
父上は俺の肩を叩きながら続けた。
「ユウト、お前には領地を任せたい」
「突然すぎない?」
「辺境だが、温泉の湧く土地でな。可能性はある」
(温泉!? 温泉!?)
鍼灸師にとって温泉は宝だ。
血の巡りも気の巡りも良くなり、治療効果も高い。
(これは……ワクワクしてきた)
そして俺は、この世界の地図を見て驚く。
(なにこれ……地形が“気の流れ”そっくりじゃん)
川、山脈、風の通り道が、まるで人体の経絡のように配置されていた。
(もしかして……この世界、東洋医学めちゃ刺さる?)
前世で培った知識が、そのまま最強のチートになる気がした。
その日の夕方、俺は父上から一つの箱を渡される。
「これを持っていけ。昔、治療師から買った謎の道具だ」
「……これ、どう見ても鍼なんだけど」
「なんとなくお前に似合う気がしてな」
(どんだけ俺の鍼灸魂が漏れてたんだよ)
こうして俺は、
異世界の貴族 → 領主見習い
というとんでもない人生をスタートさせることになった。
(温泉あるし、治療院経営みたいなもんだろ……なんとかなる!)
まさかこの時の俺は知らなかった。
この“辺境の温泉領”が――
後に 『奇跡の湯治大国』 と呼ばれるほど発展するなんて。
そして、
俺がその立役者になるなんてことも。




