Chapter 1 Awakening of Light 03
体育館。
普段、体育の授業は屋外で行われることが多いため、体育館は主にスポーツ部の練習に使われている。そのおかげで、中にはたくさんのスポーツ用品が見えた。
だが、それよりも多かったのは、ユウに誘導されてここに避難してきた生徒たちだ。どうやら食堂にいた者だけでなく、攻撃を知って他の場所にいた生徒たちも逃げてきたらしい。
気になるのは、学校の人数はこんなに少なくはないはずだということ。
これ……どれだけの人が怪我をして、命を落としたんだろう。
その時、ユウが用具入れから戻ってきた。手には野球のバットを持っている。
「これで何とかなるかな?」
ユウはそう言いながら、バットを手のひらで叩いた。
「一体、何と戦うつもりなのよ!?」私は声を荒らげて尋ねた。
「緊急事態の備えだよ。本当は、あまり気が進まないんだけどね」
それを聞いて、私はため息をついた。彼の言っていることが、ますます理解できなくなってきた。
「こ、これは……きっとテロだわ!」
誰かがそう叫んだ。誰もが、何が起こったのか分からない状況に怯えている中で、その言葉はさらに不安を煽る。
言い争う人々の声。
ネガティブな感情で満たされた、大量のオーラ。
「うっ……」
私は頭を抱えた。
床に倒れ込みそうになった私の腕を、ユウが掴んだ。
「大丈夫か?」
「ちょっと頭が痛くて……」
「それは大変だ。深く息を吸って」
「うん……」
それにしても、どうしてユウは私にこんなにぴったりくっついているんだろう……?
ユウは私の考えを察したようだ。彼は笑みを浮かべた。
「そうだね。さっき、君に『あっちへ行って』って言われたばかりだったか。俺は他のところに行くよ。気をつけろよ」
「……そんなこと言ったんじゃない」
「ハハッ、君は本当に面白いな」
「……さっき、あなたのお兄さんに、あなたに関わるなって言われたの」
なぜか、私はそれを口に出してしまった。
ユウはただ瞬きをした。
「アイが?」
「うん」
「そりゃ、そうだろうね……あ、悪い意味じゃないよ」
「……?」
「まあ、そういうことだ……俺とあいつは、本当に君に関わらない方がいい理由があるんだ」
聞けば聞くほど、疑問が深まる。
私はその疑問を押し殺し、質問を投げつけた。
「あなた、私と一緒にいるより、まずアイを探すべきなんじゃないの?……」
「ん?」ユウは手を振り、楽しそうに笑った。「いやいや、あいつは自分で何とかできるさ。おっと……」
そして、深刻な顔で顎に手を当てて考え込んだ。
「違うな……本当は、あいつを一番心配しなきゃいけないんだ」
「あなた、バカなの!?」
「あいつ、護身用のもの何も持ってないんだ。本当に危ないかも……!」
ユウが呟きを終える前に。
再び体が冷たい感覚に襲われた。また爆発が来るというのか?
そう思った瞬間、ユウは体育館の入り口に向かって振り向き、私の肩を優しく押した。
「伏せろ」
そして、人間離れしたスピードで、正確に群衆をかき分けて走り出した。
すべてがスローモーションのように見えた。
体育館の壁が、ゆっくりとひび割れていく。最初は見えなかったけれど、今度ははっきりと目に見えた。体育館のドアを吹き飛ばしたのは、爆発やただの風圧ではない。
紫色のオーラの塊が、まるで……。
「魔力の波……」
私は、その意味をほとんど理解しないまま、つい口に出してしまった。
誰も身構える暇はなかった。もしあれをまともに受けたら、ここにいる全員が食堂と同じ運命を辿ったかもしれない。だが……目の前の光景は、野球のバットを持ったユウが、まるで飛んでいるかのようにジャンプし、野球のボールを打つように腕を振り抜いた姿だった。
「やぁっ!!!」
ユウは力の限り叫び、手に持った野球のバットで、紫色のエネルギーの波を叩きつけ、それを消散させた。
土煙が舞い上がる。
ユウは、体育館の端まで身を寄せ合って避難している生徒たちの集団の前に立っていた。彼は、崩壊した体育館の入り口を覆う煙を見つめた。
煙が晴れると、『それ』の姿が見えた。
「な、何よ……」
私は小さくつぶやいた。
体高が約五メートルもある巨大な影。灰黒色の毛皮に覆われた屈強な肉体。獰猛な野獣のような顔をしているが、二本足で立っている。そして片手には、電柱三本分を束ねたような巨大な棍棒を持っていた。
それを見た生徒たちは、一斉に叫び声を上げた。
「ば、バケモノだ!!!」
「に、逃げろ!殺される!!!」
群衆は後ろに押し寄せ、まるで体が押しつぶされるようだ。恐怖を表す大量のオーラで、私は正気を保つのがやっとだった。
誰もが逃げようとする中、ユウだけがそこに立っていた。バケモノの目の前に。
私はユウが何を言っているのか、耳を澄ませた。
「どこから来たんだ、お前?」
「グルルル……」
「場所を間違えてるぞ、お前……しかも、人間の言葉が話せない下級クラスか。やれやれ」
「グルルル!!!」
「はぁ……見て分からないのか、他の人間に迷惑がかかってるだろう。もし、俺が目的なら……せめて、他の場所で戦ってくれ」
「ウォーグ!!!」
巨大な棍棒が振り下ろされる。ユウは野球のバットでそれを受け止め、押し返した。
「よそで戦えって言ってるだろ、この野郎!!!」
その反動で、ユウはバケモノを体育館から遠く離れた場所へ押しやった。遠くの建物に何かがぶつかる音が聞こえた。
バケモノがユウと共に姿を消すと、群衆は落ち着き始めた。
「い、行ったの……?」
「今、誰かバットを持った人が、あいつと一緒にいるのを見たぞ!」
「食堂で叫んでた人じゃないか!?」
意見は様々に飛び交うが、体育館から動こうとする者は誰もいない。中には、「もうすぐ自衛隊が助けに来る」などと言っている者もいた……。
だけど。
今、外で戦っているのはユウだ。
しかも、たった一人で。
ユウが普通の高校生ではないことは否定できない。だけど、彼はたった一人なんだ。
あんな恐ろしいバケモノ相手に。
彼は何も考えずに飛び出していった。その姿は、少し格好よかった……。
「うっ……!?」
頭が痛い。
意識を保っていられないほどだ。
元々、私の能力はこんなに人が多い場所には向いていない。しかも今、皆がパニックと恐怖に震えている。
何百人もの生徒のオーラ。
それらが心臓を蝕むように激しく波打っている。
止めて……。
……もう、止めて。
ここから出たい。
この苦痛を終わらせたい……実は、痛みはしばらく前からあったけれど、ユウがバケモノと戦いに出てから、どんどん酷くなっている。
「あの少年は……あなたからの助けを待っているわよ、エヴァ」
澄んだ声が響いた。まるでそよ風のような声だ。
私は周りを見回したが、誰も私に話しかけている様子はない。
その声を聞いた瞬間から、頭痛が和らいだ。
「誰……?」
私は小さな声で尋ねた。
「あの少年は、このような状況に何度も立ち向かってきたけれど、今、彼の力はとても弱いの……」
まるで夜の物語を語るような、女性の声。
「彼は平穏な生活を送るべきだった。それが彼の報酬……だけど、間違いによって、再び戦いに直面している」
「……」
「そして、私はそれを許せない。しかし……今の私には手を差し伸べる力がない。だから……」姿なき謎の女性は言葉を切った。「今のユウには、あなたが必要なのよ、エヴァ」
意図は分からない。だけど、なぜだか、それが彼女の心からの願いだと感じられた。
だけど……。
「私なんかが……誰かを助けることなんてできない」
そう、私には何もできない。友達すら一人もいない。こんな時でさえ、体育館の中に隠れている惨めな存在だ。
……何もできないから。
……この力があっても、私はただの特別な力のない普通の女の子でいたかった。
もしそうなら、変人扱いされずに済んだのに。
もしそうなら、気味悪がられずに済んだのに。
もしそうなら……私にも友達ができたはずなのに。
私の考えを聞いたかのように、謎の声は答えた。
「もしあなたと一緒にいられる人がいるとすれば、その人はユウよ」
「どういう意味……」
「ユウは特別よ。何より、彼はきっとあなたを理解してくれる。約束するわ」
姿の見えない声の約束に、何の意味があるというのか……そう思いたくても、私はその声の言うことを信じてしまった。
「……でも、もしあなたが傍観者でいることを選ぶなら、ユウは……いいえ、彼は死ぬわ」
確かにユウは普通じゃない、特別な生徒だ。
だけど、あんなバケモノ相手では、彼女の言う通り、ユウは助からないだろう。
そう分かっていても、誰もが逃げる中、ユウは飛び出していった。
皆を助けるために。
もし今、ユウが私からの助けを待っているのなら。
私は……。
「……本当、面倒くさいわね」
私はそう呟き、頭を強くかきむしった。
助けになるかどうかは分からない。だけど、これ以上ここにいるのは嫌だ。
そう決心すると、私は群衆をかき分け、走り出した……体育館の外へ。誰かの止める声が聞こえたけれど、気にしない。
その途中で、私は尋ねた。
「言われた通りにするわ!だけど、あなた、一体誰なのよ!?」
相手が微笑んだのが分かった、その瞬間、私は答えを受け取った。
「私もあなたと同じよ、エヴァ……私たちは……」
そして、その女性の次の言葉は、私に驚きをもたらした。そして、その言葉こそが、私がずっと抱いていた疑問の答えなのかもしれない……。
「女神よ」




