Chapter 4 Visitor form Another World 4.5
ダークテリトリーは広大であり、歩くだけでは、どんなに速足であっても数日で全てを探索することはできない。ましてや、絶えず移動できるわけではなく、休息も必要である。
そのため、アイはダークテリトリーに来て一週間が経過しているにもかかわらず、求めているものを見つけられていなかった。
これほど広大な場所でたった一人を探し出すのは難しいことだ。とはいえ、彼には目指すべき目的地があった。
それは魔王の居城である**「最奥ダンジョン」**だ。
勇者ユウの手による魔王討伐後、そのダンジョンの場所は特定されていた。いくら広大な領域であっても、脇道に逸れずに進めば、アイが費やした時間から見て、間もなく最奥ダンジョンに到着するはずだった。
ディコイルは魔王の遺志を継ぐ者だと公言しているため、そこにいる可能性は高い。そうでなければ、何らかの手がかりがあるだろう。運が良ければ、ワールド・キーを回収できるかもしれない。
だがその時……突然、彼が別世界に張っていた境界線が揺らぎ始めた。
そして、その侵入の痕跡から察知した相手は。
「ディコイルか?」
アイは、従者の竜ベルを連れながら言った。実は、彼はここまでベルに乗って空路を利用し距離を縮めていたのだが、最奥ダンジョンに近づくにつれて、空域が魔力の濃霧に覆われ、竜でさえ飛び越えられないほどになっていた。
「敵でございますか?」
竜ベルは驚いた声で尋ねた。
「ああ……その場所は、ユウがゲートキーパーを倒したばかりの亀裂だ。……ユウを狙っているのか。いや、違う……」
アイが一瞬固まると、ベルは彼の思考を口にした。
「もしかして……アイ様をこちらから引き戻そうとしているのではありませんか?」
「……ああ」
アイは短く答え、黒いローブの下にあるポケットから何かを取り出そうとした。
ベルはそれを制した。
「よろしいのですか!?ダークテリトリーでは**「ワープ」**地点を設定できません。影の入れ替えも不可能です。もし今戻れば、再びここへ辿り着くまでに、また多くの時間を費やすことになりますよ!?」
ベルが言う通り、ダークテリトリーではワープ地点を設定できないため、一度出ると、再び入るには最初からやり直すしかない。影の入れ替えを使っても結果は同じだ。
「もし敵があなたに戻ってほしいと願っているのなら……次に来た時の探索は今回よりも難しくなっているか、あるいは最奥ダンジョンに辿り着くことすらできなくなるかもしれませんよ!?」
アイは唇を噛んだ。
「どうすればいい……」
ベルの言う通りだ。理由なくディコイルがこんなことをするはずがない。
つまり、アイはディコイルが辿り着かれたくない場所にもうすぐ着くということだ。ディコイルの行動は、今回アイを追い払うことができれば、次にダークテリトリーを探索しに来た時は、今回のように簡単にはいかないようにするだろうということを示している。
きっと、対処法を見つけているに違いない、とアイは考えた。そして、自分でもそうするだろうとも考えた。
しかし……今のユウは弱い。これまでに四、五か所の亀裂を閉じたとはいえ、彼が解放したスキルだけでディコイルと戦うには不十分だとアイは思っていた。
彼は油断していた。ディコイルがワールド・キーを今すぐには使えないと確信していたからだ。……おそらく、ディコイルの魔力を見誤っていたのかもしれない。
いや、違う。間違ってはいない。ディコイルは無理をして使わざるを得ない状況なのだろう。
さらにディコイルは、今のユウが弱く、アイ自身が長い間ダークテリトリーにいることを知っている。これは、ディコイルがどれほど愚かであっても、ユウが一人でいることを知っているということだ。
それにしても、タイミングがやはり奇妙だ。ということは……やはり最奥ダンジョンに何かがあるのだろう。
アイはそう考え、悪態をついた。
「ちくしょう……」
そして、それをポケットから取り出した。普通の鍵よりも大きな透明な鍵。これは彼が別世界へ渡るための扉を開くために使うものであり、莫大な魔力を必要とする。
さらに、これはディコイルが持っているワールド・キーと同じ特性も持っている。
もう一方の手は、擬似的な亀裂を作るためのスキル**「次元斬り(ディメンション・スライス)」**を使う準備のために、後ろに引かれていた。
そこでベルが叫んだ。
「アイ様!」
「腹立たしいが、探索は一時中断だ。アルファへ戻る」
アイは自分の元の世界を**「アルファ」と呼び、この異世界、ユウの異世界を「ベータ」**と呼んでいた。
彼自身が名付けた呼び名だが、最近はこの異世界の人々の間でも広く使われ始めている。おそらく、名付けたのが史上最強と謳われる魔法使いだからだろう。
「……」
しかし、鍵が宙に浮いたままの状態で、アイは思案した。
ベルの言っていることは、否定できないほどに可能性が高い。一度冷静になり、ユウの安全を置いて考えるならば……どちらの決断が最も正しいのだろうか。
敵は彼を誘い戻そうとしている。もしそうすれば、次の探索は難易度が上がるだろう。
だが、もし戻らないという選択をすれば、ユウが危険に晒されるリスクがある。
影から察知した情報では、リリーは既にアルファにおり、ユウと一緒に亀裂を閉じに行っている可能性が高いとはいえ、彼女を完全に頼るわけにはいかない。
確かにリリーは、その見た目に似合わず高位のプリーストだ。しかし、相手がディコイルで、力を多く失ったユウとプリーストのリリーが組んだとして、勝率はどれほどだろうか。
最奥ダンジョンまであと数歩というところまで来ている。今すぐ決断しなければならない。世界を瞬時に移動できるわけではないのだ。
ベルは、体が硬直したままの主の姿を見つめた。
「アイ様……」
「……お前の言うことは正しい。だが……今のユウは……」
肩に力が入る。弟のことが関わると、自分の判断力が鈍ってしまうことに苛立ちを覚える。
早くどちらかを選べ!アイは不機嫌そうに自分自身に怒鳴った。
その時、ベルが頭を下げてきた。アイは彼女の温かい吐息を感じた。
大きな瞳が彼を見つめた。
「……先ほどは動揺してしまいました。……この私に、アイ様の決断に口を挟む権利はありません」
「……ベル」
「アイ様がこれ以上誰も失いたくないと思っておられることは存じております。ですが……今、決断しなければなりません。あなたがどちらを選ばれようと、私はそれを受け入れます」
アイはうつむいた。鍵は宙に浮いたままだ。スキルを解放し、魔力をコストとして支払えば、鍵はすぐに起動する。
「ベル……俺は……」
アイの決断が正しかったのかどうか、誰にも分からないまま、その言葉はダークテリトリーの風の音に掻き消されていった……。




