Chapter 4 Visitor form Another World 02
亀裂は閉じたが、問題はまだ終わっていなかった。
ユウは、かつてのパーティ仲間だった少女を背負って家に連れ帰り、私も一緒について行った。どうせ私の家とユウの家は遠くない。それよりも、この少女が一体どういうことなのか、という疑問が大きかった。
パーティ仲間だと言うのなら、魔王を倒したメンバーの一人ということだろうか?
家に着くと、ユウは少女を居間のソファに寝かせた。一方、眠そうなブラッキーはアイの部屋に戻ると言って立ち去った。立ち去る前に、私はブラッキーにこう尋ねた。
「君も知ってるの?この子のこと」
「さっき言ったニャ、知らないニャ」
ブラッキーはそれだけ言って二階へ駆け上がっていった。……ブラッキーとアイもユウと同じパーティだったのではないのだろうか?いや、ユウは異世界にいた頃、アイとは後に会ったと言っていたな。
まるで入れ替わるように、ブラッキーが消えると、基本的な姿に戻ったクロイチが階段を降りてきた。
その影は大きなあくびをしながら降りてくる。
「告白の件はどうなりましたか、女神様?……それと、この方はまたどなたですか?あの女性ではないようですが」
クロイチは顎に手を当てて、修道女の服を着た少女を眺めた。あの女性とはリカのことだろう。
それにしても、この影も今日も学校を休んだのだろうか。理由はどうでもいいとして。
私は先ほどと似たような質問をした。
「君も知らないの?」
「見覚えはあるような、ないような……」
こんなに目立つ格好をしているのだから、私は一目見ただけで覚えているのに。うーん……もしかしたら、クロイチがいた異世界では、こういう格好をした人がたくさん歩き回っていたのだろうか?
少なくとも、ブラッキーのように「知らない」と言い切るのではなく、「見覚えがある」と言っただけマシだ。
ユウは少女を見下ろした。私とクロイチも一緒に見つめている。
「なかなか起きないな」ユウは少女の体を揺すってみて、そう呟いた。
「もしかして、死んでるんじゃ……?」
「そんな不吉なこと言うなよ。……なあクロイチ、『マナポーション』の残りってあるか?」
クロイチは首を傾げた。
「アイ様の部屋に少し残っているはずですが……何に使うんですか?」
私もそれが疑問だったが、ユウは軽く手を振って「持ってきてくれ」と言うだけだった。
クロイチは一瞬で二階に消え、すぐに手のひらサイズのガラス瓶を持って戻ってきた。中には青みがかった液体が入っている。……ああ、ゲームに出てくるようなポーションか。
しかし、これは異世界から来た本物のマナポーションで、実際にマナや魔力を回復させる効果があるらしい。でも、何に使うのだろうか。私にはまだ分からない。
「ありがとう、クロイチ。次は……」
ユウは瓶の蓋を開け、青い液体を修道女の少女の口に流し込んだ。
「あっ!?」
私が驚く間もなく、少女は目を見開いて、バネ仕掛けのように体を起こした。
「オエェェェッ!!!」
少女はソファから離れ、顔を下に向けて、口の中の青い液体を全て吐き出した。まるで飲みすぎた酔っぱらいのような状態だ。
「て、敵は!どこ!どこよ!!!」
少女はボクサーのように拳を構え、慌てて左右を見回した。……彼女は修道女じゃなかったっけ?
ユウは朗らかに笑った。
「ハハ。相変わらずマナポーションは嫌いなんだな」
「へ?え?ユウさんじゃないですか???」
彼女は驚いたように瞬きをし、それから目を細めてユウを見つめ、顎に手を当てた。
「また夢を見てるんですね。ユウさんは元の世界に帰ったはずなのに、ここにいるわけないですよね」
どうやら、少しとぼけた人のようだ。
彼女は周囲を見渡した。
「変な夢ですね。おや?アイさんの影もいる。でもこの人は知らないな……街中ですれ違ったことでもあるかしら?」
夢に出てくる人は、潜在意識が作り出すもので、現実で一度も会ったことのない人を夢に見ることはできないと聞いたことがある。だから彼女はそう考えているのだろう。
ユウはため息をついた。
「夢じゃないよ」
「夢じゃないんですか?」
「うん」
「夢の中の人が夢じゃないって言うなんて、どこまで信じたらいいんでしょうね?」
これは……とぼけているというより、ちょっとお馬鹿さんの域を超えている。会ったばかりだが、この女性はあまり賢くない気がする……。
ユウは再びため息をついた。
「……自分の頬を抓ってみなよ」
ちょっと待って。そんな子供だましな方法が本当に効くのだろうか?
私がそう思っていると、少女は自分の頬を強く抓った。
「いひゃい……。……痛い!?本当に夢じゃないの!?」
「うん」
「ところでユウさん、ここで何してるんですか?あの世界から追い返されたんですか?」
「まさか……はぁ、話が長くなりそうだ……」
普段はいつも気楽そうなユウが、こんなにうんざりした表情を見せたのは初めて見た。
……少女は、見知らぬ私がいることに気づき、自己紹介を始めた。
「リリーと言います。ユウさんと一緒のパーティにいたプリースト(僧侶)です!」
なんて明るい人だろう。
私は頭を下げた。
「エヴァです。……あのー……」
自分が女神であることを紹介すべきか迷っていると、ユウが代わりに答えた。
「エヴァは女神なんだ」
「女神!?ユウさんを、ある世界から別の世界に送った人ですか!?」
「俺を送ったのはエヴァじゃないけど、まあ似たようなものだ」
「わあ……エヴァさん、すごく高貴な方なんですね」
リリーは目を輝かせて私を見た。
「い、いや、そんなことないよ。実は私もよく分かってなくて……」
「うんうん、分かりますよ!自分の出自に悩む迷える子羊ですね!ご心配なく!私の『羊飼いの教会』は、全ての迷える人々を受け入れています!エヴァさんも入信すれば……ウムゥ?」
ユウはリリーの口を塞ぎ、困ったような顔で私の方を向いた。
「リリーの言うことは気にしないでくれ。プリーストってのはそういうものなんだ」
「そ、そう……」
リリーはユウの腕をポカポカ叩いている。……この二人、仲が良いな。
私は少しだけ沈んだ気持ちでリリーを見た。
彼女は私やユウと同じくらいの年齢の少女で、短い金髪と明るい青い瞳を持ち、少しタイトな修道女の服を着て、羊の角の飾りがついた帽子を被っている。
見た目はとても可愛らしい。ユウは以前、こんな人と一緒にいたのか……前に話していた内容とは全然違うじゃないか……
「ん?」
リリーは私の視線に気づいて微笑んだので、私は思わず目を逸らしてしまった。リリーはただ首を傾げただけだった。
……その後、ユウはリリーに大まかな状況を説明した。本来ならリリーの方が説明すべきなのだが。いずれにせよ、リリーは話を聞き終えると頷いた。
「ユウさんとアイさんが戻ってきた時に偶然開いた亀裂を通って、悪い人がこの世界に来ちゃった。それで今、ユウさんとエヴァさんが亀裂を閉じようとしていて、一つの亀裂を閉じたら、私が突然現れたってことですか?」
「ああ。それで、お前は直前のことを覚えてるか?」
「そうですね……クロエさんとダンジョンにいて、変な魔力の痕跡を感じたから見に行ったら、気がついたらここにいました」
クロエという人が誰かは分からないが、パーティ仲間なのだろう。
ユウは尋ねた。
「クロエは心配してないか?」
「心配してるでしょうね……でも、どうやって戻ったらいいか分かりません」
自分が元の世界ではない、ユウの世界にいると気づいたリリーは、ぼんやりと周囲を見回した。ユウは頭を掻きながら言った。
「困ったな。俺は亀裂のことはよく知らないんだ。アイが戻ってくるまで、ここにいてもらうしかないな」
今、方法を知っているのはアイだけだろうが、そのアイはどこに行ったか分からない。
私は以前、ユウにアイの携帯に電話させてみた。原始的な方法だが、それほど簡単ではない。……姿を消しただけでなく、連絡可能な通信機器を一切持っていないのだ。そのアイの携帯は今、クロイチが持っているくらいだ。
残された選択肢は、リリーにしばらくここにいてもらい、次にアイに会った時にそこから始めるしかないということだ。
「ここにいる?じゃあ、アイさんがどこにいるか分からないんですか?」
「うん」
「アイさんはすぐいなくなっちゃうんですよね。まあいいです……少なくともユウさんが無事でいるのを見られて安心しました」
リリーは明るく微笑んだ。ユウも笑顔になった。
「……」
私は黙って二人を見ていた。自分が場違いな場所にいるような気がした。
リリーはワクワクした様子で左右を見回した。
「それで、私はどこに寝ればいいですか?」
「うーん、そうだな。ソファで寝かせるのも悪いし……」ユウは考えた。「なあエヴァ……無理を承知で頼むんだけど、リリーにしばらく泊めてもらえないか?」
私は眉を上げた。
「私の家に?」
「ああ。リリーを俺と一緒に泊まらせるのは良くないだろ。お前と同じ女性の家に泊まってもらう方がいいと思うんだ」
リリーはそこで拳を叩いた。
「あら?いいんですか?」
「それはエヴァに聞かないとな。どうだ……いいか?エヴァ」
特に問題はない。この男は純粋そうに見えて、時々ちゃんとしたことを考えるんだな。
私は同意した。
「いいよ。リリーさんが嫌じゃなければ……」
「嫌だなんてとんでもない!女神様の家ですよ!入るだけでご利益がありそうです!!!」
「た、ただの普通の家だよ……」
そう否定しても、リリーの輝く瞳に私は何も言い返せなかった。
ユウは立ち上がった。
「じゃあ、決まりな。俺が送っていくよ。……リリー、アイが戻ってくるまでしばらくエヴァといてくれ」
「了解でーす!」
リリーは明るく答えた。




