Chapter 3 Confession of the Heart 03
次の日。
放課後。
「……大丈夫かな」
私は植え込みの陰に隠れながら呟いた。
目の前には、告白の定番スポットである校舎裏がある。そこに今、リカが立っていた。彼女のオーラは、私まで息苦しくなるほどの不安と興奮を示していた。
「そうだな」
「そうだな、じゃないだろ!お前は少しは心配しないのか?」
私は同じように隠れているユウを咎めた。
私たちが隠れている植え込みの場所は、校舎裏にいるリカたちからは見えないが、学校を出ていく人たちからは丸見えで、この二人が何をしているんだという変な目で見られていた。
「心配したってどうにもならないだろ。気持ちを楽にして、成功を祈る方がいい」
「お前はあいつの弟だろ。クロイチに任せるって言ったとはいえ……お前はリカに望みがあると思うか?」
昨日クロイチと話した後も、クロイチはこの件はアイを出す必要はない、自分に任せてほしいと主張した……私はあまり納得していないのだが。
「……俺がアイ様の代わりに処理いたします。アイ様が望むであろう対応を、俺が確実に実行してみせます」
しかし、そう言われてしまうと、断ることができなかった。
「望みがあるかどうか、か。俺にはわからないな」
「結局、異世界でアイに何があったんだ?クロイチが、もう誰かを愛することはできないって言ったのは……」
「あいつ、俺にはあまり何も話してくれないんだ」
「はぁ……リカにはがっかりしてほしくないな。いい子なのに」
リカは今朝、アイと会う約束を取り付けたようだ。日中、私はほとんどリカの興奮したオーラを感じ続けていた。だが、約束の時間が迫っているのに、アイ(クロイチ)の姿は見えない。
「……あの影野郎、忘れたんじゃないだろうな??」
「忘れないだろ。アイは約束を破ったことは一度もない。はは。クロイチが一分でも遅れてみろ」
アイに知れたら、確実に前線送りだ。
私たちが話していると、一人の人物がリカの方へ歩いてくるのが見えた。
「待て……」
影変身を使ったクロイチの姿は、アイと瓜二つだが、その姿が本体かどうかを見抜けるのは、スキル fake を貫通して見ることができる女神の瞳だけだ。
そして、歩いてきた人物。
「あれ、アイじゃないか!?」
私はユウの服の袖を引っ張りながら声を上げた。その体から濃い黒い魔力を感じた。
ユウは首を傾げた。
「クロイチじゃないのか?」
……こいつはアイと影の分身を見分けられないんだったな。すっかり忘れていた。
「私には魔力が見えるんだ。あれはきっとアイ本人だ」
ユウは頷いた。
「あいつらしいな……正直、こういうことは偽物に受け答えさせるのは、相手にとっても良くないしな」
とはいえ、まだ安心はできない。アイ本人だとしても、ただ自分で拒絶しに来ただけかもしれない。
休憩時間中にリカに、どうしてアイが好きなのか尋ねてみたのだが、答えは「……アイさん、優しいんです」だった。
うーん、リカがアイから何かしてもらったのかどうかは全くわからないが、それだけで言えば、二年もの間異世界にいたアイがリカに好意を返すのは難しいだろう。
ましてや、クロイチの言葉もある。
そして、リカはしばらく息を整えた後、アイに話しかけ始めた。
その内容は……
「聞こえないな」
私は二人に目を向けながら呟いた。
「女神の瞳は読唇術はできないのか?」
「魔力しか見えないって言ってるだろ。待て……お前、まるでできるみたいな言い方をするなよ」
「できるさ。リカは後ろを向いているから難しいけど、頬の動きからだいたい察しはつく」
「それは人間離れしすぎだろ!」
私は隠れて見ているだけで、二人が何を話しているのかは聞こえなかった。
そして……アイはリカに軽く頭を下げた。同時にリカのオーラが揺らいだ。
そのオーラは、悲しみだった。
リカは少し震える体でアイのそばを通り過ぎ、胸に手を強く握りしめた。
アイは彼女を行かせるだけで、引き止めようとはしなかった。
「……拒絶、か」
「残念だな……」
私たちがそう話していると、校舎裏に立っていたアイの体が突然視界から消えた。
気づいた時には。
「お前たち、何をしてる」
「キャア!!!」
アイがいつの間にか私たちの後ろに立っていた。驚いたのは私だけのようだ。
ユウは頭を掻いた。
「はは。見えてたのか?」
「盗み聞きは無礼だ……ユウはまだしも、お前は女神だろう?自分の出自を恥ずかしく思わないのか?」
おお、よくそんな口が利けるな。
私は睨みつけた。
「言っておくが、お前とリカの会話は一言も聞こえなかったぞ」
「そうだろうな」
「どうして断ったんだ……?」
私が尋ねると、アイはしばらく沈黙した。
「悪いか?」
「理由が聞きたい」
アイは面倒くさそうな仕草をしたが、ユウに軽く肘で突かれて、渋々口を開いた。
「……親しくもないのに、いきなり付き合ってくれと言われて、俺が断るのはおかしいか?」
「お前の言うことはもっともだけど、お前はリカがお前のことをすごく好きなのを知ってるだろ。付き合ってみたら……」
アイは私の言葉に舌打ちをして、吐き捨てるように言った。
「……俺の勝手だ」
「はあ!?」
私が怒り始めたのを見て、ユウが間に割って入った。
「喧嘩するなよ。……なあ、アイ。お前はリカに謝っただけで、付き合ってる人がいるとかそういうことは言わなかったろ。だったら、俺も理由が聞きたい」
「……もう言っただろ?」
「うーん、俺はそれが本当の理由じゃない気がするんだ」
「どう答えれば満足する?」
「本当のことを答えればいい」
アイはユウをしばらく見つめ、再びため息をついた。
「……弱点になる」
「は?」
私は思わず叫んだ。
「……リカが俺をどれだけ好きか知っているが、付き合えば、それは俺の弱点になる」
「なんだその馬鹿げた理由!?」
「……異世界から帰ってきたとはいえ、全てが元通りになったわけじゃない。俺はまだ、そんな生活を送れる普通の学生じゃない。……誰かを大切にすれば、敵はそこを俺を傷つけるための弱点と見なすだろう……」
ユウがアイの肩を掴んだ。
「また嘘をついてるな」
「……うるさいな」
「嘘をつくのはやめろよ」
「はぁ……もううんざりだ」アイは冷たい声で言った。「それとも、お前はリカを俺たちの問題に巻き込みたいのか?ディコイルは俺とお前、それにこいつまで狙っている。リカまで巻き込まれてもいいのか?」
「おや?これは嘘じゃないみたいだ」
「ああ」
そこで私が口を挟んだ。
「お前がもう誰も愛せないって言ったのは、リカを断った理由なのか?」
その冷たい体がわずかに揺れた。
「……影がお前に言ったのか?」
「答えろ」
「……フン」
今度はアイはそれ以上話すつもりはないようだった。ただ背を向けて歩き出した。
「アイ……」
ユウでさえ引き止めようとはしなかった。ユウは何が起こったのか知らないが、それ以上追及するつもりはないのだろう。
……私とは違って。
「誰か……失ったのか……?」
それは、クロイチの言葉を聞いた時に私が考えたことだ。
もう誰も愛することはできない……
そして、私がそう言った途端、アイの雰囲気が変わった。
魔力のオーラが膨れ上がり、息が詰まるほどの圧迫感を感じた。
ナイフのように鋭い目が、肩越しに私を睨みつけた。その視線に、私の顔は青ざめた。
「アイ!」
ユウが必死な顔で正気を呼び戻した。ユウの右手は、スキルを使う準備のためにホログラムウィンドウを開いているのが見えた。
やがて魔力のオーラはゆっくりと収縮し、アイの声が聞こえた。
「……お前たちにはわからない」
アイはそう言い残して去っていった。




