Chapter 2 The Ripple of Error 03
それを聞いて……
「待てよ!?ディコイルがこの世界に来れたのは、俺たちのせいだってのか!?」
ユウが大声で叫んだ。
アイは頷いた。
「そうなるつもりはなかったんだがな。……ここがどこか覚えているか?」
尋ねられ、ユウはあたりを見回した。
「ええと……見覚えはあるな」
「それだけかよ……」
アイは心底うんざりした態度を見せ、ユウに言った。
「ここは、俺たちが異世界から戻ってきた場所だ。……これで少しは思い出せるか?」
「そう言われると、確かにそうかもな。じゃあ、あの爆発事故は、俺たちが異世界から越境してきた場所のすぐ近くで起きたってことか?」
「近くじゃない。まったく同じ場所だ」アイは亀裂の発生場所を指差した。「この亀裂は、俺たちが戻ってきた時にできたものだ」
「もうちょっとわかりやすく説明してくんねえか?」
アイは偏頭痛に耐えるようにこめかみを揉んだ。
「……俺たちをこの世界に送り返した女神が適当だったのか、あるいは何なのかは知らんが、二週間前に俺たちを帰還させた結果、亀裂が発生した。そしてその亀裂を、この世界の人間は爆発事故だと思ったわけだ」
「おお!なるほどな!」
ユウは手を叩いた。
そして、アイは深刻そうな表情になった。
「最初は亀裂のサイズも小さかったから、俺も気づかなかったんだろう。……ディコイルが侵入した後、調べてみたら、亀裂が制御不能なほど枝分かれしていることがわかった」
この亀裂と「鍵」がなければ、誰も世界を超えることはできない、とアイは付け加えた。
ユウは顎に手を当てた。
「じゃあ、この亀裂は閉じられるのか?このまま放っておいたら、ディコイルはずっと俺たちに会いに来られるってことだろ?」
「ああ。閉じる方法はいくつかある。少し面倒だがな。だが、その前に確認したいことがある」
黒い手袋をはめた掌が、弟を指し示した。
「……お前のスキル、何が残ってる?」
「スキルか?そうだな……今は……」
……ユウが残っているスキルについてアイに説明した後、アイは唸った。
「ああ。以前のように、世界の封印のせいで、パッシブスキルしか使えなかった頃とは違うな……」
「そういえばさ……ディコイルと戦った時、お前は俺みたいに封印されてるように見えなかったぞ?」
昨日ディコイルが侵入してきた際、アイが助けに来たタイミングでは、まるで封印など存在しないかのように、アイが力をフルに使えているのは明らかだった。私が封印を解いてやらなければならなかったユウとは対照的だ。
ユウも私と同じように疑問に思っていたようだ。
アイはユウを一瞥し、ユウの反応を予測しているかのような表情で言った。
「……自分で封印を解除したからだ」
その言葉が終わるや否や、ユウはアイの襟首を掴んだ!
アイは目を細めた。
「……落ち着け」
ユウは無視して声を荒げた。
「どうしてお前だけ封印を解除できたんだよ!」
「ユ、ユウ!」私は思わず声をかけた。
この時点では、ユウがなぜアイに怒っているのか理解できなかったが、止めに入る勇気もなく、ただ困惑して二人を見つめることしかできなかった。
アイが口を開いた。
「……世界の封印は、元々『システム』のレベルの封印だ。女神以外、誰もそれに干渉する能力はない」
私がユウの封印を解けたのは、そのせいだろう。
「じゃあ、なんで……」
ユウが最後まで尋ねるのを待たず、アイが口を挟んだ。
「……お前のような奴にわかるように言うとすれば、俺が千年生きた魔法使いだからだ、ということになるな」
「あまりにも簡略化しすぎだろ!?」
……私が理解した限りでは、元々アイも世界の封印によって弱体化されていた。だが、千年生きた魔法使いと呼ばれる彼の能力のおかげで、彼は自力で世界の封印を解除することができたのだ。
ユウはしばらく俯き、それから言った。
「どうして自分だけ解除したのか、その理由を俺に説明してくれないか!?アイ!」
「……必要か?」
その言葉に、ユウはアイの襟首をさらに強く握りしめた。
「必要かだって!?昨日!何人が死んだと思ってるんだ!もし俺が最初から力を使えてたら、あの時……奴らが攻撃してきた時に!誰も死なずに済んだはずなんだ!」
それが、ユウがそれほどまでに怒りを露わにした理由だった。
食堂にいて、魔力の波動に攻撃された時、私もユウも見た……逃げ遅れた人がいたことを。アイが昨日のことを「何もなかったこと」にしたとして、亡くなった人たちにどう対処したのか、私はあまり知りたくもない……だが、人が死んだのは事実だ。
ユウが助けなかったわけではない。彼はその時できることをした。パッシブスキルしか使えない状態の彼は、助けられる人だけを助けたのだ。
体育館にモンスターが侵入してきた時も、ユウは弱体化していたにもかかわらず、それに立ち向かった。そうしなければ、体育館にいた人たち……そして私も……
その事実に、私は何も言えなかった。ユウが、昨日起きた喪失をずっと背負い続けていたことに、今、気がついたのだ。
彼が勇者だから……
アイは無表情な瞳でユウを見つめた。
「離せ……」
「答えろ!」
そこでブラッキーがユウを落ち着かせようとする仕草を見せた。
アイは再びため息を吐き出した。
「俺が自分の封印を解除できたのは、俺自身からの干渉を受け入れたからだ」
「何言ってんだ!?」
「俺が使った封印解除は、デバフ系のスキルだ。……そうだ、聞き間違いじゃない。デバフを解除するのではなく、対象にデバフをかけるスキルだ」
「……」
「その時の、お前に残っていたパッシブは……『あらゆる状態異常に対する耐性』だ。その結果、俺はお前にデバフを使うことができなかった。だから……」
「俺の封印は……解除できなかった」
「ああ……」
そして、ユウはアイの襟首から手を離した。いや……力が抜けた、という方が正しいだろう。
「お前が勇者だとしても、全員を守れるわけじゃない。……いつになったら、それを理解するんだ?」
「……」
「死んだ人間は戻ってこない。どんな世界でもだ。だから、自分の失敗をくよくよ考えて頭を痛めるのはやめろ。そうしないと、助けられるはずの人間まで助けられなくなるぞ」
アイはそう言った。
ほんのわずかだが、その言葉を口にしたアイの魔力に、彼は自分自身に言い聞かせているのかもしれない、と私は感じた。
「よしよし、ユウ~」
ブラッキーがユウの頭を肉球で撫でた。
「……泣いてねえよ」
私はユウを見て言った。
「助けられなかった人がいたとしても、ユウは私を助けてくれたんだぞ」
「うん……ありがとうな、エヴァ」
ユウは薄く笑ったが、それでも私には、ユウが背負っている「勇者」の重荷がどれほどのものなのか、まったく理解できなかった。もちろん、アイも同じだろう。
アイが口を開いた。
「じゃあ、次に状況を説明する。聞く準備はできたか?」
ユウと私は頷いた。どうやら、アイの本当の目的が始まるようだ。
……約十分後、話を聞き終えて。
「まとめると……今、俺たちはこの亀裂を一つ一つ閉じていかなきゃならないってことか?全部閉じられれば、ディコイルはこの世界に来られなくなる」
要約すれば、ユウの言う通りだろう。
二人が異世界から戻ってきたことが原因で、亀裂が発生したのだ。
「俺の推測では、俺とユウが帰還したことで次元が耐えきれなくなり、亀裂が生じた」
それが、私たちが直面している状況だ。そのせいで、この付近に肉眼では見えない亀裂ができ、異世界から来たディコイルが越境できる経路になってしまったのだ。
さらに……
「お前が見た魔力の痕跡の枝分かれは、制御されずに拡大したヒビだ。もっと早く気づいていれば、こうはならなかったが、時間を巻き戻すことはできない。だから、俺たちができるのは、全ての亀裂を閉じることだけだ」
つまり、ここ以外にも無数の亀裂が存在する。ここを閉じたとしても、他の場所を全て追って閉じなければならない。全て閉じきれば、亀裂は完全に消滅する。
そしてディコイルはこの世界に来られなくなる、というわけだ。
ユウの要約を聞いたアイは……
「その通りだ。……じゃあ、最初の亀裂を閉じるぞ。準備しろよ、ユウ」
ユウは眉をひそめた。
「準備しろって、どういう意味だ?」
「『Gate Keeper(門番)』と戦ってもらうからだ」
「言い間違えたんじゃないか?俺たち、だろ?」
「お前一人だけだ。以前はこいつに封印を解いてもらってもすぐに戻ってしまったが、お前の体に宿る封印はすでにダメージを受けている。いくつかのスキルが再び使えるようになっているはずだ」
「そうか……昨日のように全力では使えないけどな」
「ああ」
「で、どうするんだ?エヴァにまた封印を解いてもらえってか?」
それを聞いて、私はドキッとした。
ええと……こいつ、自分がどうやって力を取り戻したのか、本当に覚えてないんだな……平然とそんなことを言うなんて。
アイは首を横に振った。
「違う。俺は女神の力を理解していない。……そんなものに頼り続けるなんて、俺には受け入れられない」
私の頭は飾りかよ?
「お前が今どれだけ強いか知りたい。だから、一人で戦ってもらう。……今の、女神の力に頼らないお前自身でな」
ユウはそれを聞いて拳を合わせた。
「力試しってわけか。ちくしょう、面白くなってきた!」
それを見たブラッキーは、さっさとアイの肩に飛び移った。まあ、ユウと一緒にいるのは危ないだろうしな。
それにしても、そのGate Keeperってやつは一体何なんだ?
私が疑問に思っていると、アイは目の前の、目に見えない亀裂がある空間に向かって手を伸ばし、何かを小さく詠唱した。
ガラスが割れるような音……いや、そんな単純な音じゃない。感覚で言えば……次元が裂け始めている音だ。
その直後、地面にゆっくりと生物の体が形成されていくのが現れた。
「……亀裂は脆弱なポイントだ。システムは、たとえ意図せずできた亀裂であっても、本来破壊されるべきものではないため、保護者を生成することが多い」
その物体は徐々に巨大化していった。私とユウはゆっくりと顔を上げてそれを見上げた。
「そして、その原型はモンスターから取られるのが常だ。魔王を倒したお前なら、あらゆる種類のモンスターに精通しているだろうが……」
「待て……アイ」
「強さのパラメーターはランダムだ。とはいえ……ステータス値は上位モンスターと同程度だろう……」
「アイ!」
ユウが叫んだ瞬間、黒い影が私たちが立っている場所を覆った。眼前の生物が姿を完成させたのだ。
それは巨大な茶色のスライムのような塊で、粘液質の皮膚の下で赤い目が光っていた。にもかかわらず、そのサイズはほとんど壁のようだった。
うわあ……私は喉の奥で呟いた。
アイはそれを無表情で見つめた。
「スライムみたいだな……」
「お前の知ってるスライムと俺の知ってるスライムは違いすぎるだろ!下がれ!エヴァ!」
「あ、ああ!」
私はユウと巨大モンスターから距離を取るために後ずさりした。
「自分の心配でもしてろ。スライムに見えるが、パラメーターはキメラ並みだろう」アイは呟いた。
「バランスがおかしいだろうが!」
「はあ……」
アイはユウの文句をほとんど気に留めず、戦闘から離れるように後ろに下がった。
その一瞬、ユウは掌を払い、オンラインゲームのようなホログラムウィンドウを出現させた。指先を超高速で操作した後、ユウはそのウィンドウを払いのけ、モンスターに正面から向き合った。
前に腕を突き出し、叫んだ。
アクティブスキルを発動する。
「『Shining Sword』(閃光剣)!」




