Prologue [Prelude to Ruin]
正直、最初からこの言葉で語り出すのは気が進まない。聞き飽きたって人も多いだろう。
だけど、今の俺たちが置かれている状況を考えれば、この言葉を避けて通るわけにはいかない……まあ、いいか。俺の視点からすれば、ついさっき終わった出来事だしな……。
「ハァ……ハァ……」
目の前にあるのは、不安定に崩壊した巨大な魔法エネルギーの残骸だ。濃密すぎて鼻がツンとするほどの魔法力。並の魔物じゃこんな魔法力を持ちえない。とはいえ、それは数百年もの間、この世界を支配してきた偉大な存在の、ただの残滓に過ぎない。そして、その偉大な存在は、この俺たちの手によって討伐された。
魔王。
その魔法力の源だ。最後の一撃が決まった瞬間、俺たちは勝利を収めた。
二年にもわたる長い戦いの末に。魔王の視点から見れば、俺たちはただの駆け出し冒険者でしかなかったはずなのに、突如として魔王を倒せるほどに強くなった、というだけの話だろう。
もし俺が魔王だったら、さぞ悔しいに違いない。
「また……お前たちのような者に、我らが打ち滅ぼされることになるとは」
にもかかわらず、息も絶え絶えのその声は、驚くほど静かだった。
まるで、心の底で受け入れていたかのように。
「『異世界からの旅人』……ったく、どの時代も、お前たちは我らに厄介事ばかり持ち込む……」
「……」
「そこまで警戒しなくてもいい。魔王核を失った今、お前たちを傷つける力など残っていない」その先に待つのは死だけだと、魔王はそう言った。
そして、視線を動かした。
「どうせ、もうすぐ死ぬ……少し話でもしたい。たとえ、話し相手が、お前のような異世界人であろうとも」
俺たちは何も答えなかった……数時間にも及んだ戦闘だ。精神的な疲労が蓄積し、立っているのがやっとだ。今、どうにか姿勢を保っているのも、限界を超えている。
もし、最後に俺たちが成功していなければ、死んでいたのは俺たちのほうだった。
運が良かった……。
この最初で最後の魔王戦の結果は、そういうことだと俺は思っている。ただ運が俺たちに味方した、というだけだ。
「剣士と魔術師。支援役なし……異世界人には想像を絶する力があるとはいえ、まさか人間二人に討伐されることになるとは夢にも思わなかった」
「単に、運が良かっただけだ……」
信じられないほどの強さ。無限の魔法力。俺たちのような異世界人ではない冒険者なら、どうやってこのレベルの存在に対処できたのか、想像もつかない。
俺は目を閉じた。その瞬間、魔王が尋ねてきた。
「兄弟か?」
俺は淡々と答えた。
「……双子だよ」
「そうか……二人とも強いな」
それから、魔王は俺の横に立つ青年に視線を向けた。
彼は漆黒の長いローブを身に纏い、髪も同じ色だ。瞳は鮮やかな赤。手には、先端が刀身のような形をした奇妙な杖を持っている。遠距離戦も近接戦も弱点がない、一般的な魔術師を遥かに凌駕する彼の能力にはふさわしい。
彼は『アイ』。俺の双子の兄だ。
「……お前の魔法力は、我らと瓜二つだ」
魔王は薄く笑いながらアイを見た。
アイは顎を上げ、鋭い視線を向けた。
「俺を、お前らと一緒にしないでくれ」
「……」
「ここまで来るのに、俺が何を犠牲にしてきたか。お前なんかに……お前なんかに……」
黒い手袋を嵌めた手のひらが、鬱屈した感情と……そして、恨みを込めて強く握りしめられた。
「戦には犠牲がつきものだ。我々の側も多くを失った。滅亡と言ってもいいだろう」
「ああ、そうだな」
「我はもう長くないが、もし、お前が亡くなった者のために、この死にかけの体に怒りをぶつけたいというのなら……そうするがいい。千年魔術師よ」
千年魔術師……アイはそれを聞くと、一瞬動きを止めた。
「ちっ……」
そして、不機嫌そうに舌打ちし、魔王に背を向けた。
「死にかけの人間を殺して、何になる?……ユウ、お人好しのお前なら、そいつの最後の頼みを聞いてやりたいんだろう?俺は外で待ってる」
そう言って、アイは最後のダンジョンと呼ばれ、魔王の住処でもあった大広間から出て行った。
広間には、俺と魔王の残骸だけが残された。
「お前が……『ユウ』か?」
魔王は俺の名前を呼んだ。
「ああ」
「あの魔術師とは正反対だな。だが、あの魔術師が言ったように、たとえ死ぬ前の願いであろうと、冒険者としてのお前の役目は、我を討伐することのはずだ」
「もう死にかけだろう?俺はただ、お前が言いたいことを聞くのを手伝ってるだけだ」
「フフッ、それはそうだな」
魔王は息を吐き出し、魔法力が流れ出している自身の魔王核を見た。魔法力が尽きれば、魔王の時も終わる。
「言い残したいことなど、何もない。もしあるとすれば……お前たちに敗れたのが悔しい、ということだけだ」
「そうか」
「だが……一つだけ忠告しておこう」
魔王はそう切り出した。
「お前の双子の兄弟は、我々と同じ魔法力を持っている。いや……それ以上だ。将来、その力を利用しようとする者が現れるかもしれん……家族として、そんなことが起こらないよう、気をつけろよ」
「お前に言われなくても、そうするつもりだ」
魔王は薄く笑った。俺はその顔を見て、実際には魔王も思っていたほど悪くないのかもしれない……と感じた。
いや、そんなことは誰も認めないだろう。だから……
おかしいのは……たぶん、俺自身だ。
「それで、これから……お前は何をするつもりだ?」
「ん?」
「我を討ち果たした勇者は、爵位、金銀、名声……それらを手に入れる。だが、そんなものは、一瞬で飽きてしまうものだ。お前のような者は、こんなところで立ち止まるべきではない」
確かに、それは俺たちを待っているものだ。今、王国に戻れば称賛を受けるだろう。
しかし……
「いや、俺のこの世界での使命は、お前を倒すことだった」
「では……?」
「これから俺が欲しいのは、ただの簡単なことだけだ」
もう二年になるのか。
振り返ると、きっと懐かしく感じるに違いない。
魔王はしばらく俺を見つめた後、目を閉じた。
「そうか……幸運を祈る」
声が終わると同時に、既に損傷していた魔王核が爆発した。ガラスが砕け散るような音が広間全体に響き渡った。
俺はその光景を見た。この世界を数百年間侵略してきた魔王が、打ち滅ぼされる光景を。
俺は深く息を吸い込み、安堵の声を上げた。
「さて……元の世界に帰る時間だ」
……ここは『異世界』だ。
俺が物語の冒頭で使いたくなかった言葉。
ともあれ、今、俺たち双子の長い旅は終わりを告げた……安らかな元の世界へと帰還する。
そして、その待ち望んだ帰還が、一体何を一緒に連れ帰ってしまうことになるのか……それを、俺たちはまだ知らないのだった。
日本語はまだ勉強を始めたばかりで、タイ語から手探りで翻訳しております。
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