第7話 切れる“信頼”と、見えるはずのない数字
冒険者ギルドには、朝から怒号が飛んでいた。
「崖を降りてたらロープがぶっちぎれたんだ! 死ぬところだったぞ!」
「洞窟探索中だった俺もだ! 信じて使ったのに、なんでだ!」
受付の者たちは謝罪に追われ、場は荒れている。
バルドは額を押さえながら、悠真の前に立った。
「ロープが信用できねぇとなりゃ、冒険なんざ成立しねぇ。……原因を見てくれ。」
「了解。」悠真は短く返す。
隣のリネが首を傾げる。
「ロープなんて、強い素材を撚って作るだけじゃないんですか?」
悠真は、ゆっくり説明した。
「“撚りの締め”と“湿度管理”、仕上げの“熱処理”。どれが欠けても弱くなる。
冒険者用ロープは、職人ごとに品質差が出やすい製品だ。」
リネは真剣な目で頷く。
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市場調査
ふたりは市場で複数のロープを買い、手触りと撚りの密度を確かめた。
見た目は同じ“獣筋繊維”。
だが、硬さも、締まりも、湿度もバラバラだった。
「同じ素材でも、職人ごとに品質が違う。」悠真が言う。
「つまり、“当たり外れ”が出る。」
「……ルドさんの剣と同じですね。」
リネは、痛いほど理解していた。
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負荷試験
郊外の空き地。木にロープを括り、力をかけ、擦り、濡らし、再度引っ張る。
ほとんどは耐える。だが――一本だけ、あっけなく破断した。
パンッ。
「これは……危ない……」リネは息を呑む。
「このロープの工房へ行こう。」悠真は静かに言った。
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ロープ工房
製造元の職人は真面目そうな男だった。だが注文増加により、検査工程を省いていた。
「確認に時間がかかるんだ……でも、急がなきゃ……」
悠真は淡々と言う。
「作業を省くのは技術じゃない。事故の原因だ。」
職人は言葉を失った。
そのとき、工房の扉が開いた。
「――事故の原因など、鑑定で一瞬だ。」
白衣に金の刺繍。
フォルンが立っていた。
リネは微かに肩をこわばらせる。
フォルンはロープに手を触れ、淡い光を宿す。
《鑑定:耐久A 品質良好》
「……っ!」リネは目を見開く。
「でも実際は弱いのに……!」
フォルンは薄く微笑む。
「鑑定は“神の眼”。異世界人の数字遊びに劣るはずがない。」
悠真は、真正面から言う。
「なら、証明しよう。鑑定と実測、どちらが命を守るか。」
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公開試験
街の広場に冒険者と市民が集まる。
バルドが宣言した。
「ロープの強度比較試験を行う!」
フォルンが鑑定で選んだロープ。
悠真が試験で選んだロープ。
両方に重りを吊り下げ――
――先に切れたのは、フォルンのロープだった。
ざわめき。どよめき。困惑。
フォルンの表情は変わらない。
だが声は冷たかった。
「……興味深い。
だが“実測至上”は王国の根幹を揺らす。いずれ、正式な場で決着をつけよう。」
彼は背を向ける前にリネへ視線を向ける。
「リネ=ファルネア。まだ戻れる。」
リネは震える胸を押さえ、はっきりと言った。
「私は……見て、確かめて、作れる職人になりたい。」
フォルンの瞳が一瞬だけ揺れた。
だが彼は言葉を残さず去った。
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王城
静かな会議室。
フォルンは報告していた。
「実測を基準とする異世界人。放置すれば鑑定制度は崩壊する。」
老臣たちが頷く。
「……排除せよ。」
異世界に来たただの技術者に、王国の影が動き始めていた。
つづく




