表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鑑定スキルに頼らない男、異世界で品質を叩き直す  作者: やしゅまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/18

第4話「武器と嘘の重さ」

王都エルディア西区、鍛冶職人街アイアンストリート


赤く燃える炉の光が石畳を照らし、鉄を叩く音が通りを満たしていた。

その喧噪の中を、神崎悠真とリネ=ファルネアは歩いていた。


「新しい依頼ですよ。“聖銀剣”が折れた事件の調査だそうです。」

リネが報告書を読み上げる。

「鑑定結果はどれもA級。でも、実戦で数回振っただけで真っ二つ……」


悠真は眉をひそめ、折れた剣を手に取った。

断面を覗き込み、無言で指先を滑らせる。


「……内部に空洞。鋳造の際、魔力冷却を省いたな。」


「省いた……つまり手抜きですか?」


「量産優先。見た目だけ整えて“高品質”を装った。どこの世界でもある話だ。」


リネは肩をすくめた。「でも、王国公認の鍛冶ギルドがそんな……」


悠真は短く息を吐いた。「神託より、数字の方が嘘をつかない。」



調査を進めようと、鍛冶職人たちに話を聞く。

だが、皆が同じ言葉で答えた。


「悪いが、あの工房のことは話せねぇ。命が惜しい。」


聖銀剣を製造したのは《ヴァルハイト工房》。

王国から独占認可を受けた大ギルドだ。

内部告発など、した瞬間に職を失う。


リネが不安げに言った。「暴いたら……あなたまで狙われますよ?」


悠真は苦く笑った。「俺が信じるのは数字だけだ。数字は脅せない。」



裏路地に入った時だった。

小さな背中が鉄屑を拾い集めているのが見えた。


「おい、少年。何してる?」


少年は驚いて振り向いた。

煤だらけの顔に、真っ直ぐな瞳があった。


「……素材の再利用です。俺、鍛冶見習いなんで。」


名はルド。十五歳。

手にしていたのは、自作の剣。

だが鑑定では「Bランク・失敗作」と断定され、廃棄されたという。


悠真はその剣を受け取ると、近くの試験台に置き、ハンマーを振り下ろした。

ガンッ――火花が散る。


「……歪まない。」


もう一撃。

それでも刃は折れず、僅かに欠けただけだった。


悠真は静かに言った。「この剣、聖銀剣の三倍は丈夫だ。」


ルドの目が揺れる。「そ、そんな……だって鑑定はBで……!」


「鑑定は見た目しか見ない。お前のは鍛造温度が均一だ。理想的な仕上がりだよ。」


リネが笑った。「つまり、ちゃんと“汗で作った本物”ってことですね。」


悠真は立ち上がり、ルドに手を差し出した。


「協力してくれ。お前の剣を、数字で証明する。」



三人は廃工房を借り、比較試験を始めた。


硬度計を叩き、魔力流動を測定し、衝撃試験を行う。

結果は明白だった。


・聖銀剣:初撃で亀裂。内部に魔力の偏り。

・ルド剣:三十回の打撃にも耐える。熱処理も均一。


「……これが“鑑定A級”と“B級”の差、ですか?」

リネが皮肉っぽく呟く。


悠真は静かに答えた。「見栄えだけ立派なブランド製品だ。中身はスカスカ。」


ルドは拳を握りしめる。「俺たち見習いは、鑑定で全部決まるんです。

努力しても、神の声ひとつで“失敗”になる……!」


悠真はノートを閉じた。「なら、俺たちが証明してやる。数字で。」



ギルド長バルドに試験報告を提出すると、

男は目を丸くした。「本当に折れねぇのか、その剣?」


「見ますか?」悠真が手に取る。

彼は聖銀剣とルド剣を机に置き、同じ角度で叩きつけた。


聖銀剣――真っ二つ。

ルド剣――無傷。


バルドはしばらく沈黙し、やがて笑い出した。


「ハハッ……お前ら、面白ぇ! ヴァルハイトの鼻を明かしてやろう!」



査察当日。

ヴァルハイト工房の幹部たちが怒声を上げた。


「転移者風情が我らを侮辱するか!」

「神託の鑑定を否定するとは不敬だ!」


悠真は黙って前に進む。

手にした剣を机の上に置き、無言で叩きつけた。


パキンッ――聖銀剣が折れる。

続けてルド剣。

鈍い音を立てたが、形はそのままだ。


「見た目は立派でも、中身が腐ってりゃ命は守れねぇ。」

悠真の声が静かに響く。

「俺たちは“神の声”じゃなく、“命の現実”を守る。」


リネが隣で頷く。

「鑑定より、実測が人を救うんです。」


バルドが立ち上がり、宣言した。

「これが本物の職人だ。神の鑑定より、職人の汗を信じる!」


拍手が広がり、工房の空気が一変する。

ルドの頬を涙が伝った。


悠真はその肩を叩き、笑った。


「お前の剣は合格だ。これからは――“試験局”の技術士として働け。」


「はいっ!」



夕暮れの職人街。

リネが呟く。


「……あなた、本気でこの国を変えるつもりですね。」


悠真は歩きながら答えた。


「嘘を“検査不合格”にする。それが俺の仕事だ。」


炉の火がゆらめき、三人の影を長く伸ばした。

その日、異世界に“品質試験局”という新たな信頼の灯が灯った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ