第18話「証明された未来」
王都ミドルブリッジ――議会堂・大評議室。
重厚な扉がゆっくりと閉じられ、室内に緊張が満ちていた。
今日、この国の“真理”が書き換えられる。
円形の議場の中央に立つのは、神崎悠真。
その背後に、リネ。
そして反対側には、マリアとフォルンが並び立つ。
議長が口を開いた。
「……本日議題は、王国評価制度の改定について。
“鑑定”の絶対性に疑義が生じたことを受け、その補助・補完手段としての“品質試験法”の採用可否を問う。」
議会員たちがざわつく。
「鑑定は神々の贈り物だぞ?」
「それを“人の手の測定”で補うなど……」
反発の声は予想通りだ。
だが、今回は悠真一人ではない。
マリアが一歩進み、静かに頭を下げた。
「私、マリア=クローヴァは……かつて、鑑定こそが真理と信じていました。
神託に従い万能薬を生み、その効果を“鑑定”が保証すると信じていました。」
会場が息を飲む。
マリアは続けた。
「しかし、その薬は……人を救うどころか、徐々に身体を蝕んでいた。
私が信じた真理は、間違っていたのです。」
議会員の一人が震えた声で問いかけた。
「……では、鑑定は偽物だと言うのか?」
マリアは首を横に振った。
「いいえ。鑑定は視点です。
薬の“どの側面が強く見えるか”を映す、鏡のようなもの。
しかし鏡は――見る人の立ち位置で像が変わります。」
視線は自然とフォルンへ移る。
フォルンは息を吸い、胸に手を置いた。
「私は、鑑定を“世界の物差し”と信じていた。
だが私は、再審問で見たのです。
鑑定はゆらぐ。
持つ者の魔力、精神状態、環境……そのすべてによって。」
議会は静まり返っていた。
「だからこそ、必要なのです。
揺らぐ“見立て”を、揺らがない“測定”が支える。
鑑定と試験――どちらか一方では、真理には届かない。」
言葉は震えていたが、迷いはなかった。
そして悠真が前に出る。
「俺は異世界人です。
だが、この世界で命を救おうとしている人は、現実にいる。
職人も、冒険者も、薬師も。」
悠真は机に、三つの記録簿を置いた。
・剣の実測硬度
・薬草の成分分離表
・ロープの耐荷力曲線
数字は静かだ。
しかし、その沈黙の中に“再現性”がある。
「鑑定は、必要です。
だが、“確かめる手段”がなければ、人はまた同じ悲劇を繰り返す。」
悠真はゆっくりと言った。
「俺は……誰も、失いたくない。」
その言葉に、リネがそっと横を見る。
議員たちは、互いの表情を読み合い……
議長が静かに槌を鳴らした。
「――議決。」
短い沈黙。
そして。
「王国は“品質試験法”を、鑑定制度に並ぶ第二基準として採用する。
名称を――《王国品質標準(RQS)》とする。」
場内がどよめいた。
悠真は、深く息を吐いた。
マリアはほっと微笑み、フォルンは肩の力を初めて抜いた。
リネは、涙ぐんだ目で悠真を見た。
「……やりましたね。」
悠真は照れくさそうに目を逸らす。
「いや、俺だけじゃない。
三人でやったんだ。」
マリアが小さく頷く。
「ええ。三人で。
“信仰”と“論理”と、“確かめる勇気”で。」
◇
夕暮れ。ギルド裏庭。
試験器具を干すリネの横で、悠真は水を飲んでいた。
「ねえ、悠真さん。」
「ん?」
「世界、ちょっと変わりましたね。」
悠真は少し考え、笑った。
「……そうだな。
でもまだ始まったばかりだ。」
リネが首を傾げる。
「次は、何します?」
悠真は空を見上げ、真面目な顔で言った。
「便利で安全で、安くて壊れないポットでも作る。」
リネは全力で頷いた。
「それ大事です!!!
料理中に爆発する鍋、ほんと多いんですから!!!」
悠真は笑い崩れた。
◇
ギルドの玄関に、新しい看板が掛けられる。
『品質試験室』
主任:神崎悠真
助手:リネ=ファルネア
技術顧問:フォルン=エルグレア
錬金監修:マリア=クローヴァ
小さな部屋。
だが、ここから世界が少しずつ変わっていく。
――今日もここで、“確かめる”ことが始まる。
完




