第17話「三人でつなぐ真理」
王都ミドルブリッジ――大通りはいつも通り喧噪に満ちていた。
だがその中に、ひそやかなざわめきが交じっている。
「聞いたか? 公開再審問の結果……」
「鑑定は絶対じゃないらしい」
「新しい基準……“品質試験”とかいうやつだ」
その噂は、商人の間から職人、そして冒険者へと広がり、まるで見えない波が押し寄せるように王都全域へ拡散していた。
しかし――同時に、もっと重い圧力も動き出していた。
王立鑑定院。
彼らは、揺らぎ始めた“権威”を守るために、静かな牽制を各所へ送っていた。
「冒険者ギルドは、神崎悠真への協力を即時中止せよ」
「鑑定に対抗する基準の公開は、国家秩序への挑戦と見なす」
ギルド長バルドは、卓上の書状をぐしゃりと握った。
「……面倒なことになったな」
だが、悠真は肩の力を抜いたまま椅子に寄りかかる。
「想定の範囲内です。焦る理由はありません。」
バルドは苦笑するしかない。
「お前はほんっと肝座ってんな。」
悠真は首を横に振った。
「座ってなんかない。ただ――数字は、逃げません。」
その言葉に、バルドはふっと笑った。
「……信じてるんだな。お前自身の“やり方”を。」
悠真は答えなかった。ただノートに新しい観測値を書き込む手を止めない。
◇
同じ頃。
王立錬金学研究棟、その一室。
魔導灯の下、フォルンは机に広げた数枚の測定表を見つめていた。
鑑定結果と、実測値の比較表。
硬度。魔力伝導率。腐食耐性。薬効持続時間。
そのどれもが――わずかに、あるいははっきりと、鑑定と異なっていた。
フォルン
「……鑑定は絶対ではない。
だが、無価値でもない。
では……どこに差異が生まれる?」
フォルンは再び計測器を手にする。
魔力を最小限に抑え、条件を一つずつ変えていく。
“鑑定に影響する因子”を探るために。
だが。
計測中の手が、ふっと止まる。
フォルン
「これは……“揺らぎ”だ。」
声が震えていた。
「同じ素材でも、持ち手の状態、使用者の魔力、意識……
その変動によって、鑑定は揺れる。」
――“絶対”ではなく、“傾く”技術。
フォルンは目を閉じた。
心の奥底が、静かに崩れ落ちていくような感覚。
そこに、扉の音が響いた。
「フォルン。」
白銀の髪が揺れる。
マリア=クローヴァ。
元・鑑定絶対主義者。
しかし、悠真に敗れ、“結果”を見つめる道を選んだ人。
フォルンは視線を逸らした。
「……笑うといい。私が、ようやく気づいたと。」
マリアは首を振った。
「気づくのが遅いことは、恥じゃないわ。
気づかないまま“信仰”に逃げることが、本当の敗北よ。」
フォルンの喉が震えた。
「私は……怖い。
私は信じていた。鑑定こそが“世界の真理”だと。
それが揺らぎ始めている。
私は……何を信じればいい?」
マリアは手を伸ばし、フォルンの震える手に触れた。
「信じればいい――“自分で確かめる”という選択を。」
その言葉は、静かで、優しくて、逃げ道がなかった。
フォルンは、ようやく涙をこぼした。
「……私は、“真理”を見たい。
誰かが決めた正しさではなく。
世界が、確かにそこにあるという実感を。」
マリアは微笑んだ。
「なら、行きましょう。
私たちはもう――悠真さんと“同じ場所”に立てる。」
◇
夕刻。
ギルドに戻った悠真は、扉が開く気配に顔を上げた。
立っていたのは――フォルンとマリア。
フォルンは一礼した。
「神崎悠真。
私は――真理を確かめたい。
あなたの“測るという道”に、同行させてほしい。」
悠真は少しだけ驚き……そして笑った。
「ようこそ。面倒な現実世界へ。」
リネがぱっと笑顔になり、バルドは深く頷いた。
その瞬間――
“鑑定”と“品質試験”
――二つの力が、初めて並んで歩き始めた。
そしてこの出会いが、次の“最終の戦い”を導くことになる。




