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鑑定スキルに頼らない男、異世界で品質を叩き直す  作者: やしゅまる


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第16話 運命の再審問

王都ミドルブリッジ・中央議会堂。

重厚な石造りの大ホールは、今日に限っては人波とざわめきに満ちていた。


――公開再審問。


鑑定院の権威を揺るがした男、神崎悠真。

その真偽を、国と民の前で裁く場である。


円形の実験台の中央に、悠真は静かに立っていた。

その姿は怯えも傲慢もなく、ただ一点の静かな集中を宿していた。


対して、審問官たちは高席に並び、厳しい視線を投げかける。


「神崎悠真。そなたは、鑑定制度の不備を主張した。

 ならば証明してみせよ――“鑑定を超える精度を”。」


審問官の声が響く。


「ただし――条件はそちらには不利とする。」


係官が告げる。


「測定器具の持ち込みは禁止。

 使用できるのは――鑑定結果と、ここにある素材のみ。」


実験台に置かれたのは、一本の剣、万能薬、一本のロープ。


会場がざわつく。


(……まさに、俺が検証してきた三つか。)


悠真はわずかに口角を上げた。


審問官が言う。


「鑑定は“絶対”。

 それが揺らぐとするならば――世界の根幹は乱れる。

 その覚悟があるのか?」


悠真は一歩前へ出た。


「覚悟なら初めからしている。

 俺は“危険になる前に気づける現実”を広めたいだけだ。」


ざわめきがさらに強まる。



だが。


悠真の視線がゆっくりと机に落ちたとき――わずかに眉が動いた。



硬度計も、引張計も、成分分離もできない。

目と手触りだけでは、鑑定値に勝てる証拠は残せない。


(……困ったな。)


だが、観客席の奥で――

金色の髪が、かすかに揺れた。


フォルン=エルグレア。


その表情は、昨日の弱さではない。


静かな、決意の灯る目だった。


(……来ていたのか。)


だが、フォルンは手を動かさない。

彼は今、鑑定院の一員として、何もできない立場にある。


すべては悠真一人に託されている――はずだった。


審問官が声を張る。


「さあ、始めよ。」


それは、断罪の鐘の音のようだった。



――ガラッ。


突然、大扉が勢いよく開かれた。


「ど、どいてください! 通してっ!」


忙しなく駆け込んできたのは、茶色の三つ編みを揺らした少女。


リネ=ファルネア。


彼女は胸に抱えた箱を必死に支えながら、壇上へ走り寄る。


「ま、待ちなさい! 入場は許可されていない!」


係官たちが止めようとする――が。


リネは振り返り、大きく叫んだ。


「これは――フォルンさんが!

 あなたに、託したんです!!」


会場が、一瞬で静まり返った。


悠真の目が大きく開かれる。


リネは震える手で箱を開いた。


中には――


再設計された硬度測定器。

改良されたロープ張力試験器。

薬草の抽出分離装置。


すべて、フォルンが夜通し作り直したもの。


そして――その設計図。


筆跡は、確かにフォルンのものだった。


会場にいる全員が気づいた。


――鑑定院の鑑定士が、制度の外に立った。


その意味は重い。


フォルンは観客席の奥で、ただ静かに立ち尽くしていた。


震える拳。

だがその目は、もう揺れていない。


悠真は、深く息を吸った。


そして、測定器を受け取る彼の指は、まるで何百回も握ってきたかのように自然だった。


「ありがとう。……両方にな。」


リネは涙を堪えながら笑う。


「見せてください。悠真さんが、信じてるもの。」


悠真は、観客席の奥へ視線を向ける。


フォルンは、ただ一言だけ口の形で伝えた。


――確かめろ。


悠真はうなずく。


「始めよう。」


その声は場内に染みるように響きわたった。


「真理は――測定から逃げない。」



悠真はまず、剣を測る。


硬度測定器の数値は、鑑定結果とわずかに違った。


次にロープ。


引張強度は“鑑定よりも高い”値が出た。


そして薬草。


分離抽出した成分は、鑑定では「無価値」とされた毒中和物質を示していた。


会場が息を呑む。


審問官の目が見開かれる。


(鑑定は……完璧では、ない……?)


悠真は言う。


「鑑定は素晴らしい技術だ。

 だが、絶対ではない。

 補うための“検証”が必要なんだ。」


すべては、静かな、ただの事実。


その言葉を否定する者は、もはやいなかった。



その時――観客席の奥。

フォルンは小さく息を吐いた。


(……視えた。

 ただ一つの、揺らがない真実が。)


――真理は、目を背ける者にこそ背を向ける。


彼は、自分の歩くべき道を理解した。


「私は……研究者になる。」


その呟きは、誰にも届かなかった。

だが確かに、未来に届き始めていた。


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