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鑑定スキルに頼らない男、異世界で品質を叩き直す  作者: やしゅまる


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第14話 査問会開廷(公衆の前の真実)

王都ミドルブリッジ中央議事堂――

そこは“真理を決定する場所”として知られていた。


巨大な円形広間。

観覧席には貴族、学者、そして市民までもが詰めかけている。

壇上には王国鑑定院の紋章が掲げられ、その下に三名の審問官が座っていた。


中央に立たされているのは、神崎悠真。


両手は拘束こそされていないが、視線は無数の刃のように注がれていた。


審問官の一人が、朗々と声を響かせた。


「これより開廷する。“異界の試験官”神崎悠真による“鑑定冒涜行為”について――真理に照らして裁定を下す。」


場内がざわつく。

リネは傍聴席の最前列に座り、唇を強く噛んだ。


(どうして……“確かめただけ”なのに)


フォルンは、別席で審問補佐として立っていた。

彼の表情は硬い。

それでも、胸の奥では――“何か”が軋んでいた。



第一審問官が質問を始めた。


「神崎悠真。貴様は王立錬金学会の研究物“エリュシアの雫”に対し、“効果不安定・過剰摂取で中毒を起こす危険あり”と断定した。

 その根拠を述べよ。」


悠真は短く息を整え、静かに口を開く。


「複数のサンプルを分解し、保存環境を変えて経過観察した。

 結果、湿度と温度により薬効が大きく変動した。

 鑑定結果では“常に安全”と出るが、実測値では不安定だ。」


審問官の一人が鼻で笑った。


「つまり、貴様は“鑑定”より自らの実験を信じると?」


「そうだ。」


即答だった。

その揺るぎない声に、場内がざわつく。

審問官たちは苛立ちを隠せず、次々に畳みかける。


「鑑定は神の眼による真理である。

 人の手による観察など、誤差と偏見の塊に過ぎん。」


「……誤差を恐れて何もしないなら、危険は永遠に気づけない。」


「何を――!」


審問官の拳が机を叩く音が響いた。

だが悠真は、動じない。

その目には“冷静な怒り”があった。


「鑑定は“今この瞬間”しか見ていない。

 だが現実の素材も薬も、人間も――時間で変わる。

 “真理”を名乗るなら、経過も見るべきだ。」


短い沈黙。


フォルンが、その言葉に息を呑んだ。


(……経過を、見る……)


頭の奥で、あの時の暗殺者の言葉が蘇る。


“真実が民に届けば、秩序が崩れる。”


――秩序か、真実か。


心の中で、フォルンの“鑑定眼”が初めて揺らいだ。



しかし、審問官たちは冷ややかだった。


「強弁だな。証拠となる器具や試料は全て没収済みだ。

 実証もできぬ口論に、何の価値がある。」


悠真は表情を変えず、わずかに手帳の名残を思い出すように言った。


「……器具を奪っても、記録は消せない。

 現象は再現される。数字は、再び同じ道を描く。」


リネが小さく立ち上がりかけた。

しかし衛兵に制止される。


「待ってください! 悠真のデータは――!」


「静粛に!」


広間に怒号が響く。

リネは震える拳を膝に押し当て、歯を食いしばった。


(何も……できないの?)


悠真は振り返らず、ただ前だけを見据えていた。



第一審問官が最後の言葉を告げた。


「神崎悠真。貴様の行為は“王国基盤である鑑定制度への冒涜”であり、民を惑わす危険思想である。

 明日、再証明審問にて正式な断罪を下す。」


その瞬間、広間に響く鉄槌の音。


フォルンは、反射的に一歩前に出た。


「お待ちください!」


ざわつく場内。

審問官が眉をひそめる。


「……何だ、フォルン=エルグレア。」


フォルンの額には汗が滲んでいた。

言葉を選びながらも、彼は言った。


「神崎悠真の理論――全てが虚偽と断ずるには、尚早かと。

 私が見た“現象”がある。鑑定が通らぬ環境下で、彼の手法が敵を――」


「黙れ。」


上席の審問官の冷たい声が遮る。


「王国が定めた真理に“例外”は不要だ。

 揺らぎを許せば、世界は崩れる。」


フォルンは歯を食いしばる。

だが、もうそれ以上は言えなかった。


彼の中の“鑑定士”と“人間”がせめぎ合っていた。



審問が終わり、悠真は再び衛兵に囲まれて退出する。

リネは必死に声を押し殺した。


「悠真……!」


悠真は足を止めない。

ただ一度だけ、振り返ることなく言葉を残した。


「大丈夫だ。真実は、証明できる。」


リネの目から、涙が一筋こぼれた。


――そして、フォルンはその背中を見送りながら、心の奥で初めて確信した。


(……この男は、“神”ではなく“人”を信じている。)


その夜、王都の空に風が吹いた。

閉ざされた真理の都に、わずかな“揺らぎ”が生まれた瞬間だった。


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